緑色の瞳の先には 下
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トマス・ダーマンと名乗ったその男は、小さな出版社で記者をしていると言った。彼は既に自分の希望は叶えられると思ったのか、上機嫌に食後のコーヒーを啜る。
「新聞記事には、もう私の事は書かれていないわ。」
「そうだな。王宮が関与しているらしい、大手の有名所はお宅の記事が一切書けなくなった。随分と多くの記事が没になったはずだ。まぁ、俺には関係ないけど。」
「でも、貴方の出版社だって私の記事を載せれば王宮に睨まれるわ。それなのに、どうして領地まで来たの?仕事にはならない、しかもリスクを背負ってまで。」
「まぁ、記者をしている身としては、世の流れに一矢報いたいからね。」
「命の危険があっても?」
「そんな事を考えるなら、この仕事はしない。」
にやりとするトマスに、ヘンリエッタは言った。
「なら、私は貴方の能力を買うわ。」
「は…?俺は、貴族なんかに傾倒しない。」
「貴方は、今と変わらず生きたら良いわ。情報を集めて仕事をする。そして、時々私にその情報を先に回して欲しいの。」
「俺が、偽の情報を渡すかもしれないのに?」
にやにやとするトマスに、ヘンリエッタはにこりとして言った。
「貴方は、私に騒動とは違う事を聞きたいのでしょう?」
にやにやしていたトマスは真顔になって、ヘンリエッタを見る。
「何だって…?」
「言った通りよ。貴方は、私とどうしても話したかった。でも、それは今回の騒動についてでは無い。」
「そんな訳ないだろ。貴女は今回の騒動の重要な関係者だからな。」
「違うわね。領地に取材に来ても、私の事は記事には出来ない。下手をすれば、出版社ごと取り潰しになるのに。貴方はそんな無意味な事を、する人間には見えない。」
ヘンリエッタの言葉に、トマスは眉間にしわを寄せて黙った。
「貴方が私に正直でいるなら、私も貴方に正直に応えるわ。」
「何を…。」
「世間知らずな貴族の小娘なんて、自分なら簡単に操れると思ったのかしら?随分と、自意識過剰なのね。」
トマスは暫く黙って、微笑むヘンリエッタを睨んだ。
そして、彼は観念したように話し出した。
「確かに、俺は騒動の事を聞くためにきたんじゃ無い。」
ヘンリエッタは無言で頷き、話の続きを促す。
「俺の双子の兄が、執事見習いとしてトゥール伯爵家にいたんだ。それが、行方が分からない。」
「行方が分からない…?貴族に使える使用人は、必ず紹介や仲介を必要とするわ。その当たりを当たったの?」
「否、トゥール伯爵家を辞めていないのは確かだったんだ。けれど、半年前位から全く会えなくなった。」
「兄妹喧嘩…?」
トマスは首を振る。
「そうじゃ無い。伯爵家にも訪ねたが、門前払い。どうしたんだろうと思っていたら、今回の騒動だ。貴女は、あの騒動で屋敷に入ったんだろ?だから、直接話を聞きたかったんだ。」
その時、窓辺の光がトマスに当たり、彼の茶髪の髪が赤い光を放った。
「貴方、…もしかして髪を染めているの?」
「え?ああ、本来は赤毛なんだ。けど目立つだろ?相手の話を聞き出すこっちが目立つんじゃ、仕事にならないからさ。」
ヘンリエッタは、話すトマスの姿に釘付けになる。この既視感はなんだと、頭の中の誰かが言った。
「貴方のお兄さんも、赤毛?双子なら、色々と似ているのかしら。」
「そうだな、赤毛と瞳の緑、後は顔のそばかすは同じだな。背は兄貴の方がひょろっとして高い。」
細身な長身の赤毛…。緑色の瞳に、そばかす…。
「私、お兄さんを見たかもしれない…。」
考えるように言ったヘンリエッタに、トマスは顔色を変えて詰め寄る。
「それ、本当か!?」
ポカッ!
「いってぇ!」
トマスは不意打ちの痛みに頭を押さえて立ち上がって振り向けば、空席だらけだった食堂の席はいつの間にか全てが埋まっていた。その客達はほぼ高齢者だったが、その全員が彼を睨みつけている。
「アンタ、お嬢様に可笑しな口をきくんじゃ無いよ!」
「お嬢様に何かしてがしたら、ただじゃおかないぞ!」
「袋叩きにして、広場に吊し上げてやるからな!!」
口々に息巻く彼等を目の前に、トマスは苦笑いして静かにお茶を飲むヘンリエッタを見下ろして言った。
「お嬢様は、本当に愛されていらっしゃいるのですね…。」
ヘンリエッタはティーカップを置くと、にこりと微笑み頷いた。
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次回投稿は、明日20時です。




