真っ赤に吹き出した怒り 下
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セニアル侯爵夫人が居なくなり、静かになった部屋でヘンリエッタはふらふらと長椅子に近寄ると、ドサリと横になり目を閉じる。
この数分間の出来事が、彼女を酷く消耗させたのだ。
(何というか、凄かったわ…。)
そのまま、暫く目を閉じていればドアの開く音にそちらを見た。そこには、ユリアを連れたリュシウォンが心配げにこちらを見ている。
「リタさん、大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。心配かけてごめんね。」
リュシウォンは首を振りながら、起き上がるヘンリエッタに手を貸す。
「ランドール様に会いに行っちゃ駄目だよ、リタさん。」
目を丸くするヘンリエッタに、リュシウォンは続ける。
「上手く言えないけれど、リタさんにはイリウス様がいて、ランドールさんは別の人がいるんでしょ?」
「ええ…。」
「イリウス様が傷付くよ。ランドールさんだって、今リタさんに会うのは嫌だと思う。ねぇ、セルマンだってそう思うでしょう?」
リュシウォンは、部屋に戻ってきたセルマンを見上げる。
「そうですね。お会いになるのは、辞めた方が宜しいかと思います。これまでの事を考えても、今の侯爵夫人の様子では危険です。」
「では、何もするなと言うこと?」
「うーん、そうかな…。」
「そうですね。」
ヘンリエッタは、俯いて暫く黙っていたが呟いた。
「まぁ、ランドールが何処にいるかなんて本当に知らないし。何もやりようが無いわ。」
否、イリウスに聞けば教えてくれるだろうが、それは自分の自己満足に過ぎないから聞いていない。
「リュシー、貴方いつの間にそんなに大人な考えになったの?」
「僕はもっと早く、本当の大人になりたいよ。」
リュシオンは言うと、プイッと剥れて行ってしまった。
「え…?」
「「お嬢様…。」」
「罪な方だ。」
「無自覚という、罪ですね。」
目を丸くするヘンリエッタに、セルマンとユリアが溜め息混じりに言った。
「リュシオン様は、お嬢様が思われているよりもずっと大人びた方でいらっしゃいます!」
「家庭教師達から、あの方の優秀さには舌を巻いていると聞きます。」
「そうよ、あの子は賢いわ。」
「「お嬢様…。」」
その後、セルマンやユリアに口々に言われて、ヘンリエッタは反省する事になる。
◇◇◇◇◇
(私の見ていたランドールは、何だったのだろうか…。)
月明かりの入る寝室の長椅子に座り、ヘンリエッタは一人考える。
勤勉、努力家で真面目。それでいて、甘いマスクに鍛え抜かれた肉体。愛してくれる家族。物腰の柔らかさと、人の心を開かせる話術。
何かと、人集りの中心にいたランドール。
全てが完璧な彼だと、思っていた。
けれど…。
何故、ランドールがドラメント伯爵家に四年も通ったのか。
(そんな事、日常になっていて考えもしなかった…。)
そして、侯爵夫人のあの怒り様と、姿を消したランドール…。
ヘンリエッタは、月を見上げた。
(ランドールも、孤独だったの…?)
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
次回投稿は、明日20時です。




