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闇夜に差し込んだ光 上

読みに来て下さり、ありがとうございます。

サクッと楽しんで下さい。

 

 ケイトの静養所に集まった同僚達は十名程。その誰もが、抑鬱状態が酷くベッドの上で丸まったまま動かなくなっていた。


 診察に来た医師は、薬ばかりでは無く本人達の気持ちの置き所や生活習慣を変える事も必要だと言った。けれど、元々が研究や学問で数々の成功を積んだエリートばかりの彼等が、今回の件でプライドや経歴をズタズタにされたという現実にケイト自身もどう促せば良いのか分からない。


 そして彼女自身も、表面上は無傷で有るのだが、社交界では格好の中傷される対象となっていた。


(今となっては、婚約していなくて良かった…。)


 静養所の世話をする傍ら、彼女は思う。

 婚約していれば、実家の様に婚約相手の家も被害を被っただろう。


 そしてこの生活がいつまで続くか分からないし、ケイトの婚約は一生見込みがなくなった訳が…。


「考えても仕方ないわね…。薬を貰いに行きましょう。」


 ケイトは、今の所気休めにしかなっていない誘眠薬や抗不安薬を受け取りに侍女を連れて病院へ向かった。


 ◇◇◇◇◇


「薬だけ与えても、回復は見込めません。」


 静養所の者達を診てくれている、医師は今ではお決まりとなった台詞を言いながら処方箋を書く。これに対してケイトも、苦笑いして頷くしかない。


「薬代も世話代も、馬鹿にならないでしょう?」


 分かってはいるが、彼女には今の彼等をどうすることも出来ずにいる。話さない、動かない、石のようになっている彼等にケイトは途方に暮れているが、罪悪感で見離すことも出来ない。


「とにかく、今の彼等の気持ちを少しでも違う方向に動かす事です。」


(それが出来たら、こんな事になっていないわ…。)


「また来週、診察をお願いします。」


 ケイトの言葉に、医師は大きく溜め息を付いて言った。


「いつもの時間に行きます。」

「はい…。」


 ケイトは受け取った処方箋を手に、日が傾き薄暗くなった廊下を鬱々と歩く。

 まるで自分の行く末を暗示しているかの様だ。


(違う事に動かすなんて、そんな事が出来るなら、こんな事になっていないわ。)


「うっ…。」


 ケイトは、込み上げる涙を抑える事が出来なかった。


「お嬢様…。」


 侍女が差し出すハンカチを受け取り、近くの開き戸から外に出た。木陰に置かれたベンチに、腰掛ける。


 ケイト自身、気を張り詰め重苦しい生活に酷く疲れていた。それなのに、彼女も静養所の者達同様に出口の見えないトンネルから抜け出せないでいる。


(どうして…、どうしてこうなったの…。)


「お嬢様…。」


 心配げに見る侍女に、ケイトは処方箋を差し出した。


「私は暫く此処に座っているわ。私の変わりに、貴女が薬を貰って来てくれる?」

「え、ですが…。」

「此処にいるわ、お願いよ。」

「はい…。」


 歩いて行く侍女を見送り、ケイトは大きく溜め息を付いた。そのまま身をかがめ目を閉じる。


 風が吹くのを感じる。


 ケイトを、家族は遠ざけた。元々彼女が研究チームへの所属も反対されていたのを、無理に押し切った。

 そして静養所を許されたのは、体良く追い出されただけだ。


(消えて無くなりたい…。)


 そんな考えが、ふっと頭をよぎる。


「大丈夫ですか!?」


 遠くから声がする。


「ちょっと、どうしたんですか!?」


(あぁ、病院で何かあったのかしら…?)


 ケイトは、ゆっくりと顔を上げる。


「貴女の事ですよ!」


(え…?)


 ケイトが顔を上げると目の前に、見知らぬ男の顔があった。黒髪で切れ目な青い瞳に、少し不釣り合いな筋肉質な体つき。


 目が合うと、相手は驚き焦っている。


「え、泣いてる!?えぇ!!?」

「あ、…大丈夫です。」

「そう、ですか。申し訳ない、病院(こういう場)だから体調が悪いのかと…。」

「いいえ、ありがとうございます。」


 ケイトは、侍女から受け取ったハンカチで涙を拭いて立ち上がる。


「申し訳ありません、こちらが紛らわしい事をして。」

「いや、その、…。貴女の憂いが晴れると良いのだが。」


 男が言うのに、ケイトは黙礼する。すると、遠くから大きな薬袋を二つ抱えた侍女が戻ってきた。


「お嬢様ー!」

「あ、連れが来ましたのでこれで…。」


 ケイトは侍女に近付き、その一つを受け取る。


「もしかして、貴女はヒストリナ伯爵令嬢?」


 ケイトは、その言葉に固まる。恐くて、振り向く事も返事をする事も叶わない。

 侍女はおろおろとして、ケイトと男の方を見ている。


「静養所に研究者達を引き取ったという、ご令嬢ですか?」


 ケイトは無言のまま走り出した。


 ヒストリナ(自分)の名を口にしたという事は、少なくとも相手は貴族階級に属するもの。

 最近は研究に明け暮れて、新たな貴族達の顔すらあまり把握していないケイトだが、見知らぬ者達に有ること無いこと話されているというというのは耐え難い屈辱でしか無かった。


「お嬢様…!」


 侍女の声が後ろから追い掛けてくるのを、ケイトは立ち止まることが出来なかった。




 







最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

次回投稿は、明日20時です。

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