真紅の祈り 下
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公爵夫人の執り成し通り、ヘンリエッタはイリウスの元へ差し入れを持って行く事になり公爵家の屋敷から王宮へと向かった。案内人に付き添われて、イリウスの執務室へ向かう途中廊下でオーバルと出会った。
「ヘンリエッタ嬢、イリウスの所に行くのかな?」
彼は相変わらず飾らない物腰で、ヘンリエッタに手を振った。
「はい。忙しくしていると聞いたので、差し入れを。」
ヘンリエッタの言葉に頷いたオーバルは、苦笑いして言う。
「そうしてやってくれると、ありがたい。イリウスは普段の公務に加えて、ハローティの使節としての準備もあって、ずっと王宮に泊まって働き詰めなんだ。頼むよ。」
ヘンリエッタが頷くと、オーバル 更には彼女に言った。
「本来なら、私が父に随行する役割なんだが…。王宮側の事情で、貴女にも迷惑を掛ける。」
「いいえ、オーバル様が気に病まれる事はありません。」
「イリウスを、頼むよ。」
オーバルの言葉に、ヘンリエッタは頷いて彼と別れる。
お茶を準備し、公爵家で持たされた大量の焼き菓子と一緒に、ワゴンを押す侍女を引き連れイリウスの執務室という扉の前に立った。
『王宮事態そんなに来た覚えも無いけれど、イリウスの執務室は更に未知の領域だわ。』
そんな事を思っていれば、急に目の前の扉が開いて、書類を持った男がバタバタと出て来て走り去っていった。
「本当に、お忙しい様ですね…。」
アンの呟きに、ヘンリエッタは僅かに頷きそれを見送った。そして意を決して扉をノックすれば、中から見知らぬ若い男が顔を出す。
立っているヘンリエッタ達の姿に、相手は一瞬不審げな顔をしたが、その瞳は直ぐに大きく見開かれた。
「もしかして、ドラメント伯爵令嬢ですか!?」
「あ、はい。お忙しい所、申し訳ありません。イリウスにお茶の差し入れを持ってきたのですが、よろしいですか?」
相手は嬉々として扉を開きながら、部屋の中に言う。
「はい、どうぞどうぞ!イリウス様!ドラメント伯爵令嬢、婚約者様がお見えです!イリウス様!」
ヘンリエッタが中に通されると、そこは男達が書類の整理や書物を抱えるごった返した部屋だった。そして最奥の窓際、書類の山に埋もれるようにいたイリウスが、顔を上げてこちらを見て目を丸くした。
「ヘンリエッタ!?」
「忙しい時に、ごめんなさい。お茶の差し入れと、公爵家から皆さんにも焼き菓子の差し入れを持ってきたの。」
ヘンリエッタは言って、ワゴンに被せられた布をめくった。そこには、ベリーパイやチーズタルト、チョコレートシフォンケーキ等がギッシリと積まれていた。
それを見たイリウスの目がキラリと光る。
「よし、それじゃあキリの良いところで休憩にしよう!」
上司の言葉に、周りの者達からは柔やかな空気が流れた。ヘンリエッタはそれを感じながら、ティーカップを一つ一つ温め始めた。
◇◇◇◇◇
公爵とイリウスがハローティへ出立する日、王都の街の家々の窓には赤い布が飾られた。
それは、かつてメルトンが戦火に見舞われた時代、戦場に向かう兵士達の無事を祈って捧げた祈りの風習。今では家族や身内、誰かが外国へ旅立つ際の無事を祈って捧げる様になっていた。
そんな王都中が赤く染まる中、公爵とイリウスは教会で静かに祈りを捧げる。そして、家族や王宮関係者に見守られて馬車に向かった。
馬車に乗り込む前に、公爵は夫人から二枚の赤く染められたハンカチーフを受け取った。一枚は夫人から公爵へ、もう一枚はヘンリエッタからイリウスへのお守りだった。
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次回投稿は、明日20時です。




