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金色の大地 下

読みに来て下さり、ありがとうございます!

サクッと楽しんで下さいね。


 父が王都に発って七日が過ぎた。


 そうしている内に、新聞記事からドラメント伯爵家の事は一切載らなくなった。その代わりに、セニアル侯爵家の莫大な借金による事実上の破産と、トゥール伯爵家と王政の重役との収賄と癒着が次々と明らかとなる。

 それによりセニアル侯爵家は王都を去ることとなり、トゥール伯爵家は爵位を失った…。


 ヘンリエッタは、読み終えた新聞紙をテーブルに置き、天気の良い外をぼんやりと見る。


 きっと、全ての事に父が絡んでいるのだろうが、王都に戻った父親からの連絡は一切無い。


(けれど、この短期間に新聞記事の情報操作からトゥール伯爵家の爵位の権限まで無くすなんて…。)


 父親ながら、正直、敵に回したくない人物だなと思う。

 けれど、同時にこの騒動の終息が近いと感じられた。


 ハドソン公爵家からの、手紙はマメなイリウスからの知らせも何も無かった。


(こればかりは考えていても、仕方の無いこと…。)


 そうとなれば、屋敷で鬱々と籠もっているのは馬鹿らしい。小麦の収穫が始まって忙しい領民達に変わって、ヘンリエッタは桑畑の世話を買って出た。


 ノートンやアンには渋い顔をされたが、無理をしないからという条件付きで承諾を得た。ワンピースの上から、生前の母のお下がりのエプロンを身に付け、日除けの唾広帽子を被る。

 屋敷の荷馬車を借り、ヘンリエッタは水やり様の手桶を幾つか乗せると母の墓石の方角を目指して馬を走らせた。


 途中の共同井戸で、水を汲み上げるためにヘンリエッタはロープを力一杯引く。しかし、慣れない彼女にはかなりの重労働だった。


「んんっ…!」


 そのフラフラとする貧弱な引きを、助ける手が後ろから伸びてきてヘンリエッタの華奢手の上からロープを取った。


「マチルダ!」

「お嬢様、このまま一気に引きましょう!」


 そこには留学に出したウィンの恋人、マチルダが笑顔でぐんぐんとロープを引き井戸の底から水を汲み上げる。


「ありがとう。」

「いいえ。お嬢様が水汲みなさるなんて、どうしたんですか?」

「屋敷にいても、する事が無いから桑畑の世話をしようかと思って…。」


 マチルダは目を丸くして、ヘンリエッタを見る。


「お嬢様が、桑畑を!?私達が交代でやっている仕事ですよ?」

「言い出したのは、私だし。領地にいるなら、出来ることをしたいと思って。余計な事だったかしら、ごめんなさい。」

「そんな事ありませんよ。そういう事なら、私もやります。」

「良いの?貴女も、麦刈りに行くところでしょう?」

「お嬢様を一人にしておく方が、きっと親に叱られちゃいますから大丈夫ですよ。」


 マチルダは言って、荷馬車に乗っている残りの手桶を取りに行った。


 ヘンリエッタの頼りない動きの横で、マチルダはさくさくと水を汲み出す作業を進め、あっという間に水汲みを終えると荷馬車に積んだ。


「来てくれて、助かった。本当にありがとう。私だけでは、水汲みだけで日が暮れていたわね…。」

「お嬢様、今日アンさんは?」 

「ああ、アンは午前中は屋敷にある母の服を私のサイズに直すって言っていたわ。畑にお昼を持ってきてくれる約束でね。」


 今回のヘンリエッタは、日も上がらない朝靄に紛れての出立だった。荷物を最小限にまで減らしたので、ヘンリエッタの洋服類を随分と置いて来ることになった。


「そうだったんですね。じゃあ、アンさんが来るまでは私がいます。多分、お昼より前には血相変えて駆け付けて来るはずです。」

「血相変えて…?」


 息の上がっているヘンリエッタに、軽々と荷馬車の前に乗ったマチルダが手を伸ばす。その手を取った彼女を引き上げて座らせると、マチルダは手綱を取って馬車を進めた。


「さっき、父と一緒にルネさんの宿屋に野菜を出しに行ったんですけれど、女将が気になることを言っていて。」

「気になること?」

「昨日から泊まりに来た男性客が、お嬢様の事を聞き回っているって。記帳した住所が正しいかは分からないけれど、言葉に訛りが無いから多分王都の人間だって…。父はお屋敷にそれを伝えに行ったんです。別れた私の方が先に、お嬢様に会っちゃいましたけれど。」

「そうだったのね。ありがとう。気を付けるわ。」

「お願いしますよ!大事なお嬢様なんですから!」

「ええ。」

「まぁ、領地の人間は大抵が顔見知りだから、相手は直ぐに分かると思いますよ。」

「そうね…。」

「それに、…。」


 マチルダは言いかけて、隣に座るヘンリエッタを見る。


「今のお嬢様は、どっから見ても〝貴族のご令嬢〟じゃないです。私だって目を疑いましたから、相手にバレそうにありません。」

「ふふふ、そうね。確かに。」

「普段見ているお嬢様は素敵で憧れちゃいますが、私は今の格好も結構好きです。」

「似合ってる?」

「私は小さかったので、あまり記憶は無いんですけれど、奥様がそんな感じだったのかなって。」

「そうね、そうだと思うわ。」


 そう話したところで、二人の乗った荷馬車は広大な麦畑を見下ろす桑畑に着いた。すると、後ろから馬の蹄の音が近づいて来る。マチルダはそれを指差して言った。 


「ほら、血相変えて駆け付けてきましたよ。」



 







最後まで読んで下さり、ありがとうございます!

次回投稿は、明日20時です。

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