銀髪の喪女 下
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昼下がりにヘンリエッタが公爵家を訪れると、ケイトはクリスティーナの部屋で結婚式で使うベールの刺繍に勤しんでいた。
彼女等に倣って、ヘンリエッタも未だに苦手な刺繍に励むこととなる。
休憩に入ると、クリスティーナが二人に聞いた。
「ねぇ、婚約者がいるってどんな感じ?」
「「え…?」」
ヘンリエッタとケイトは、ティーカップを持つ手を止めてクリスティーナを見る。
「ケイトは会ったときから変わらないけれど、ヘンリエッタはイリウス兄様と婚約してから、凄く良い方に変わったと思うの。婚約者がいるって、そんなに良いものなの?」
クリスティーナの曇り無き眼で見詰められたヘンリエッタとケイトは、顔を見合わせると夫々が考える。
クリスティーナには、未だ婚約者がいない。
クリスティーナの周りを惹きつけ魅了する力は強い。それは、他の兄弟であるイリウス達にも同様に手にしている、ある種の彼等の能力なのだがクリスティーナはその中でも群を抜いていた。
けれど王族の姫である彼女が、年齢的にも外見的にも婚約者がいてもおかしくは無いのだが、周りの圧が強くて決まっていないというのが正しい見解だろう。
「そうですね…、何というか、私の場合はふらふらした気持ちは落ち着いたという感じでしょうか…。」
ヘンリエッタの言葉に、ケイトも微笑んで頷いた。
「そうですね。私も決まった時は、ある程度自分の未来が決まって、安心感もありました。」
ケイトの言葉に、ヘンリエッタは嬉しげに言った。
「ケイト様もですか?ケイト様は、オーバル様がハローティへ留学中に出会われて婚約する事になったのですよね?」
「はい。」
二人の話を聞いていたクリスティーナは、ケイトに言った。
「その話、詳しく聞きたいわ。二人が婚約した時、私は七歳だったから当時をよく覚えていないの。」
「そんな、大した話では…。」
そうケイトが言うのに、ヘンリエッタもクリスティーナの意見に賛同する。
「私も伺いたいです。」
「ええと…。」
「「是非!」」
キラキラとした二人の瞳に見詰められて、ケイトは話し出した。
「私のお祖父様は、ハローティとメルトンの国交樹立に関わったという過去があります。そのお陰で、オーバルはメルトンの大学校に行かずハローティに留学して来れたと聞いています。」
その昔、メルトンは閉鎖的な外交政策を強いておりハローティはおろか、他国との繋がりが希薄な中にいた。ハローティはとの間に位置する国を、支配下に置くためにメルトンに友好的な同盟関係を求めてきた。その役目を担いメルトンを訪れたのが、当時ハローティの外交官であったケイトの祖父。
メルトン自身、大国ハローティの脅威を懸念するのは、他の近隣諸国と同様に大きな懸念材料であった。それが、相手の方から同盟関係を求めてきたのでそれを受け入れる事になった。
「私は、ハローティでは研究に明け暮れて完全に貴族社会から完全にはみ出した存在でした。おしゃれもお化粧もしない、周りの流行を知らない。ただただ、研究室に籠もってひたすらある植物からの鎮痛成分を抽出する方法を探っていました。」
「信じられない…。」
クリスティーナが目を丸くしてぽつりと呟くのに、ヘンリエッタも同意の頷きをする。
今の彼女を見る限り、そんな過去を微塵も感じないのだ。
ケイトは、そんな二人に苦笑いしてティーカップの縁を撫でた。
「私が自分の研究を奪われることが無ければ、今も研究室に埋もれた存在だったと思います。」
「「奪われた…?」」
「まだまだ、女性研究者の地位は確立されていないので…。私はずっと教授のチームの一員として、研究していました。」
「その教授が、横取りしたのね!?」
「いいえ、誰かが情報を持ち出したのです…。」
「そんな事が…。」
ケイトは頷き、話を続ける。
「国から研究費用も出ていたので、責任者であった教授は罷免され、チームは解散しました。」
「そんなに、大事な研究だったのね。」
「それは、今回の薬物騒ぎの現物…。可憐な花を咲かせますが、使用量と目的に寄って薬にも毒にもなる代物です。」
ヘンリエッタとクリスティーナは、息をのんだ。
「誰が、どうやって持ち出せたのか、結局は分かりません。けれど、チームの多くの人が有らぬ疑いを掛けられて…。」
言葉に詰まるケイトに、ヘンリエッタは寄り添う。
「元々、…外交的では無い人達ばかりでしたから、連日の調査に精神が追い詰められた人もいました。私は、研究者である前に貴族だったので調査対象から外れたに過ぎません。私が出来た事は、苦しむ彼等を保護して静養させる場に保護するのが精一杯でした。」
仲間達を保護する事が、罪悪感に苦しむケイト自身の精神を救った。
「その様な時に、オーバルと会いました。」
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