緑色の瞳の先には 上
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マチルダの言っていた、〝王都から来た男〟は直ぐに分かった。
ヘンリエッタとアンは、ルネの立つ食堂のカウンターの影からそっとその人物を見詰める。
その相手は、癖のある短い茶髪に緑色の瞳、細身な体型で顔にはそばかすを散らしていた。窓際の席を陣取って、ランチに出されたミートパイに舌鼓を打っている。
「あの人、一人だけ?」
「はい、…お知り合いですか?」
「いいえ、違うわ。」
「なら、やっぱり追い出します!」
息巻くルネを、ヘンリエッタは制止する。
「待って、ルネ。貴女は自分の仕事をして頂戴。お客を追い出すなんて駄目。きっちり、宿代を払って貰わなきゃ。」
「ですが、お嬢様を害する奴をウチに留め置けませんよ。」
ヘンリエッタは笑顔で首を振る。
「害かどうかは、本人に聞いてみないと分からないわ。どちみち、皆が心配するといけないから、早く白黒はっきりさせた方が良いと思っていたの。それにあの人、使えるかもしれないわ。」
「使える?」
「私には、お茶をお願いね?」
「お嬢様…!」
ヘンリエッタはアンの制止を構わず、立ち上がり男に向かって歩き出した。
「相席を、良い?」
「え?…はい。」
男は空席の目立つ食堂内をキョロキョロと見回した後、柔やかにヘンリエッタを見る。
「他にも席は有るみたいだけど、わざわざ相席を?」
「ええ、お邪魔?」
「いや、こんな美人に相席を求められるなんて、仕事を忘れそうだなって。」
にこにことする男に、ヘンリエッタも笑みを返した。
「お仕事でこっちに?」
「そうなんだ…。でも、行く先々で邪険にされてね、…心が挫けそうだった。この宿、構えは古いけれど、部屋は清潔だしご飯は美味しいからそれだけは救いだよ。」
「邪険…?この辺りの人は、皆良い人ばかりよ。貴方が変な事をしなければ、邪険にしないわ。」
男は、ヘンリエッタを見て考えるように言った。
「うーん…、君はこの宿の人?初めて見るな。この近辺の人は、ほぼ話かけたはずなんだけど…。」
「いえ、私はさっき来た所。」
「そうか…。君はここの、…ドラメント伯爵令嬢を知っている?」
「お嬢様の事?知っているわ。」
ヘンリエッタがにこりと笑い、男の顔がデレッと緩んだ時…。
「お茶を、お持ちしました。」
殺気の籠もったアンの声が降ってきた。男の刺すように睨みつけて、ヘンリエッタの前にティーセットを並べていく。
「ありがと。」
「うん…?チップを…。」
男がコインを差し出すのを、アンは無言で受け取ってカウンターのルネの隣に陣取りこちらを見ている。
「今の給女も、初めて見るな。」
「人の顔を良く覚えるのね…。お仕事柄かしら?」
ヘンリエッタがティーカップに手を伸ばし口を付けるのに、相手は柔やかに応える。
「まぁね。ねぇ、そのお嬢様の話を詳しく僕に聞かせてくれないかな?…ヘンリエッタ・リエ・ドラメント伯爵令嬢?」
男は席を立つと、ヘンリエッタに丁寧なお辞儀した。ティーカップにを置いた彼女は、相手を見詰める。
「…いつ、気が付いたの?」
「その所作です。見た目と話し方は村娘に化けても、幼い内に仕込まれた立ち居振る舞いまでは隠せません。」
「流石だわ。」
ヘンリエッタは頷くと男を見上げ、座るように促した。男は、会釈して元の椅子に座る。
「ま、仕事ですから。ですが、ご本人の方から来て下さるとは、思いませんでしたよ。ここの領民達は、皆貴女の事を話したがらないので、来て下さって助かりました。」
「貴方の存在が、皆を不安にさせるので早く対応しようと思ったから。でも貴方が聞きたいことを、私が話すとは限らないわ。貴方次第、かしら。」
「俺次第、ですか。」
「私も、貴方に用があるの。それを果たせるか、ね」
「用、…ですか?」
ヘンリエッタは、ゆっくりと頷いた。
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次回投稿は、明日20時です。




