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ある清掃バイトで起きた不思議な話  作者: waku


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2/3

呪縛の別荘

 隆たちは、別荘の草刈りと片付けのアルバイト代が良かった事から申し込んだが、

まつかの怪奇現象に見舞われる事になった。この原因を解明できるのだろうか?

【雨の前兆】


翌日の作業開始直前、空が急変した。


「おかしいな」佐藤が空を見上げる。「天気予報では晴れだったのに」


厚い雲が山を覆い、ぽつりぽつりと雨粒が落ち始める。瑞希の表情が曇った。

「私たちの存在に気づかれたのかもしれない」


隆が振り返る。「どういう意味ですか?」


「実は君たちには黙っていたが」佐藤の声に重みが宿る。「今回の作業は偽装でもあったんだ。霊的な影響を避けるため、この土地に縁のない人間に草刈りを頼んだ。だが、私が足を捻った時点で――」

「バレたのね」瑞希が呟く。「私を連れてきた時点で、完全に。霊は私たちを値踏みしている」


祐樹が首を振る。「霊だの何だのって、単なる偶然でしょ?迷信ですよ」


長谷川も同調する。「私も心霊現象は信じないタイプです」


佐藤の目が真剣になった。「信じる信じないは君たちの自由だ。だが、この土地には確実に『何か』がいる」


雨脚が強くなり、作業は中止となった。


その夜、雨は止む気配を見せなかった。


夕食後、瑞希は和室の隅で祭壇に向かい合っていた。白檀の香煙が立ち昇り、古い経文の文字が揺らめく炎に照らされている。彼女の瞳には深い集中が宿っていた。


「この場所には封じられたものがある」瑞希の声が静寂を破る。「祠と井戸――どちらかが結界の要石よ」

その時だった。


パチ……パチ……


どこからか、何かが焼ける音。全員が顔を見合わせる。


「今の音は?」

梶原が立ち上がりかけた瞬間、照明が明滅した。直後、玄関から「トン……トン……」と、規則的な叩音が響く。


隆の声が裏返る。「誰か来たんですか?」


佐藤の顔が青ざめた。「この雨の中、訪問者はありえない。絶対に扉を開けるな」

今度は裏口からも。二箇所同時に――まるで「入れて」と懇願するように。


瑞希が息を呑む。「完全に目を覚ました……」


長谷川と漣が部屋の隅で身を寄せ合う。漣が物干し竿を握りしめた。


「何かあったら、これで――」

「待て!」佐藤が制止する。「相手はこの世の存在じゃない。刺激すれば取り憑かれるぞ」

重い沈黙。瑞希が立ち上がった。


「今は干渉してはいけない夜。私が鎮めの儀を行います」

隆が震え声で問う。「次の段階って?」


「庭と倉庫の整理は効果があった。でも足りない。霊の根はもっと深い――明日、井戸を調べたいの」

井戸の二文字に、佐藤が息を詰まらせた。


「やはり避けては通れないか……」


「封印の鍵はそこにある」


雷鳴が轟いた。窓の外で何かが横切る影――全員が目をそらす。


「今夜は絶対に一人にならないで。霊は心の隙を突いてくる」


ドーーーーン!


雷が近くに落ち、振動が建物を揺らした。


「うわっ」「キャッ」

突然、停電。暗闇の中で佐藤の声が響く。


「動くな、その場にいろ」

やがて電気が復旧し、雷音が遠ざかる。瑞希は再び香を焚き、儀式を始めた。外の叩音は、いつの間にか止んでいた。


しかし、その静寂がかえって不気味だった。


【夜明けの真実】


重苦しい夜が明けた。


朝食を終えた一行が玄関の戸を開けた瞬間――全員が息を呑んだ。

窓ガラス一面に、無数の手の跡。


大人のものから子供の小さな手まで。泥と埃が混じった跡が、内側からは不可能な位置にびっしりと残されていた。


「ひっ……!」長谷川の膝が震えた。理性では「誰かのいたずら」と思いたいが、あの手の跡の生々しさが脳裏から離れない。心臓の鼓動が耳に響き、口の中が渇いていく。


隆も漣も言葉を失う。背筋を這い上がる悪寒に、誰もが身震いした。

震え声で漣が呟く。「僕たち……本当に助かるんでしょうか」


沈黙の中、佐藤が答えた。


「今日は井戸の清めを行う。水の底を鎮めることが第一の鍵だ。それが終われば祠も順次――必ず終わらせよう」


その声には決意があった。だがその決意すら、どこか頼りなく聞こえた。

隆は手の跡から目を離せないまま、拳を握りしめる。


翌朝、空は雨雲を手放していた。

地面は濡れていたが、清めの儀には申し分ない天候。瑞希が供物を準備する――果物、塩、米、そして日本酒。


即席の祭壇を作り上げ、彼女は手を合わせた。


「安らかに眠り給え。清められ給え」


全員がそれに続く。風もなく、空気は不思議なほど静かだった。瑞希が古の言葉を唱え始める。その響きが湿った空気に染み込んでいく。


 日本酒を井戸の周囲に注ぎ、最後に井戸の中へ。柔らかい香りが周囲に漂った。

ふと、隆が顔を上げる。


空気が変わった。


 重くのしかかっていた感覚が、わずかに和らいでいる。見えない何かが一歩退いたかのように。

「井戸の清めは無事終了したようだ」斎藤が皆に向かって頷く。「この調子で残りの祠も」

午後五時前、三つの祠すべての清めが完了した。山の夕暮れは早い。太陽が木々の向こうに隠れる頃、一同はようやく一息ついた。


【深淵からの呼び声】


再び雨が降り始めた。


「これで解決したのでしょうか……」長谷川がぽつりと呟く。

「まだわからない」瑞希の答えは素っ気ない。

「とにかく一歩前進したのは確実だ」佐藤が言った。

夕食後、瑞希は再び祭壇の前に座る。香煙の向こうで、彼女の表情が揺らめいて見えた。


「この場所には封じられたものがある。祠と井戸――どちらかが結界の要になるはず」

その時だった。


カサ……カサ……


畳の上を何かが這う微かな音。そして壁の向こうから――


「……かえして……」

女の声が風に紛れてささやかれた。


全員が息を呑む。


「聞こえたか?」梶原が震え声で問う。


瑞希が静かに頷いた。「完全に目を覚ました。無念を抱いた、深く強い念……」

照明が明滅し、玄関から「トン……トン……」という叩音が響き始めた。


夜半過ぎ。隆は汗びっしょりで目を覚ました。


夢の中で真っ暗な井戸の底に引きずり込まれていた。井戸の中には髪の長い女がいて、血のような瞳で彼を見つめ、ゆっくりと手を伸ばしてきて――


その手が足首に触れた瞬間の冷たい感触が、現実のものとして残っていた。

隆は布団を跳ねのけ、自分の足首を見下ろす。

そこには泥のような指の跡が、はっきりと残っていた。


同じ頃、他のメンバーもそれぞれ悪夢にうなされていた。長谷川は誰かに名前を呼ばれ続け、漣は家族の顔が次々と溶けて消えていく夢を見た。


明け方。玄関の戸を開けると――

再び、無数の手の跡。内側からは不可能な位置に、びっしりと。

その場にいた誰もが、本能的に何かがそこにいたことを理解した。


【井戸の底で】


翌日の朝、瑞希が告げた。

「次は井戸の中を調べる必要がある」

場が凍りつく。佐藤が口を開く。

「そこまでやる必要があるのか?」

「昨日までの清めで外側の穢れは払えた。でも一番深い所は井戸の中にある可能性が高い。放っておけば、いずれまた力を取り戻す」

隆が覚悟を決めたように言う。「僕が行きます」


「一人では危険すぎる」瑞希が制止する。「霊的なものに触れれば、最悪……命に関わる」

祐樹が立ち上がる。「僕も行こう。調査用の機材を用意する」

夕方近く、井戸の調査が開始された。瑞希が再び祈祷を始める。

「この地を荒らす意志はありません。真実を知り、静め、祓うための行動です」

ロープで降下していく隆。ヘッドライトが井戸の内壁を照らす。

しばらくは濡れた石の壁が続く。が――

「何だ、これ?」

カメラの映像に不自然に積まれた石、その奥に板のようなもの。

「封印よ……古い結界。無理に動かせば――」

その瞬間、隆のライトがちらつき、映像が乱れる。白い手のようなものが画面を横切った。

「誰かいる!下に誰か……!」

ロープが激しく揺れる。井戸の底から吹き上がる冷気、風に混じる呻き声。

「かえせ……かえせ……」

三人が一斉にロープを引く。隆が引き上げられた時、全身は氷のように冷たく、腕に無数の引っかき傷が浮かんでいた。


震える手で隆が呟く。「下に……何かが封じられていました」


【物置の秘密】


昼食後、一行は物置部屋へ向かった。

雑多な古道具は処分済みで、がらんとした空間が広がる。しかし物がなくなったことで、かえって異様な静けさと重苦しい空気が際立っていた。


瑞希が札を取り出し、入り口の柱に貼る。

「念のため、ここも封じておく」

「中に何か気配がある。さっきまで気づかなかったけれど、今ははっきり感じる」

瑞希の額に汗が滲んだ。


 隆が部屋の奥へ足を踏み入れる。中央の床に亀裂のようなものが見えた。

「これ……ただの床じゃない」

漣がライトで照らすと、亀裂の隙間から細い和紙が覗いている。隆がそれを引き抜こうとすると、紙はべっとりと濡れ、腐敗臭が漂った。


「古い結界……何かを封じていた」

その瞬間――


「ゴン……ゴン……」


部屋全体が揺れた。


「地震か?」


「違う……この部屋の下から!」


瑞希が亀裂の上に札を貼ると、音がぴたりと止んだ。

「ここ、掘る必要がある。ここにも何か封じられてる」

佐藤が決断した。「床を調べよう。電動ノコギリを持ってこい」


道具を取りに向かう途中、漣が隆に話しかけた。

「あの、隆君」

「うん?」

漣は声を落とした。「正直言って、ここにいるのヤバくない?確かにバイト代は悪くないけど、どう考えてもおかしいよ」

その目は真剣で、声にはわずかな震えがあった。


「逃げ出すって選択肢、ありじゃない?瑞希さんも佐藤さんも、何か隠してる。俺たち、巻き込まれてるんじゃ……」


隆は足を止めて考え込む。


「たしかにそうだね。今晩、佐藤さんに正直に話そう。これ以上は無理だって」

漣が安堵の笑みを浮かべる。「うん、それなら筋も通るし……バックレたら働き損だもんね」

二人は道具を抱え、重い足取りで物置部屋へ戻った。


床を切断し、土を掘り進める。20分ほどで、シャベルが硬いものに当たった。

「何かある……」


土を払い除けると、陶器の容器が現れた。

「骨壺だ」


場の空気が止まる。


掘り進めると次々と骨壺が現れる。全部で五つ。誰にも看取られることなく、この場所で眠っていたのだ。


「これで成仏できなかったのかもしれない」長谷川がつぶやく。

瑞希が経を唱えると、白い煙がゆっくりと天井に昇っていく。不気味だった空気が、わずかに和らいだ。

午後五時を回った頃、一行は静かに別荘へ戻った。


【選択の時】

夕食後、隆が意を決して佐藤に話しかけた。

「佐藤さん……このバイト、辞めさせてもらえませんか?」

「バイト代を減らしてもらって構いません」

場の空気が重くなる。佐藤はしばらく考え込んだ。


「辞めるのは自由だ。日給も日割りで払う。だが……」

佐藤の表情が陰を帯びた。


「これまでにも何度かアルバイトを雇った。しかし途中で辞めた人間には……その後、奇妙な事故や行方不明、突然の病死といった不幸が続いている」

背筋に冷たいものが走る。


「私たち……呪われてしまうんですか?」長谷川が震え声で問う。


「正直、危ない。だが一つだけ方法がある――瑞希さんの正式なお祓いを受けることだ」

ほっとしかけた次の瞬間。

「ただし、費用は一人当たり40万円かかる」

沈黙が部屋を支配した。


「通常なら数カ月待ちで100万円はかかる。今回は特別価格だ。暴利をむさぼっているわけじゃない」


「でも……いきなりそんなこと言われても」

「ただし、最後まで付き合ってくれれば祓いは無料。加えて特別ボーナス15万円を支給する」

驚きと戸惑いの声が漏れる。


「中途半端に辞める方がリスクが高い。選ぶのは君たちだ」


祐樹が隆に小声で話しかけた。


「どうする? 隆……」


「ああ……」


隆は答えあぐねていた。漣も、最初に強く反対していたにもかかわらず、どこか迷いの色を浮かべている。他のメンバーも同様だった。それぞれが複雑な表情を浮かべ、黙り込んでいる。


やがて、隆がゆっくりと口を開いた。


「……分かりました。俺は、続けます。あと一週間だけなら、まだ何とかなるかもしれません。正直、ここまで働いてマイナス十九万円じゃ、他のバイトを探す時間も必要だし……。今のところ、俺自身に直接的な被害は起きていないので。もちろん、ヤバいと感じたらその時点で辞めさせてもらいますけど」


漣が小さくうなずいた。


「……俺も、もうちょっと様子を見るわ」


他のメンバーも、次第に隆の意見に同調していった。ただ、その場にあったのは単なる納得ではなく、明らかに「納得せざるを得なかった」という雰囲気だった。


「でも……」瑞希が静かに口を開いた。「ここまで、私たちに何も知らせなかったのは、やっぱり納得できません」


漣も続ける。「初めから分かっていたなら、せめて説明はしてほしかった。バイトって、そういうものじゃないでしょ?」


佐藤はしばし沈黙し、やがてため息混じりに言った。


「……確かに、それは私たちの落ち度かもしれない。想定外だったとはいえ、情報を伏せていたのは事実だ」


そして、佐藤は言葉を続けた。


「だから、謝罪の意味も込めて、追加で五万円をボーナスとして支給しよう。それで納得してもらえるかは分からないけど……」


静まり返った部屋に、再び沈黙が落ちた。だが、その空気の中に、ようやく一つの「決意」が滲み始めていた。



 購読、ありがとうございました。

書き始めて行くと思っている以上に物語が終わらなかったです。


 前半は、あまり怖くないままでしたが、終盤に向けて怖くなって行く可能性もあります。



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