失われたブロンド 下
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真新しい墓石の周りは、ゴミ一つ、雑草一本見当たらない。相変わらず、誰彼が来ては綺麗にするだろう。
ここに眠る母は生前、本当に領地の皆に愛されていたのだと良く分かる。
吹き下ろす風に流れた短い髪が、ヘンリエッタの頬を撫でた。彼女のブロンドは、母親から受け継いだ。生前の結い上げられた後ろ姿を追って、幼い自分が歩いていたのを思い出す。
ヘンリエッタの物心が付いた時、ドラメント伯爵家は既に王都は父と兄が、領地には母と自分という完全なる別居状態だった。
年に数回、行事等がある度にこちら側が王都を訪ねたり、あちら側が領地に帰ってきたりの生活だった。会った所で特別仲が悪いでも無く、ヘンリエッタにとっては数少ない家族で過ごした記憶は決して悪い物では無い。
だが…。
母からは、あまり父の話を聞いたことは無かった。幼いヘンリエッタの生活に、父親という存在は特別な時以外はいないのが当たり前だったのだ。
「当たり前って、素晴らしくもあり恐ろしくもあるのね…。」
自分の生活も
ランドールも
そして、…イリウスも
この半月しないの内に、これまでのヘンリエッタの当たり前が、どれ程失われたのだろう…。
(この先の未来が、見通せない…。)
そんな気にも留めなかった、当たり前が失われた現実に、ヘンリエッタは足が竦む思いだった。
(恐い…。)
ヘンリエッタは目を閉じて、自分の肩を抱き擦る様に上下に撫でる。そうして、荒ぶる感情に飲み込まれない様に必死に耐えた。
(恐くて堪らない…。)
(もう、失うのは嫌なのに…。)
(一人は嫌…。)
そこまで思ったヘンリエッタの瞳から、大粒の涙が溢れた。
「お嬢様!?」
主の異変に気が付いたアンが駆け寄り、泣いている彼女を抱き締める。
それでも溢れ出した涙は、止まるどころか後から後から流れ落ちた。
「うっ、私、…私は間違った事は、ひっく、…していないわ。でも、今の現実に、耐えられな…!」
「ええ、お嬢様は正しい事をされました。今は何も考えず、お休みになる時間です。どうか、過去の行いを責めないで下さい。」
アンはとにかく、泣いている彼女を抱き締めてその背を撫で続ける。
その後もしゃくり上げるヘンリエッタの言葉は、不明瞭で聞き取れなかった。
◇◇◇◇◇
その夕刻、ヘンリエッタは糸が切れたように高熱を出して寝込んだ。その間、呪いは彼女の中で浮かんでは消えてを繰り返す。
『私は、貴女の事が大っ嫌いよ!!』
『一生、苦しめ!』
『地獄に堕ちろ!!』
『アンタだけ、幸せに生きるなんて許さない!』
熱に浮かされる主を、周りは見守るしかない。診てもらった医者からは、とにかく無理せず休むようにという事だった。
帰って行く医者を見送るアンは、静かに呟いた。
「なんて、無力なの…。」
近付いてきたノートンには、首を振って応える。
「そうか…。我らは、自分の役目を果たそう。それが、お嬢様のいつも望まれることだから。」
「はい。」
アンはどんよりと曇った空を見上げる。それはまるで、不安に立ち竦む自分達の様だと思った。
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次回投稿は、明日20時です。




