王家のティータイム
読みに来て下さり、ありがとうございます。
ヘンリエッタは、皇后の庭園のガゼボに通された。手入れが行き届き、咲き誇る花々を眺めていると、鈴を転がすような軽やかな声が掛けられた。
「来てくれて嬉しいわ。ヘンリエッタ。」
ヘンリエッタは振り向くと、また一段と美しくなった彼女に微笑む。
「ご無沙汰しております。クリスティーナ様。」
そして、そのクリスティーナに手を握られてゆっくり歩いてくるケイトにヘンリエッタはカーテシーを取った。
「皇后陛下。ご機嫌麗しく。」
「ええ、来てくれてありがとう。メルトンで一番忙しい女性の貴女に、会えるのを楽しみにしていたわ。」
三年前にドラメント伯爵家を出て、国王となったオーバルとの結婚を果たし皇后となったケイト。彼女は以前と変わらず、ヘンリエッタと懇意にしている。ある意味、メルトンで彼女の一番の後ろ盾であり理解者となっていた。
そして、四ヶ月後には第一子の出産を控えている身重な状態だった。
一方のクリスティーナは、直十七歳になる。本格的なデビューを控えた彼女は、人々を惹きつける愛らしさはそのままに、表立って天真爛漫な言動が無くなり立派な大人の皇女へと成長していた。
ただ、この三人が集まった時だけは以前のままの愛らしい彼女に戻るのだ。
三人はテーブルを囲んで、早速お喋りに興じる。
「次の新作も期待しているのよ。前回の新作は、あっという間に皆に広まったわ。今日のケイトのドレスも素敵!こんなマタニティドレスが着れるなら、妊婦も悪くないなぁ。」
ケイトのレースやシフォンをふんだんに遇い、かつ動きを妨げないドレスは、早くも貴族令嬢達の注目を集めている。
クリスティーナの言葉に、ヘンリエッタは頷く。
「ありがとうございます。今は半年後の舞踏会に向けて、シェリーン様と準備を進めております。ケイト様の産後のドレスやアンダーウェアも楽しみにしていて下さい。」
今や上皇后となったエミリア、皇后ケイト、皇女クリスティーナが身に付ける普段着からドレスは、王家の女性達の専属デザイナーであるシェリーン・サマンという女性と共同して作る事になっている。シェリーン自身にも、納得いく品質の物を作るのでドラメント伯爵領の絹製布が王室御用達になることが出来たのだ。
クリスティーナは、ケイトと視線を合わせてからヘンリエッタに向き直り言った。
「ヘンリエッタ、イリウスお兄様が四年ぶりに帰国なさるの。」
ヘンリエッタは、声も無く目を僅かに見開いてクリスティーナを見返した。そして、ケイトの方を見る。
視線の合ったケイトは、無言でヘンリエッタに頷いた。
クリスティーナは、話を続ける。
「妻のマリアナ妃と、三年前に生まれた王子を連れてね。その半年後の舞踏会に、出席する予定よ。」
「そう、…ですか。」
ヘンリエッタは、持っていたティーカップとソーサーをそっとテーブルに置いた。
クリスティーナの言う、半年後の舞踏会というのはリュシウォンが初めて異性をエスコートして出席するものだ。
「貴女が舞踏会に出席するかしないかは別として、伝えておかなきゃと思って…。」
ヘンリエッタは自身の多忙な生活の為に、この四年間は真面に社交場に現れていない。
そして、イリウス帰国の知らせは、まだ新聞には掲載されていない。
「…ありがとうございます。先に教えて下さって。」
異国の元婚約者の情報を、ヘンリエッタは特に集め無かった。
彼女に情報を流すトマスも、気を遣ってか彼のことは新聞の記事以上の事を言って来なかった。
「結婚されて以来、初めての帰国ですね。久しぶりに、ハドソン家の四人兄妹が揃うなら上皇后様もお喜びになるでしょう。」
「ええ、そうね…。」
何とも言えない表情のクリスティーナと、落ち着いた表情で見守るケイトにヘンリエッタは柔らかく微笑んだ。
「心配させてしまって、申し訳ありません。私は、大丈夫のようです。」
「そんな!…、申し訳無いと思わないで。心配しないわけ無いわ。だって、…だって貴女は私にとって大事な友人なのよ。」
クリスティーナの方が、泣きそうになっている。そんな彼女の手を隣に座るケイトは握り、頷いてヘンリエッタを見た。
位が高ければ高くなるほどに、自分に近付いて来る人間を見極めなくてはならない。
彼等の人間関係が、国政に影響を及ぼす事があるからだ。そんな中で損得無しに心から信頼して繋がる者を得続けるという事は、なかなか容易では無い。
ヘンリエッタとイリウスの婚約が解消になって、当人達以外でそれを特に悲しんだ者はケイトやクリスティーナかもしれない。
そして世間に広まる前に、二人が自分に知らせてくれたその心遣いにヘンリエッタの胸は温かくなった。
(もう、四年前になるのね…。ものすごく、前の事の様だわ。)
久しぶりに、イリウスの話を聞いても驚く程に冷静にいるヘンリエッタがそこにはいた。
「ねぇ、ヘンリエッタ…。カイエンお兄様の手紙は、読んだの?」
「…、はい。」
「一緒に舞踏会に来るのでしょう?」
クリスティーナの探るような問いに、ヘンリエッタは少し躊躇する。自分の望みを叶えてきた者がする、当然としたその振る舞いに彼女は口を閉じる。
「クリスティーナ様、ヘンリエッタ様は帰国されたカイエン様にまだお会いしてもいないのですよ。舞踏会のパートナー以前に、二人がお話しする事が先ですわ。」
「あ、そうよね。ごめんなさい、ヘンリエッタ。」
「いいえ。」
カイエンの話はそこで終わり、三人は舞踏会での衣装デザインについて話を興じた。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
次回投稿は明日20時です。




