渦巻く黒い闇 下
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サクッと楽しんで下さいね。
「ランドール様…、跡けられています。」
アルマの報告に、ランドールは眉間にしわを寄せる。彼等は、公務を終え借り部屋に帰る所だった。
これで、何度目だろうか…。ランドール達は、連日跡を付ける輩を捕らえては警備兵に突き出していた。
「数は?」
「見えるだけでも、二人です。」
「撒くしかないか…。」
主の呟きに、アルマは頷き角を曲がる。一瞬姿を消して、塀を登り身を隠す。バタバタと走り去る足跡が遠のいていくのを待った。
静かになった所でこっそりと覗くと、太った男と目が合った。
「あ…!」
相手が声を出す前に、アルマがその男を蹴り飛ばして首元に抜き身のサーベルを突き付けた。
「騒げば、殺す。」
「ひっ!」
「質問に答えろ。お前達の雇い主は誰だ?」
「知らない…!」
「耳が片方要らないらしいな?」
アルマは言って、男の左耳の端をサーベルの先で切った。
「ひいいぃっ!」
男は、左耳を押さえて涙目になっている。
「騒ぐな、言え!」
「分かっ、分かった。どっかの伯爵家だと、聞いている。後は、本当に知らないんだ!」
「伯爵家…?」
ランドールは、考え込む。
「トゥール伯爵家でしょうか?」
「恐らくな…。」
「行け。」
「はひっ!」
男は転がる様に、二人の前から走り去った。
「御実家のセニアル侯爵家だけで無く、トゥール伯爵家まで。ランドール様、このままでは…。」
心配げに言うアルマの気持ちは、ランドールにも分かる。両家が血なまこになって自分を探している。
ランドールは、再三の家移りをして結局三度引っ越していた。
(逃げ回ってばかりいても無駄なのか。一度、話すしかないのか。)
「アルマ、トゥール伯爵家に行く。」
「はい。」
◇◇◇◇◇
「お待ちしていましたのよ、随分と。」
トゥール伯爵家に姿を見せたランドールは、速やかに夫人の執務室へと通された。
夫人は、柔やかにそれでいて刺すような視線をランドールに向ける。そんな状況下で、彼は落ち着いていた。
「私に用があるなら、正式な手続きを踏んで下さい。跡け回す様な事をせず。」
「娘の婚約者ですけれど、お伺いが出来る状況かしら?侯爵家の屋敷から、姿を消した貴方に?うちの娘を、傷つけた者に?逃げ回るしか能が無い腰抜けに?」
夫人は、手にした黒い扇子をバサリと広げて口元を隠すとクスクスと笑う。
「どれだけ、守られ許された存在だったのか分かりもしない、糞餓鬼に正当法が通用すると言うの?」
夫人は、パシンッと扇子を畳んで両手に握り込んだ。
「黙って、結婚まで進めれば目を瞑っていたものを!侯爵の矜持だけで贅沢三昧のあの女、内実は火の車の貧乏一家が何様のつもり!?直ぐにでも、うちは融資を切っても構わないのよ!」
ランドールは、僅かに眉間にしわを寄せる。母が、父に秘密裏にトゥール伯爵家から勝手に金を引っ張っていたのは知っていた。
セニアル侯爵家は金を、トゥール伯爵家はより強い影響力を。それは、貴族の政略結婚でよくある話。
母はいつまでも〝女〟で、結婚しようが出産しようが、お構いなく着飾り社交場を蝶の如く飛び回る。
これも、珍しい話では無い。が、…。
「融資を切るなら、切って下さい。私には、迷惑な話でしか有りません。」
「ふふっ、あのお花畑の母親よりは少しはまともかしらね。まぁ、黙っていない辺りが厄介だけど。」
トゥール伯爵夫人は、にやりとして言った。
「まぁ、良いわ。それより、娘に会っていって下さる?可哀想なバネッサは、ずっと泣き暮らしているのよ?」
「お断りします。私は、婚約解消の為に来ました。会う意味はありません。」
トゥール伯爵夫人の視線が、一瞬険しくなったが直ぐに細められた。
「婚約解消をお望みなら、尚更最後に会って下さい。恋破れた憐れなあの娘に…。」
「…、分かりました。」
ランドールは、バネッサの部屋へと案内された。部屋の前で、アルマと別れ中に入った。
部屋の中は、薄暗くガランとしていた。そして、何とも言えない甘ったるい臭いが立ち込めている。
「ぐっ…。!?」
ランドールは堪らず部屋を出ようと振り返るが、ガチャリとした金属音が響いた。同時に、外でアルマが叫ぶ声が聞こえる。
「アルマ、逃げろ!アルマ!!」
ランドールは、ドアに体当たりするがビクともしなかった。暫く、部屋を出ようとドアや窓を叩いたがどうにも出来なかった。
(気持ち悪い…。目眩がする…。)
そうして、ランドールは床に崩れる様に倒れた。
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次回投稿は、明日20時です。




