イリウスの受難と 下
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ハローティの統治者、シュバルツ氏には妻以外に八人の愛人がいた。その全てとの間に複数の子どもを設け、その子共達が他国との血縁と同盟を結ぶ材料となってきた。
そんな環境下のマリアナは、子供達の中で特別な存在だった。
彼女は、彼の最後の愛人との間に生まれた唯一の娘なのだ。
マリアナの母は、身分の低い貴族の出身だった。けれど、その可憐な容姿と不釣り合いな淫乱さ、そして卓越した人とのやり取りで直ぐに野獣の様なシュバルツ氏の心を摑んだ。
彼の女を漁る様な行動が無くなり、マリアナの母の元だけに通う様になる。彼女の家族や親類を登用し、一気に豊かにした。
マリアナが生まれれば、他の子共とは違い舐めんばかりに可愛がった。統治者として恐れられていた父を、彼女は生まれる前から手玉に取るように育ってきた。
だから、マリアナは女だからといって男に遠慮も無いし、無条件に自分の未来を受け入れる事もしないと決めた。そして、それを父に受理させ書面化したのだ。
そんな彼女が、イリウスを見て胸は高鳴った。
(見た目は、素敵な方。でも中身は、どうかしらね…?)
父や兄の様な粗野な言動が無く、ぐいぐいと迫るマリアナにも紳士的なイリウスに彼女の心は決まった。
◇◇◇◇◇
そんな愛娘の、政略結婚という形であれ、せめて本人の意思を尊重しようとする親の特別扱いが見て取れる。
黙っているイリウスに、マリアナが言った。
「貴方が私の妻としての地位を守ってくれるなら、他に想う女性がいても構わないわ。」
イリウスは、マリアナを見た。彼女は、彼を正面から見据える。
「貴方に婚約者がいることは、知っているの。その女性の事を、無理に忘れるなんて出来ないでしょう?」
目を見開くイリウスに、マリアナは微笑んだ。
「けれど貴方の決断は、必ずメルトンの益になるわ。」
イリウスは、マリアナから目を逸らして伏せる。
(ヘンリエッタ…。)
そこに、タティンの重たい声が投げられた。
「どうされる…?」
イリウスは一刻黙っていたが、やがて目を開くと彼等を見返した。そして、はっきりと言った。
「この話、お受け致します。マリアナ姫と、結婚を見据え婚約致します。」
イリウスの言葉に、にこりと微笑むマリアナと目を伏せ頷くシュバルツ氏。タティンは、その中で冷静に言った。
「それでは、同盟の内容を取り決めよう。それから、城内にイリウス殿を受け入れる準備を進める。」
こうして、イリウスの新たな婚約とハローティ残留が決まった。
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