晴れ渡る青空の元 上
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ヘンリエッタは目を覚ました。
見慣れた天井を見上げて、安堵の溜め息を付いた。何となく気怠い体を動かして、上体を起こした所で部屋のドアがノックされた。
返事をすれば、水差しを持ったアンが急いで入ってきた。
「お嬢様!いつお目覚めに?」
「…、ンンッ。今よ。」
「あ、どうぞ。」
ヘンリエッタは、アンから水の入ったコップを受け取り飲み干す。コップをアンに渡そうすればと、彼女の手はそのままヘンリエッタの手を握る。
「良かった…。お熱が、下がられていますね。」
アンは、安堵の溜め息を付く。ヘンリエッタは、にこりと微笑んで聞いた。
「どれ位、伏せっていたの?」
「二日程です。着替えと体を拭く準備をしますね。」
「お風呂に入りたいわ。」
「今は駄目です。食事を召し上がられて、もう少しお休み下さい。それからですよ?」
「はぁい。」
アンはいそいそと部屋を出て行く。部屋の外で他の使用人に会って、ヘンリエッタの目覚めを話したのだろう。廊下の方から、何人かの歓喜する声が聞こえた。
アンは涼しい顔をして戻って来ると、部屋のカーテンを引いて周り窓を開け放す。
外光の眩しさにヘンリエッタは僅かに目を細めたが、水を注がれたコップを持って、ゆっくりと立ち上がり窓辺に近付いた。
「寒くないですか?体を拭く準備が整うまで、換気しますね。」
「大丈夫。とても、清々しい気持ちなの。」
ヘンリエッタは、晴れ渡る空と領地を見る。
自分は一人であって、一人では無かった。
そして、孤独でも無かった…。
機嫌良く外を眺める主の横顔を、アンはその肩に上着を掛けながら不思議な気持ちで見詰める。
「…そう、ですか。ですが、病み上がりですからあまり無理されません様に。」
「ええ、ありがとう。」
ヘンリエッタがそう言った所に、ドアがノックされる。返事をすれば、お湯やタオルを乗せたワゴンを押した侍女が入ってきた。
ヘンリエッタは、ベッドの方に歩き出し、アンは急いで部屋の窓を閉めに動き出した。
◇◇◇◇◇
それからのヘンリエッタは、二日もすればアンを連れて以前の様に外に出るようになった。元気になった彼女を、領地の者達は喜んで声を掛けて来る。
ヘンリエッタが伏せっている間に、麦の刈り入れは順調に進み、父が残していった箕のお陰で収穫後の麦を早く不純物も少なく卸す事が出来ていた。その為に、買い取り価格が例年より高く受け取ることが出来たのだ。
(お父様は謎だらけな方だけど、領地の事は考えて下さっていたのね…。)
ヘンリエッタは、帳簿を付け終わった所で表から馬の蹄と嘶きが聞こえてきた。窓から見ると、遠く植え込みの向こうに、三体の騎馬から夫々甲冑を身に纏った兵士が降り立つ所だった。
(何かしら?王宮からの使者?…にしては、数が多い。どういう事なの?)
考えているヘンリエッタの後ろのドアが開かれて、息の上がった執事が入ってきた。
「どうしたの?」
「申し訳、ありません。」
ヘンリエッタは、構わず彼の言葉の先を促すように首を振る。
「お嬢様に、お客様です。」
「客…?約束は無いはずよ。」
「はい、それは相手も承知されています。」
年若い執事は、震える手で一通の手紙をヘンリエッタに渡した。受け取った彼女は、その封蝋の紋章を見て目を丸くして固まった。
それは確かに、ハドソン公爵家の物に間違いない。
「お嬢様…?」
心配げなアンの声に、ヘンリエッタはハッとして開封する。
〝使者と交渉し汝が合意すれば、共に王都へ帰還する事を望む。〟
一枚の紙には、流れるような字でそれだけが書いてあった。
(使者と交渉する?交渉する内容は書かれていない…。合意すれば、王都に帰れってどういう事なの?)
「とにかく、その使者の方に会うわ。」
「はい!」
ヘンリエッタは、手紙を持ったまま執務室を出て階段を降り、正面玄関から表へ出る。
まだ興奮が残る馬達の足元から舞い上がる土埃の中、馬達を宥める甲冑を纏ったの彼等の中から、ある一人の前で立ち止まった。
彼女は、目を丸くしたまま震える口を開いて言った。
「イリウス…。貴方なの?」
そう呼ばれた相手は、顔面をすっぽりと覆っていた甲をゆっくりと脱いだ。そこから現れたのは癖っ毛のある黒髪と白い肌、そしてあの紫色の瞳…。
「ヘンリエッタ、来るのが遅くなってすまなかっ…わ!?」
イリウスが言い終わらない内に、ヘンリエッタは彼の胸に飛び込んだ。首に両腕を巻き付け、しっかりと抱き付いた。
抱き付かれたイリウスは、最初こそ驚いていたがしっかりと彼女を抱き締め返した。
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次回投稿は、明日20時です。




