黄色い歓喜の裏側で 下
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ヘンリエッタとの婚約が公になってから、イリウスはドラメント伯爵家に度々出入りするようになっていた。
彼は口付けを落とした彼女の右手を握り、腰に手を回すと柔やかにトマスを見据えて言った。
「それで?まだ話が続くのかな?」
トマスは苦笑いして、黙ったまま首を振る。彼の本能が、これ以上この場に留まるのを止めるようにとガンガンと訴えていた。
トマスは、仕事柄、遠目からイリウスを見たことは何度かある。いつも柔やかに、周りを翻弄し懐柔する彼の様子を幾つか記事にしたこともあった。
けれど、…この覇気はなんだ。
(この若さで、曲がりなりにも年上の自分に対して、小さな鼠でも貼り付けにするかの様な…。)
トマスは、仕事柄これまで幾つもの危ない目にも遭ってきた。その彼の背筋に、嫌な汗がじっとりと流れる。
(ただの、ちやほやされた王子様じゃないって事か…。)
そんなイリウスの隣にいるヘンリエッタはトマスに聞いた。
「トマス、貴方他に言いたい事があるのじゃ無いの?」
「いいえ、御座いません。お嬢様。」
トマスの返答に、イリウスはご機嫌に言う。
「そうか、それなら早速お帰り頂こう。彼にも、仕事があるだろうから。」
「はい。」
こうしてトマスは、安堵の溜め息を付いてドラメント伯爵家を後にした。
◇◇◇◇◇
執務室から出て行ったトマスを、見送ったヘンリエッタは呟いた。
「きっと、兄の事を聞きたかったはず…。んっ。」
そんな婚約者の唇を、イリウスは塞ぐ。
「婚約者の前で、他の男の心配を?」
「心配っていう程では…。トマスが、トゥール家の情報を探し回っているのは、彼の兄を探しているからよ。」
「まぁ、トゥール家に関する情報も処遇も、最終的に握っているのは王宮だ。一記者が、情報を集めてもどこまで近付けるか…。」
「でも、彼は家族だから兄に会う権利はあるわ。例え、その兄がどんな状況であっても…。」
俯くヘンリエッタを、イリウスは抱き締めた。
「そうだな…。トマス以外にも、トゥール家に仕えていた者の家族から要望が上がっている。近々面会許可のお触れが出るだろう。王宮側も、関係者をあまり長く引き取れ無いから…。」
イリウスの言葉に、腕の中のヘンリエッタは目を瞑り頷いた。
トゥール家の使用人の中で、明らかな薬物使用を認められたのは三名。皆、男性の使用人達だった。一時的な体調不良の時に、屋敷から支給されたという事が聞き取りから明らかになっている。
トゥール伯爵家は、セニアル侯爵子息の軟禁より事実上この件で爵位を失った。元伯爵夫妻は夫々が投獄、子息は身一つで社会に投げ出され、令嬢は規律の厳しい修道院へと送られた。
傷付いた者も、去った者もいる。けれど、新たな問題も浮かび上がった。
ヘンリエッタは、イリウスを見上げた。
「イリウス、トマスの言った事は本当なの?ケイト様は大丈夫なの?」
腕の中の婚約者の言葉に、イリウスは静かに頷いた。
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