桃色に輝く休暇 下
サクッと楽しんで下さいね。
それからのヘンリエッタは、日中はイリウスに付きっきりで泳ぎを教わる。
二日目位までは、筋肉痛もあって体は辛かったが、徐々に体は慣れた。とはいえ、五日の滞在では泳ぎの完全な習得までにはいかなかった。
けれど、けり足やバタ足、顔を水につけた息づきはマスター出来た。
リュシウォンが、少しだけ泳げる様になったのを遠目で眺めるヘンリエッタはイリウスに手を引かれて湖から上がる。
「凄い進歩だ。よく頑張ったよ。」
イリウスは言って、ヘンリエッタにバスタオルを肩から羽織るようにすっぽりと掛けた。二人は並んで湖畔に焚かれた火に当たり、冷えた体を温める。
「貴方の指導が、良かったわ。凄く、分かりやすかったもの。頭のイメージ通りにするのが課題ね。」
「あとは、練習を重ねてそれぞれの動きを合わせるだけだよ。…明日は、やはり帰るの?」
「ええ。」
五日の滞在はあっという間で、明日の朝食後には王都へ戻る。リュシウォンの勉強や、自分の堪った仕事が待っている。
それは、誰も変わりがいない事ばかりだから。
テントの中で着替えると、リュシウォン達より一足先に別荘に向かう。木立の中を手を繋ぎ歩くイリウスに、ヘンリエッタは言った。
「これまでの私は、王都の決まった場所と領地しか知らなくて、知識は本やお父様からの手紙だけだったの。今回の体験は、貴重な事ばかりだったわ。」
日中のほとんどは、湖での泳ぎの練習に占められていたが、バーベキューやカードゲーム、夜は天体観測やご令嬢達は恋バナで大盛り上がりと楽しい日々だった。
「こんな時間が過ごせるなんて、一年前まで思っていなかったわ。私には、ただ目の前にやらなきゃいけなかった仕事があったというだけだったから…。」
ヘンリエッタは、隣のイリウスを見上げる。
「ありがとう、貴方のおかげだわ。」
「俺達も、楽しかったよ。本当は、自分から誘うつもりが、クリスに先を越されたけれど…。」
イリウスは、ヘンリエッタの両手を握ると跪いた。
「ヘンリエッタ・リエ・ドラメント、どうか私と正式に将来の結婚の約束をしていただけませんか?」
イリウスの急な申し出に、ヘンリエッタは一瞬止まった。けれど、直ぐに微笑んで頷く。
「はい。」
イリウスは、紫色の巻き貝をヘンリエッタの手に握らせる。それは、古くから紫色の染料にも使われる、イリウスの色の元になっている貝殻。
「ありがとう、イリウス。」
嬉しげに笑うヘンリエッタを、イリウスは抱き締めた。
「今夜のディナーの時、皆に今の事を言っても良い…?」
「ええ。」
ヘンリエッタも、イリウスを抱き締め返した。
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次回投稿は明日20時です。




