青々と茂る土地は 上
第六章に入ります。
お願いします!
リュシウォンの年齢設定を二歳上げています。
領地を見下ろせる丘に、涼やかな風が吹き抜けていく。日差しの強い夏の終わりは直ぐそこまで来ている。皆が待ちに待っている実りの秋は、もうすぐそこまで来ているのだ。
護衛のアルマは、こちらに向かって黙々と歩いてくる二人に気が付いた。こちらに向かってくる一人が、嬉しさに興奮気味であるのを必死に抑えているのは付き合いの短いアルマの目から見ても明らかだった。
そして、アルマの主もまた彼等の到着を待っていたと知っていたので、彼女は直ぐに自分と同じく主の後ろに控えている気の知れた侍女にその事を告げた。
侍女のアンは、新参の護衛アルマからの報告を受け来訪者を確認すると墓前に跪いている主にそっと声を掛けた。
「お嬢様、お越しになりました。」
侍女の声を聞いて、ヘンリエッタはスッと立ち上がって振り向いた。
彼女の動きに合わせて、背中に流れていた豊かなブロンドがふわりと弧を描く。
かつて、無残に切り落とされ失われたブロンドは、侍女アン達の手厚い手入れやシェフが作る栄養満点の食事によって見事に復活した。否、失われる以前より数段上の美しさを得ているようにも見える。
とは言え当のヘンリエッタは、領地滞在中には自分のなりに一切の華美さを求めない、動きやすさ重視なのでお嬢様と呼ばれるにはかなり不釣り合いな簡素なワンピースを身に纏っていた。けれど、その飾らない気安さもまた領民達から彼女が愛される一つなのである。
ヘンリエッタは、弾けるような笑顔で言った。
「リュシー、良く来たわね。」
その声に、リュシウォンは嬉しそうにヘンリエッタの元に掛けてきた。男性側も、王都ではこんな行為あまり許されない事だけれど…。
「リタさん、お待たせ!休暇が待ち遠しかった。」
「進路が決まっているとはいえ、入学前だから仕方が無いわ。入寮や引っ越しの手続きは、上手くいったの?」
ヘンリエッタの言葉に、リュシウォンは頷く。
彼は、十五歳になった。春からは、メルトンの大学校に入学と学生寮への入寮を控えている。その手続きの為に、領地に来るのが遅れていたのだ。
その彼が領地に来る時は、ドラメント伯爵領地で過ごしている事が増えたヘンリエッタにとって毎回成長を感じる嬉しい時間となっていた。
そう、この四年ヘンリエッタの生活は王都や社交界から離れていた。
その理由を、ある者に聞けば王族との婚約破棄で傷心して田舎に引っ込んだと言い、また別の者に聞けば、異例の婚約破棄を逆手に王族から莫大の慰謝料を得たからだと言う。
だが、そのどちらとも正解では無いと言うのが、彼女の実際の生活ぶりだった。
◇◇◇◇◇
この四年で、ドラメント伯爵の領地の様子は随分と様変わりした。ヘンリエッタの母が眠る丘から見える景色も、ガラリと変わっている。
麦畑ばかりだった地は、桑畑が増え蚕を育てる小屋が幾つも建てられた。そして遠くには、製糸や製布が行える近代的な建物が何棟も見える。
個人で染色や仕立てをする工房も、沢山増えた。何処の工房も、技術向上に余念が無くドラメント伯爵領の養蚕業から得た絹地を見事な衣服や装飾品に生まれ変えさせている。
そう、ヘンリエッタがイリウスから一方的な婚約破棄をされた事に対し、ドラメント伯爵は王族側に対して物理的な慰謝料では無く始動し始めた養蚕業のバックアップを請求したのだ。そして、そうして生産された布地は短期間に品質が高い物に仕上がった。
ヘンリエッタが王都や社交界から遠のいた理由は、この養蚕業の成功が大きい。
当初の予想より遙かに大規模と化した養蚕業は、次男、三男等の財産相続権を持たない者達だけでは無く、女性達や孤児達に至るまで領地の多くの民が従事し、その恩恵を受けることとなった。
それがスムーズに行えた理由の一つに、ヘンリエッタが元々領地の識字率を上げていた事が要因として大きかった。
二つ目に、ヘンリエッタ達が作り上げたその絹製品を、現在皇后となったケイトと現国王の母エミリアが王宮御用達とし彼女らが広告塔となったのだ。そのことが、ドラメント伯爵家の絹製品を国内の社交界の貴族だけでは無く、海外まで手広く顧客を獲得する事に繋がった。
三つ目は、ハローティとサバナの紛争が避けられなかった事。絹製品で世界を台頭していたサバナの情勢が狂い、世界中で絹製品の価格が急激な高騰をした。そこにメルトンからドラメント伯爵家の絹製品が出回り、ヘンリエッタの予想を遙かに短縮して彼女達は海外進出を果たしたのだ。
その為、ヘンリエッタは事業の多忙さから王都の屋敷より領地や商談の為にあちこちを飛び回る生活ぶりとなっている。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます!
次回投稿は明日20時です。宜しければお付き合い下さい。




