銀髪の喪女 上
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〝トゥール家の薬物使用に、大国ハローティの関与の疑い〟
聞いたことも無い様な、弱小新聞社から出たその記事に世間は凍り付いた。そしてその後、各大手の新聞社からも同様な記事が載ると更なる不安感が広まる。
そして遂に、王宮内外でオーバルとケイトの結婚に異を唱える声が上がることとなった。
ヘンリエッタは今朝の新聞の記事に目線を落とし、朝食のサンドイッチを食みながら物思いに耽る。
(あの記事が出て以降、短時間で随分と量が増えた…。他の新聞社も、この記事を出したくて準備していたのね…。)
ヘンリエッタが王都に帰ってきてから、ハローティの記事が世間に出るのは時間の問題だった。
けれど、最初の記事に見え隠れするトマスの怒りを、ヘンリエッタは否定出来ない。
(私はトマスから情報を買うだけで、彼が記事を出すのを止める権利は無い…。)
そして記事の内容は、限りなく真実に近かった。その為に王宮側は、否定する事も出来ないのだろう。
(オーバル様や公爵家の方々が一緒にいて下さるけれど、私もケイト様の味方でいよう…。)
ヘンリエッタが彼女の為に出来る事は、今はそれ位しか無いのだから…。
◇◇◇◇◇
「ケイト…。」
ハドソン公爵家の二階の窓から騒がしい外を眺めていた彼女は、婚約者の呼ぶ声に振り向いた。そこには、珍しく疲れた様な顔をしたオーバルがこちらに向かって歩いてきている。
「あまり、外を見ない方が良い。毎日の様に集まる彼等の様子は変わらないよ…。」
ここ最近は、ケイトの滞在するハドソン公爵家の周りには民衆達が集まり、オーバル達の結婚を反対する声を掲げていた。
「ええ、そうね。でも、少しずつ数は増えているみたい。」
力無く微笑むケイトを、オーバルは抱き締めた。がっしりとした彼の体に包まれて、ケイトは目を閉じる。
「ケイト、どうか気をしっかり持っていてくれ。」
「ええ…、そうね…。」
彼女の虚ろな視線の先には、少しずつ膨れ上がる民衆達を捕らえていた。
そこに、軽やかにドアをノックする音が響く。来た主はオーバルの妹、クリスティーナ。彼女はにこにことして、ケイトの手を取った。
「ケイト!私の部屋で、一緒にベールの刺繍の続きをしましょう?幾ら刺繍の達人の貴女でも、あの難解な構図は日々やらなくては大事な式に間に合わないわ?」
目を丸くしているケイトに、変わりに兄が妹に返事をする。
「ああ、そうしたら良い。クリスの部屋は中庭に面していて、静かだし穏やかに過ごせる。」
「そうだ!お兄様、この際ケイトの部屋をお引っ越ししたらどうかしら?場所が変わると、気分も変わるでしょう?」
「え…。」
言葉の出ないケイトに、オーバルが言う。
「それもそうだな。俺からも母上に言っておこう。」
婚約者の言葉に、ケイトは慌てた。
「で、ですが、それでは貴方の部屋から離れてしまいます!」
目を丸くするオーバルとクリスティーナの反応に、ケイトはハッとして赤面した。これでは、オーバルから離れたくないのだと駄々を捏ねている子どもの様だ。
「ごめんなさい、私の為を思って言って下さったのに…。」
俯くケイトに、クリスティーナのコロコロと笑う声がする。
「仲が宜しい様で、ご馳走様です。これなら、お兄様がケイトに振られる心配も無さそうだわ。安心致しましたわ。」
「な…!?クリス!」
「そんな事…!」
そこでパチリと目線が合った二人は、お互いに顔を赤らめる。
そんな恋人達を前に、白目をむくクリスティーナは言う。
「あのー、私がお邪魔しているのは承知ですけれど、お兄様はもう公務にお戻りになって?外で側近達が困っているわ。ケイトは、私が責任持って一緒に過ごしますから。」
「あぁ、そうだ。ありがとう、クリスティーナ。頼んだよ。じゃあケイト、またランチで。」
「はい。」
そうしてオーバルを見送ったケイトは、そのままクリスティーナに手を引かれ、表の騒ぎが届かない彼女の部屋へと連れて行かれた。
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次回投稿は、明日20時です。




