残り火の煙は灰色に染める 上
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ヘンリエッタ達は、駆け付けた警備兵達に発見され、彼女が最初に通されたトゥール伯爵家の屋敷の応接室へと案内された。
そこには、鎧に身を包み恰幅の良い一人の男が待っていた。ヘンリエッタが入室すれば、膝を折って丁寧にお辞儀する。
「王都警備兵隊の第三部隊長を務めております、リャット・ムーアスと申します。」
「ヘンリエッタ・リエ・ドラメントです。」
ヘンリエッタの言葉に、リャットは立ち上がり柔やかに頷いた。
「この度は、迅速な判断と決断、行動に感謝申し上げます。」
「いえ。正直、王都の警備兵がこんなに早く動いて下さるとは思っていませんでした。セニアル侯爵家からもそちらに打診が?」
「ああ、セニアル侯爵家からもあったようですが、それは関係ありません。我々は、以前より秘密裏にトゥール伯爵家を追っておりました。」
「秘密裏に…?」
ヘンリエッタが首を傾げるのに、リャットは頷いた。
「はい、トゥール伯爵家の収賄容疑です。」
「収賄…。」
ヘンリエッタは、目を見開く。
確かに、トゥール伯爵家は受け継いだ運輸業を発展させ、莫大な財力と時代の流れに乗った商才の発揮により、短期的に王宮内に留まらずメルトン内外での地位を確立した新興成金の部類に入る。
「ですが、なかなか確証を取れず内部まで捜査が及びませんでした。今回の件で、一気に進む事が出来ます。」
ヘンリエッタは、リャットの嬉しそうな顔を眺める。
ヘンリエッタ達がランドール誘拐、拉致監禁の救出するのに乗じて、彼等はトゥール伯爵家に乗り込み内情を捜査出来る形となった。相手が影響力のある伯爵家だからこそ、これまで手が出せなかったのだろう。
「そうですか…。あの、ランドールは?」
「先ほど、セニアル侯爵家の護衛兵に保護されました。もう、トゥール伯爵家を離れたでしょう。」
ヘンリエッタは、安堵の溜め息をついた。
「そうですか。…バネッサは、トゥール伯爵家はどうなりますか?」
「そうですねぇ…。私も、現状しか申し上げられませんが、バネッサ嬢がというより、トゥール伯爵家それぞれの身柄が王宮管理となります。」
「…、温情は有り得ますか?」
ヘンリエッタの言葉に、リャットは難しい顔をする。
「それは、私の口からは何とも…。ですが、ランドール氏の件に関して言える事は、セニアル侯爵家の判断に大きく左右されるかと思われます。」
「そう、ですね…。」
そこまで話した所で、部下と思われる兵士がリャットに耳打ちする。
「ドラメント伯爵令嬢、外に馬車の準備が整いました。我々は後を引き受けますので…。」
ヘンリエッタは、頷くしかない。立ち上がり、部屋を出た。
兵士達が行き来する廊下をエントランスを目指して歩いていると、侍女に付き添われて歩くバネッサの姿が見えた。彼女もまた、ヘンリエッタに気が付きこちらを見た。
(どうしても、こうなる定めだったのかしら…。)
ヘンリエッタは、バネッサから視線を外して歩き出した時…。
「きゃあっ!」
「わっ!?」
バネッサの侍女が、ヘンリエッタの護衛の一人にぶつかっていた。侍女を押し飛ばしたバネッサは、そのまま目の前のブロンドに手を伸ばす。
そして…。
ザンッ!
ヘンリエッタのブロンドがはらはらと空中に舞う。
バネッサは、持っていたガラスの破片でヘンリエッタの髪の一房を切り裂いたのだ。
「お嬢様!」
ガンッ!!
もう一人の護衛が、間髪入れずバネッサを殴り飛ばす。打ち付けられるように床に倒れたバネッサは、周りの兵士に取り押さえられた。それでも、彼女はバタバタと足掻き叫んだ。
「アンタだけ、幸せに生きるなんて許さない!」
ヘンリエッタは、護衛達に連れられてその場を離れる。バネッサは、彼女等に叫び続けた。
「許さない!」
「一生、苦しめ!」
「地獄に堕ちろ!!」
ヘンリエッタは、その猟奇的な叫びを背中に浴びながら馬車へと乗り込んだ。
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次回投稿は、明日20時です。




