赤く腫れた拳 下
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ハドソン公爵家に向かう馬車の中で、ムーアスは口を開いた。
「トゥール伯爵家の使用人達の中で、数名が不可解な症状が出ています。」
「不可解な症状…。」
首を傾げるイリウスに、ムーアスは頷いて言葉を続ける。
「薬物の、禁断症状です。」
「何だって!?」
イリウスは、あまりの驚きに思わず立ち上がりそうになった。馬車が揺れるので、立てなかったが…。
「いや、だが依存や中毒性のある物は使用も入手も取り締まられている。一介の使用人には入手出来るとは思えないが…。」
「そうなんです。トゥール伯爵家の家令やメイド長等の使用人の管理者達の目だって有りますし。」
「それに、使用も使用人の給金で手に入れられるとは思えない。」
考えるイリウスに、ムーアスは言った。
「ですが、もし薬物使用にトゥール伯爵家自身の関与が有るならば、話は変わってきます。」
「そんな事が!?」
目を丸くするイリウスに、ムーアスは難しい顔をする。
「使用人達を、実験にしたというのか…!?」
「まだ捜査段階ですが、その可能性は否定出来ません。物流を押さえている貴族の関与なくして、この件は成立しませんから。我々は一昨日から、禁断症状の無い使用人達に話を聞いているところです。ランドール氏の様子は分かりましたし、今日にでも話を上げます。」
「お願いします…。」
◇◇◇◇◇
ムーアスと別れたイリウスが屋敷に戻れば、執事が急いで駆け付けて来た。外套を脱ぐ彼に、手を伸ばしながら言う。
「イリウス様、お帰りなさいませ。その手は、どうされましたか?」
目敏くイリウスの赤くなった手を指摘する執事に、彼は大したこと無いと伝える。
「でしたら申し訳ありませんが、直ぐに応接室へお運び下さい。旦那様と奥様、オーバル様がお客様とイリウス様をお待ちです。」
「え…。お客は、誰?」
「ドラメント伯爵様です。」
「何だって…!?」
イリウスが急いで向かえば、応接室で四人は和やかに談笑していた。
「お待たせして申し訳ありません。」
入ったイリウスは詫びてオーバルの隣、母と対面に座った。そして、にこにことしているドラメント伯爵の方を見る。
伯爵は、イリウスに笑顔のまま言った。
「いや、セニアル侯爵子息に会ってきたのだと聞きました。どうでしたか?」
「殴ってきました。」
「イリウス!?貴方…!」
息子の告白に、母が眉間にしわ寄せ言おうとするのを隣の父が宥める。
「まぁまぁ、イリウスの話を聞こうじゃないか。」
淡々としているイリウスの様子に、ドラメント伯爵は笑顔を浮かべたまま聞いた。
「ふむ…。君は、今回ヘンリエッタがした事をどう思う?」
「人としては理解出来る所はありますが、婚約者としては理解しがたい所があると思います。」
伯爵は、カラカラと笑ってイリウスに言った。
「そうだな。私も婚約者であれば、そうだろう。だが、娘はそうゆう所がある人間だよ。情に流されると言うか、献身的と言うか…。まぁ、分かっていて敢えて犠牲を払うんだ。」
イリウスは頷いた。
「そしてこの先だって、今回の様なことが無いとは言い切れない。例え、貴方が傍にいてもね。」
微笑みを浮かべるドラメント伯爵は、イリウスを見る。
「それで?君はどうする?」
黙っている皆の視線が、静かにイリウスへと向けられた。
イリウスは、ドラメント伯爵を見据えて言った。
「ヘンリエッタと、話をしたいです。今の私には、周りからの情報しか有りません。彼女と直接、話す機会を頂きたい。」
ドラメント伯爵はにこにことしたまま、頷いた。
「私は、全く構わない。娘は、一人で領地にいる。」
「ありがとうございます。」
「私はこちらでまだやるべき事が出て来たからね。君達の結論を、全面的に支持するよ。あ、でもあまり大勢を引き連れて行かれると、領地が困るかもしれないな。今は麦の刈り入れの時期だから…。」
「必要最低限で、向かいます。」
言い切ったイリウスは、両親の方を見る。彼等もまた、静かに頷き息子の意思を受理した。
こうして、イリウスはドラメント伯爵領地へと向かう事になる。
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次回投稿は、明日20時です。




