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帰ってきた真紅のハンカチ 下

読みに来て下さり、ありがとうございます。

サクッと楽しんで下さい。


 ドラメント伯爵は王宮に留まり、ヘンリエッタだけ先に屋敷へ帰された。

 帰宅した彼女は、出迎えた者達への挨拶もそこそこに自室に引き篭もった。窓際の長椅子にもたれて、ぼんやりとする。


 そして彼女の視線は、戻された真紅のハンカチを捕らえた。


 イリウスが役目を果たして無事に戻って来るよう、メルトンの伝統に沿って赤土に願いを込めて染め上げたハンカチ。けれど…。


(私の願いは、叶わなかった…。)


 イリウスが帰って来なかったという事実と、それによって自分達の婚約は解消されてしまったという事実。


 そして、それを決めて動いたのはイリウス自身の意思によるもの…。


 どちらも、ヘンリエッタの知らぬ間に決まって実行されてしまった。そして、また彼女の知らぬ間に、話しは新たな方向へと動いている。

 ヘンリエッタの意思など、まるで関係なく…。


(なんて、やるせないの。)


 すると、部屋の扉がノックされた。


 心配げな侍女のアンに頷いて、訪ねてきた者を招き入れた。そこにはティーセットを持ったケイトがいた。


「ケイト様…。」


 目を丸くするヘンリエッタに、ケイトはお茶の準備を始めた。


「ごめんなさい、貴女が大変なときに。少しでも、貴女の力になりたくて。」


 ハドソン公爵家から、ドラメント伯爵家に移り住んだケイトは、心安まる生活を取り戻してみるみるうちに本来の元気な姿になっていた。

 けれど、そんな彼女も今回のヘンリエッタ達の婚約解消は無関係とは言い難く、苦しんだ。


 ヘンリエッタに、温かなお茶を出してケイトは言った。


「ごめんなさい。私が貴女に誤っても、どうしようも無い事だけれど。貴女が私を助けてくれたように、私も貴女の力になりたい。」


 そんなケイトに、ヘンリエッタは首を振る。


「そんな事…。ありがとうございます。」


 彼女は出されたお茶に口を付けた。


 相変わらず、ケイトの煎れるお茶は美味しい。

 ヘンリエッタは、何度となく彼女から美味しいお茶を煎れる方法のレクチャーを受けていた。


 お茶を口にした分だけ、心が温かくなった。


「美味しいです…。また、教えて下さい。」

「勿論よ。今のお茶に合う、お菓子もあるわ。」


 ヘンリエッタは、勧められたジャムクッキーを口にした。サクリと軽い口当たりのクッキーとアプリコットジャムは、口の中で溶けた。


「美味しい。」

「無理のない程度で、また貴女に美味しい物を準備するわ。」

「ありがとう、ございます。」


 ヘンリエッタの冷たくなった手を握り締めてから、ケイトは部屋を出て行った。


 それから、食欲は無いが料理長がヘンリエッタを元気づけようと準備した食事を摂り、侍女が甲斐甲斐しく周りの世話を焼くのをヘンリエッタは受けながら、湯浴みを終える。

 周りの気遣いや優しさが、嬉しくもあり辛くて無力感一杯だった。


(どうしたら、良いのかしら…。)


 日が落ちて、薄暗くなった部屋でランプの揺れる灯りをヘンリエッタは眺める。

 彼女の体は酷く疲れているのに、気持ちだけはザワザワとしていている。


(眠れないわ…。お父様も、まだ帰られていないし。)


 小さな溜め息を付いたヘンリエッタの後ろで、コトリと音がした。アンは既に下がらせているし、何だろうと思って振り向けばリュシウォンが扉から顔を出した。


「リュシー…。」

「ノックもせずに、ごめんなさい。」

「良いわよ、いらっしゃい。」


 ヘンリエッタの言葉に、リュシウォンは嬉しそうに彼女の元へ駆けてきた。そして、彼女の隣に座る。


「どうしたの?」

「リタさんが、元気ないから…。」

「ふふふ、貴方にまで心配を掛けているわね。ごめんなさい。」


 ヘンリエッタの言葉に、リュシウォンは首を振った。


「リタさん、…もう誰も居なくなったよ。」

「そうね…。」

「どうして…、リタさんは我慢しているの?リタさんが、一番傷付いているのに。」


 リュシウォンは手を伸ばすと、隣に座るヘンリエッタに抱き付いた。そのまま、ギュウッと力を込める。


(あぁ…。)


「大きくなったのね、リュシー。」

「うん、メルトン(ここ)に来てもう少しで一年になるからね。」

「そうね、…あっという間だった。」

「うん…。」


 リュシウォンの温もりに、ヘンリエッタの固まっていた心が僅かに震えた。

 その震えは、次第に大きな揺さぶりとなり彼女の本音を引き出した。


「手紙も、伝言も託さなかったというのが、イリウスらしいわ…。最後だというのに…。」

「本当にそうだね。」


 ヘンリエッタは、そのままリュシウォンの腕の中で泣いた。溢れた涙は、止まることなくどんどんと溢れて頬を伝う。

 彼はそんな彼女を抱き締め続け、その晩は一緒に眠りに落ちた。


 ◇◇◇◇◇


 ドラメント伯爵が王宮から戻った三日後の朝、一つの新聞記事が世間を騒がせる事になる。


『ハドソン公爵家とドラメント伯爵家、婚約解消。イリウス氏は、ハローティのマリアナ姫と新たな婚約を!それに伴い、メルトンはハローティと新たな同盟関係を締結する。』










最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

次回投稿は、後ほど。

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