モヤモヤとした心 上
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イリウス達がハローティに出立した数日後、留学に出していたウィルが無事に帰国した。領地に戻る前に、王都の伯爵邸に挨拶の為に顔を見せに来た。
「よく戻って来てくれたわ、ウィル。元気そうで良かった。」
「はい、ありがとうございます。お嬢様。」
ヘンリエッタとウィルが嬉しそうに話すのを、窓辺の椅子に座ってみていた伯爵が言った。
「養蚕を始める準備は、しておいたよ。」
「あの、申し訳ありませんが…?」
ヘンリエッタと伯爵を怪訝な顔で交互に見るウィルに、彼女は言った。
「私の父よ。ドラメント伯爵。」
「えぇ!?申し訳ありません!!」
「ははは、随分と留守にしていたからね。領地の若者達には、忘れていたよ。」
「本来は、笑い事ではありません。」
ぴしゃりと言う娘に、伯爵は「ごめんねぇ。」と軽い感じで言う。そんな父に溜め息を付きつつ、ヘンリエッタはウィルの話を促した。
「ハローティと、サバナの直接対決は早かれ遅かれ恐らく真逃れません。周りが言うには、サバナは長期戦は望めないと…。」
「そう…。」
「私がいた場所は、サバナと交流があったのですが、養蚕を始めるなら今から始めると繭が出来上がり流通させる時には商機になるかと思います。」
(お父様が言っていたのは、この事なの…。)
ヘンリエッタか父を見ると、彼はのんびりとお茶を啜っていた。
「でも、サバナにハローティに盾突く様な力があるの…?」
ヘンリエッタの問いに、ウィルは首を傾げる。
「表向きは一国家としてやっていますが、利権の多くがハローティに渡ってしまっています。サバナが動けば、ハローティはこれを機に併合するつもりなのでしょう。」
「そうとなれば、始めるのは早い方が良いのね。」
「はい、とにかく繭を作り上げて商品としての評価を得なくてはなりません。領地に戻って、直ぐ取り掛かります。」
「お願いね。」
領地に向かうウィルを見送り、ヘンリエッタは異国へ旅立った婚約者を思った。
(イリウスは、私が予想していた以上にややこしい場所に行ったのね…。)
「今回の公務は、イリウス様にとってもハドソン公爵家にとっても難しい決断を迫られるかもしれないね…。」
「お父様…?それは、どういう事ですか?」
隣で首を傾げる娘を、伯爵は微笑んで見下ろす。
「その時が来れば、分かるよ。まぁ、私の予想は外れるかもしれないし、起こりもしていない事を心配してもね…。」
そう言うと、伯爵はついっと向きを変えひらひらと手を振って去って行った。
(お父様が、こんなに長く留まるなんて思わなかった。それとも、留まる理由が何かあるという事なの…?)
王都に戻って来た伯爵は、毎朝登城して帰宅は遅くなる事も多かった。
けれど相変わらず、何を考えているのか、何を知っているのかを明かさない父に、ヘンリエッタは聞く事さえ躊躇っていた。
(お仕事の事なら、聞いても絶対に教えては下さらないわね…。)
ヘンリエッタは、遠ざかっていくその後ろ姿を見て思った。
◇◇◇◇◇
それから三日と開けず、ドラメント伯爵家の領地から、ウィルの指示の元にすぐ養蚕が始まったとノートンから報告が来た。
父が予想していた以上に環境を整えていたらしく、直ぐに蚕の卵を購入したらしい。
「何もかも、お見通しって事なのね。」
手紙を見て呟く主に、お茶を準備していた侍女のアンは振り向く。
「早かったでしょうか?申し訳ありません。」
「あ、ごめんなさい。違うのよ。頂くわ。」
「はい…。」
そうして、ヘンリエッタの前には温かなお茶が運ばれてきた。
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次回投稿は、明日20時です。




