失われたブロンド 上
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お年寄り達は、そのままお喋りを始めて賑やかな食堂となった。
そんな環境に半ば諦めたトマスは、カップに残るコーヒーを啜る。ヘンリエッタはそんな彼に聞いた。
「あの騒動の関係者は皆、王宮管理に入っているのでしょう?」
「まぁ、そうだな。」
「貴方のお兄さんも、そうなんじゃ無いの?」
「一時的にはそうだったんだと思う。でも、使用人は必要最低限だけ残されて解雇になったんだ。それで名前を探して貰ったけれど、見付からなかった。まぁ、生きていてくれるならそれで良いんだ。」
そう言って微笑むトマスは、窓の外を眺める。
「会えると、良いわね。」
「ああ。」
トマスはハッとして、ヘンリエッタに聞いた。
「そう言えば、貴女には会いたい人はいないのか?騒動の後、こんな田舎に一人引っ込んでさ。」
ヘンリエッタは、無言でトマスを見る。
「年頃の貴族令嬢だし、相手はいるんだろ?巷で騒いでいた、セニアル侯爵の坊ちゃんじゃない。」
トマスは笑って、ヘンリエッタを見る。
「ハドソン公爵家に、ドラメント伯爵家の馬車が連日通っていたって話は聞いたことがある。確か、公爵家の次男坊はフリーだったな…。」
「私は、クリスティーナ様のお茶の相手だったのよ。」
ヘンリエッタは、涼しい顔でカップの残りのお茶を飲み干した。
「そうですか…。ま、相手が誰であろうが、領地に引っ込んでたら、その内に捨てられて行き遅れ…。」
ベシッ!
「いった…!」
トマスが頭を押さえて振り返れば、そこには鬼の形相をしたマチルダが立っていた。
「お嬢様に、失礼な事を言わないで!」
「…ここの人間は、お嬢様愛が重い奴ばっかりだな。」
「アンタ、もう一発くらいたいの?」
拳を振り上げるマチルダに、トマスは首を振る。
「いや、十分。これでも、平和主義者なんでね。じゃあ、俺は当初の目的は果たしたんで明日には王都へ発ちますよ。」
「今後はどうするの?」
「貴女の王都の屋敷は知っていますし、必要な情報が入ったら持って行きます。」
「分かったわ。」
「だから、早く帰ってきてくださいね。実入りが増えるのは大歓迎なんで。」
「それなら、相応の内容を準備する事ね。」
トマスは席を立ち、柔やかに手を振って去って行った。彼と入れ替わりに、アンがやって来て聞いた。
「お嬢様、宜しかったのですか?あんな事を約束されて…。」
「信用出来るかどうかは、今後の行い次第ね。でも、私にはお父様や新聞を介さない情報源が必要だと思うの。」
「旦那様も、ですか?」
アンが首を傾げるのに、ヘンリエッタは静かに頷く。
(これからは、選択を迫られる事が増える。その為に、自分自身が納得して決断できる材料が少しでも多く欲しい…。)
テーブルの片付けを始めたマチルダの、日焼けした小麦肌の横顔を眺めヘンリエッタは聞いた。
「貴女はウィルの事、心配にならない?」
カップや皿をを回収していたマチルダは、パッとヘンリエッタを見て笑う。
「そりゃ、全く心配が無いというと嘘になりますよ?私達は領地内の事しか知らずに生きてきて、このまま一生を終えると思っていましたから。」
「本当に、ごめんなさい…。貴女には、寂しい思いをさせているわね。」
ヘンリエッタの言葉に、マチルダは目を丸くしてご令嬢を見た。
「お嬢様、それは何か違います…。」
「え…。」
ヘンリエッタは、首を傾げる。
「確かに、心配は有りますよ。でも、それは慣れない場所でウィンが元気かなという心配です。私はウィンの事を信じていますから、他の心配はしていません。」
「そう。」
「私は私の役目をこなしながら、未来を楽しみにウィルの帰りを待つだけです。それに、お嬢様は私の味方をして下さっていますもの。」
「確かに、そうだけれど…。」
ぽかんとするヘンリエッタに、マチルダは微笑んで言った。
「お嬢様は、ウィンが外で粗相をしたら直ぐに連れ戻して吊し上げてくれるって約束して下さいました。それってウィン本人の言葉と同じ、いえそれ以上に、私にとって心強い事なんです。」
マチルダはにこりと笑う。
「お嬢様はずっと、私達の命と土地を守ってきて下さった。そして、私達との約束はどうやっても守って下さる方。だから、彼の体の心配はあっても、私は他の心配をする必要が無いんです。」
彼女は、言葉を続ける。
「私は幸せ者です。お嬢様にウィンを引き立てて貰えて、私の事は気に掛けて貰える。お礼を言うのは、私の方なんですよ。」
ヘンリエッタも微笑んで、マチルダを見た。彼女は思いだしたように言う。
「あの男の言葉を真に受けてはいけませんよ!私だけでなく領地の皆だって、お嬢様を泣かせる様な奴は、私達皆の敵なのですから。そんな相手は願い下げですよ?」
「そうね…、ありがとう。」
ヘンリエッタは、窓に映る自分の姿を見る。領地に来て、漸く自分の姿を見ることが出来るようになった。
ブロンドを失ったのは、一時的な事。
寧ろ、失ったのが髪の毛だけで良かった。
彼女は、バネッサの断末魔にも似た呪いに悩まされていた。
自分は最善を尽くした、けれど…。
イリウスが、ハドソン公爵家が今回の件を受け入れるかどうかは別の話なのだ。
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次回投稿は、明日20時です。




