赤い封蝋を開封する 上
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その日は、穏やかな朝だった。家族と朝食を囲み、いつもの様に湖に行こうと話していた。
その和やかな食堂に、硬い表情をした執事が父に耳打ちする。耳打ちされた父の顔もまた、眉間にしわ寄せた。そして、執事が持っていた二通の手紙の受け取った。
隣に座る母が、父に問うた。
「どうなさったの?」
「ドラメント伯爵家、ヘンリエッタ嬢からの急ぎの使者だ。」
「え…?」
イリウスはじめ、他の兄弟達も心配げに父の顔を見た。父は手紙を確認して、その内の一通を開封した。
ハドソン公爵は首を振り、残り一通を執事に渡す。その一通は、イリウスの元へ運ばれ差し出された。彼はその筆跡を見て、ひやりと背筋が寒くなる。
それは、間違いなくヘンリエッタの筆跡だった。イリウスは受け取ると、席を立って窓際へ移動した。
「ヘンリエッタに、何かあったの!?」
クリスティーナが口火を切る。それには、公爵が答えた。
「ドラメント伯爵家に、負傷したセニアル侯爵家の護衛が援助を求めてきた様だ。どうやら、セニアル侯爵家と婚約関係にあるトゥール伯爵家とのいざこざらしいが、セニアル侯爵子息が、軟禁状態らしい。…。ヘンリエッタ嬢は、その要請を受けたと。」
「受けた…!?」
弟のカイエンが言うのに、彼の隣に座る兄のオーバルも無言で難しい顔をする。
「ランドール様が危ないのよ!?早く助けなくちゃいけないわ!」
妹の言葉に、カイエンが言った。
「助けなくてはいけなくても、ヘンリエッタ嬢が助けに行くのは駄目だと思う。」
「どうして!?」
「問題があるにせよ、セニアル侯爵家とトゥール伯爵家は婚約関係にあるからさ。」
「命が掛かっているのに!?」
「それはそうだけど…。」
兄の言葉にプリプリと怒る娘に、夫人は言った。
「クリスティーナ、カイエンはヘンリエッタの社会的立場を心配しているの。セニアル侯爵家の護衛達や王都の警備兵だっているのだから、ヘンリエッタが個人的に動く事は後に、彼女にとって良くない風に動くわ。貴族社会も平民社会も、ゴシップに餓えているのだから…。」
「でも…!」
妹の言葉に、オーバルが遮る。
「クリスティーナ、例えセニアル侯爵子息がトゥール伯爵家に軟禁状態であるにせよ、殺される事は無いんだ。トゥール伯爵は、セニアル侯爵家の地位を必要としているからね。そして、セニアル侯爵家にはトゥール伯爵家財力が必要だろう…。」
息子の言葉に、公爵は頷く。公爵夫人は、溜め息と共に言った。
「本人達がどうであっても、婚約関係を維持したいはずよ。けれど、護衛がドラメント伯爵家に援助を求めるなんて…。家の中が、よっぽど拗れているのね。」
「ヘンリエッタは、どうなるの…?」
妹の問いに、またオーバルが答える。
「子息を助けるだろう。でもヘンリエッタ嬢の問題は、助けた後だよ。」
「私達に、出来ることは無いの?」
「直接は無理だな。王都の警備兵が動くなら、安全が確認出来るまで私達は別荘を動けない。後は世間が、この騒ぎをどう広げるか、かな…。」
淡々と話しているオーバルの隣に座るケイトは、受け取った手紙を読み黙って外を眺めるイリウスを心配げに見た。
◇◇◇◇◇
〝私はランドールを助けたい。〟
ヘンリエッタの手紙には、それだけしか書かれていなかった。イリウスには、歯がゆい状況ではあるがどうする事も出来ない。
家族の言うように、ランドールの為にヘンリエッタが個人的に動くのは危険だ。
けれど、彼女はそれを承知で動いた。
イリウスは、学生時代の二人の〝特殊な関係〟を知らない訳では無い。
ヘンリエッタを知れば知るほどに、彼女が如何に孤独な環境下でいたのかは分かっていた。
ランドールは遠縁の身内であり、今は自身の部下でもある。そして成長するにつれ、大人達や周りの景色が分かるようになって彼が孤独の中にいるのも知った。
二人さ何も無い関係だが、ヘンリエッタは何かあれば自分の危険を承知でランドールを助けに向かうのだ…。
「解せないな…。」
イリウスは、ぽつりと呟いた。
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次回投稿は、明日20時です。




