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赤い封蝋を開封する 下

読みに来て下さり、ありがとうございます!

サクッと楽しんで下さいね。


 それから、ハドソン公爵家が滞在するマール湖の別荘には何度か王都からの伝令が行き来し、彼等は当初の予定より三日遅く帰宅する事になる。

 それは、残念ながらヘンリエッタが領地に向けて発った後の事であった。


 新聞は、貴族社会の収賄事件に関与した記事と共にセニアル侯爵家とトゥール伯爵家、ドラメント伯爵家の泥沼の愛憎劇と題して連日の様に書き立てられた。

 そんな世間が騒がしい中でも、ハドソン公爵家(彼等)はいつも通りに公務に着手する。


 イリウスは、側近からある書類を受け取る。それはランドールからの、病気療養の為の〝休暇願〟と〝転居願〟だった。


 ランドールの新たな転居先は、ロズベルグ伯爵家となっていた。

 イリウスは、それらにサラサラとサインすると持ってきた側近に返す。


「君は、()()()のランドールに会ったか?」

「いえ、この書類もロズベルグ伯爵家の者が王宮に届け出に来たと聞いています。」

「ロズベルグ伯爵家は…、確かセニアル侯爵家と親戚関係だったか?」

「はい、母方の親戚だそうです。ランドールは、ロズベルグ家に滞在して静養するようですね。」


 イリウスは頷いて、次の仕事の書類に伸ばす手を止めた。


(ランドールは、セニアル侯爵家(実家)には帰らないのか…。)


 別荘での、母の言葉が思い出される。


『負傷した護衛がドラメント伯爵家(よそ)に援助を求めるなんて…。家の中が、よっぽど拗れているのね。』


 イリウスは机上の引き出しから、真新しい便箋と赤い封蝋を並べてペンに手を伸ばしながら言う。


「ランドールに会って話したい。ロズベルグ家と騒動の責任者になっているムーアス隊長に、夫々手紙を書くから出してくれ。」

「はい、畏まりました。」


 ◇◇◇◇◇


 そして後日、ムーアス隊長が同席する事を条件に、イリウスはランドールとの面会が許可された。


 ランドールの医師の診察が終える日の昼下がりにロズベルグ伯爵の屋敷に着くように、イリウスはムーアスと待ち合わせ馬車で王宮を出た。


「ムーアス隊長、忙しい所に今日は申し訳ありません。」


 イリウスの言葉に、ムーアスは口髭を撫でていた手を止めて柔やかに言った。


「いえ、私もランドール氏には騒動の当日と次の日しか会っていないので、会いたいと思っていたのです。イリウス様に、良い機会を頂きました。」

「トゥール家の収賄の件は、まだ貴族の中で関係者が増えそうですか?」


 今回の件で、トゥール伯爵家と関わりがあった、かなりの数の貴族達が関係者として名を連ねている。


「そうですね…、トゥール伯爵家(あの家)はメルトン国内の社交界でかなりの影響力を持っていましたから…。芋づる式に、膿を洗いざらい出している所です。今の所、王宮からのストップは懸かっていませんが、陛下のご様子はどうですか?」


 イリウスは、今朝の議会で見た伯父の国王の様子を思い出す。彼はいつも通り、目を瞑り議会の話を聞き流していた。

 その議題の内容も、トゥール伯爵家の収賄の件が幾つか取り上げられて、対立する派閥の腹の探り合いと各々が疑心暗鬼な空気の中で議会は終了してしまった。


「陛下からは、特に何も。議題にも幾つか上がっていたのですが、黙考しているという感じでした。」


 ムーアスは、考える様に口髭を撫でて言った。


「そうですか…。それなら、収賄の件はまだ進めても良さそうですね。それにもう一つ、新たに気になる事が報告されてきました。明日にでも、王宮に話が上がります。」

「気になる事…?」


 ムーアスが頷いた所で、馬車がガタリと音を立てて停まる。話している内に、いつの間にか王都中心部から離れた郊外にあるロズベルグ伯爵家の屋敷に着いていたのだ。

 二人が馬車から降りると、直ぐにロズベルグ伯爵夫妻の出迎えを受ける。


 ランドールに会いに行く前に、イリウス達は応接室へと通された。向かい合って座った夫妻は、俯きがちに硬い表情をしている。

 彼等は、王族や王都の警備兵にあまり馴染みの無い、善良な人達なのだ。


 イリウスはそんな彼等に、努めて明るく話し出した。


「本日は、私の申し出を受けて下さりありがとうございます。」


 イリウスの言葉に、ハッとして顔を上げた伯爵は首を振った。


「いえ、とんでもございません。ランドールの上司でもあるイリウス様が、直々にお越し下さり感謝いたします。」

「ロズベルグ家は、セニアル家と親戚だそうですね?」

「ええと…、はい。妻がセニアル夫人と年の離れた姉妹で。ですが特に親しいという訳では無く、付かず離れずといいますか…。ですが、ランドールとその…ヘンリエッタ嬢には、以前娘の命を助けて貰った事がありまして。それで、今回の件で彼が困っているのでは無いかと思って声を掛けました。」


 ムーアスは小声で「ほぅ…。」と呟き、イリウスは僅かに目を見開いたが、直ぐに柔やかに言った。


「そうだったのですね。それで、ランドールの様子は今…?」


 ロズベルグ伯爵は、妻と顔を見合わせると言った。


「私の口から話すより、直接お話しになった方が良ろしいかと思います。ご案内致しましょう。どうぞ、こちらへ。」


 そう言って、彼等は立ち上がった。


 ◇◇◇◇◇


 案内された部屋の前で、ロズベルグ伯爵夫妻とは別れ二人で入室する。

 部屋の中は、カーテンは開かれていたが薄暗く、シンッとしていて窓を閉め切っている特有の湿っぽさを感じた。


 そんな中で、窓際にあった人影がフラッと動いた。

 イリウスは、それに向かって話し掛けた。


「ランドール…、今回は大変だったな。」


 人影は、ゆっくりと歩いて近付いてくると立ち止まり丁寧なお辞儀をする。


「いえ、ご迷惑をお掛けしました。」


 久しぶりに見たランドールは、綺麗なシャツとトラウザーズといったラフな格好で疲れたような窶れた笑顔を見せた。



 



 









最後まで読んで下さり、ありがとうございます!

次回投稿は、明日20時です。

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