帰ってきた真紅のハンカチ 上
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イリウスを除く、公爵一向は無事にメルトンに帰国を果たした。
事前に話を聞いていた夫人は、分かってはいたがいざ息子の居なくなった現実を目の当たりにして酷く落ち込み伏せってしまう。
そして、ドラメント伯爵とヘンリエッタは王宮から召集される事となった。
◇◇◇◇◇
「ヘンリエッタ、これを…。」
公爵は、真紅のハンカチを一枚ヘンリエッタに差し出した。それは、ハローティに旅立つイリウスの為にヘンリエッタが準備して託した物。
「すまない…。私から、返すことになってしまって。」
「いいえ…。」
差し出されたハンカチを、ヘンリエッタはそっと受け取った。
「息子からは、伝言も手紙も預かっていないんだ。親の私から言うが、本当にすまない…。」
ヘンリエッタは固まったまま、そのハンカチに目を落とした。
申し訳なさげな公爵の後ろから、国王の静かな声が降ってくる。
「其方達の婚約は、解消する事になる。これは、もう決定事項だ。」
ヘンリエッタの体は、ビクリと跳ねた。持ったハンカチを、何とか握り締めたまま小さく頷いた。
「この借りを、王宮側はどう返されるおつもりですか?」
静かな大広間に、ドラメント伯爵の飄々とした声が響いた。
ヘンリエッタは青い顔のまま、隣の父を仰ぎ見た。伯爵は、この状況において薄笑いさえ浮かべて壇上の国王を見据えている。
無言の国王の変わりに、公爵が応えた。
「陛下は、ドラメント伯爵家の望む物をと仰っています。」
伯爵は、にこりとして言う。
「望む物、ですか?娘が本当に望む物は、叶えられないというのに?」
「それは、そうですが…。」
言い淀む彼等に、伯爵は言った。
「先ずは娘を、屋敷に帰して頂きたい。彼女は、酷く疲れていますから休ませたいのです。私が残りますから、話し合いとしましょう?」
「お父様…。」
「そうですね、構いません。」
ヘンリエッタを余所に、周りの男達は話を進めていく。
「お父様…!」
伯爵は、漸く隣の娘を見た。彼女の左肩に手を置いて、和やかに言った。
「リタ、後のことは何も心配要らないよ。私に任せて、先に帰っていなさい。」
「ですが…。」
娘を見詰める父は、笑顔であるのに有無を言わせない雰囲気を醸し出していた。
(ああ…。)
ヘンリエッタは悟った。
もう婚約に関して、自分は本当に蚊帳の外の立場なのだと…。
◇◇◇◇◇
「そうか、決めたのか…。」
戻って来た息子の話を聞いた父は、呟くように言った。息子が、そう決断を下さざるを得ない事は明らかだった。
ハローティは、技術は発展した国だがそれを潤す程の資源は無い。だから、侵略と同盟とを駆使して自らの国を繁栄させて来た歴史がある。
近年は、周りの国々からの非難もあってか、以前の様なあからさまな侵略を行う事は減った。けれどサバナの様に、事実上併合されている国も多い。
裏から、どう暗躍してくるか油断のならない国…。
ハローティが、メルトンとの血縁を望むのは面子を潰された訳では無い。メルトンは、一年中農産物を生産し輸出出来る農業国家でハローティもその恩恵を受けている。
中規模だが、鉱脈を有している為に資源にはあまり困っていない。
その豊かさを、ハローティは欲している。
そこまで考えた公爵に、息子は真紅のハンカチを差し出した。
「父さんから、…ヘンリエッタに、返して欲しい。」
父は頷いて、ハンカチを受け取る。
「手紙か、伝言は?」
父の問いに、息子は首を振る。
「一生分、恨まれても仕方が無い位ヘンリエッタを傷付けるし、俺は何も言える立場じゃない。」
「そうか…。」
「母さんに、よろしく言っておいて。次に会うのは、結婚式のときだろうから、それまで元気にって。」
「ああ、そうだな。お前も、元気で。」
父の言葉に、イリウスは柔らかく微笑んで頷いた。
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次回投稿は、明日20時です。




