桃色に輝く休暇 中
サクッと楽しんで下さいね。
荷物を任せて、準備が整うとヘンリエッタ達はイリウスに連れられて別荘に近い湖へと向かった。木立を抜け、開けた場所に出れば目の前には湖が広がっている。
浮き袋に捕まるクリスティーナとケイトが、湖の中からこちらに手を振っていた。
「ヘンリエッタ!待っていたわ!」
「ヘンリエッタ様!」
「クリスティーナ様!ケイト様!」
ヘンリエッタ達の姿を認めた二人は岸に向かって泳いできた。浅瀬まで来ると、座って彼女に手を差し伸べる。
ヘンリエッタは、上着をするりと脱ぐとアンに渡してちゃぷりと右足を入れる。ふらつく体を、クリスティーナとケイトの手が支えてくれた。
ヘンリエッタを中心に、三人のご令嬢は並んで座りお喋りを始める。木々の向こう側に、山脈と白亜の別荘の姿が見えた。
「美しい場所ですね…。」
「ここは年中、地下水が湧き出ているんですって。山脈から降りてくる冷たい風で、この時期は特に過ごしやすいわ。」
「こうして浅瀬で休みながら泳ぐのが、丁度良いですね。」
湖の方を見たヘンリエッタがぽつりと呟く。
「私、ここ以上深い場所に行くのは不安です…。」
「大丈夫よ、ヘンリエッタ!この湖、一番深くて私の身長より頭三つ分位しか無いの。貴女なら、底に足を付けて頭のちょっと上辺りかしらね。浮き袋もあるし、周りには人もいるから心配しないで!他の場所は、もっと深かったりするのよ。」
「少しずつ慣れたら良いじゃないですか、ヘンリエッタ様。」
「ええ、そうします。」
立ち上がってヘンリエッタの両手をそれぞれ引いて歩く様子を、湖畔から眺めるオーバルは隣のイリウスに呟く様に言った。
「最高だな、イリウス…。あそこだけは、天国か…?」
「はい、兄上。」
プライベートな場所であるにしても、ご令嬢達の水着姿を拝めるとは目の保養だった。
「カイエン、来年はジュリア嬢を誘え。お前も、こっちの世界に来い。」
「えぇ!?そんな、無理ですよ…。」
まごまごするカイエンにオーバルは言う。
「誘う前から諦めるな、お前ならやれる。お前だって、目の前に広がる天国を堪能したいだろ?」
「うぅ…。」
イリウスは、カイエンの背を叩いた。
「カイエン。お前が思う以上に、お前はいい男だよ。」
「ありがとう、ございます…。」
カイエンが微笑んだ所で、オーバルは弟達の肩を抱いた。
「そうだ!自信もて!何たって、お前達は俺の自慢の弟達なんだからな!」
「え、ちょっと…!」
「ぐぇっ!」
二人はそのまま背骨が軋むほど、兄にハグされた。
そんな三兄弟を、リュシウォンは傍らで静かに見上げる。そんな彼に、オーバルは手を差し出す。
「お、混ざるか?えっと、…リュシウォン?」
「いえ、お気持ちだけ頂戴致します。」
サッとイリウスの後ろに隠れたリュシウォンに、オーバルは密かに涙を流しす。そこに、耳慣れた鈴を転がす様な声がした。
「あら、我が家の息子達は本当に仲良しね、バティントン?」
「そうだな、エミリア。」
「あぁ、でもどうしましょう。今日は、若い弾けるご令嬢達の水着姿を前に、私の水着姿なんて恥ずかしいわ…。」
「エミリア、そんな事無い!他の誰でも無い、私が望んでいるからね!気負う事は無いよ、我が愛しのエミリー。さぁ、見せておくれ。」
「もぅ、嫌だわ。年頃の息子達の前よ。」
イチャつく熟年夫婦を前に、リュシウォンがぽつりと呟く。
「凄く、仲良し…。」
「凄いだろう?あの二人、いつもあんな感じなんだ。時機に慣れるから、俺達も行こう。」
そう苦笑いしたイリウスは、湖のヘンリエッタを目指して歩き出した。
◇◇◇◇◇
「浮き袋が有って、良かったわ…。」
浮き袋をしっかりと抱き込むヘンリエッタは言った。やはり、見るとやるでは大違いで彼女はゆらゆらと湖面に浮かぶしか無い。
けれど、クリスティーナの言ったように透明度の高い湖の底は足元に見えるほど浅く、そしてここから湖を楽しむ皆の姿が見えて嬉しい。
リュシウォンは、カイエンやオーバルから泳ぎを習っているのが見えた。
(リュシーをあまり外へ出せなかったから、今回は連れて来られて良かった…。)
「ヘンリエッタ、浅瀬に引っ張ろうか?」
ヘンリエッタの所まで、泳いできたイリウスが言った。
「いいえ、大丈夫よ。貴方は流石に、泳げるのね。」
「まぁ、熱血なオーバルが居るからさ。リュシウォンも、帰るまでには泳げる様になるんじゃ無いかな?筋が良さそうだ。」
浮き袋を摑むヘンリエッタの後ろ側に回ったイリウスは、背後から囲むようにして彼女の浮き袋に両手を掛けた。
「私は、今回はそこまでいきそうには無いわ。浮いているだけで、精一杯。」
「ケイトも、去年の二週間の滞在でみっちり仕込まれて、最後にコツを掴んだからね。焦らないで、大丈夫だよ。」
「それも、オーバル様が…?」
「そう、付きっきりでね。ケイトが根を上げなかったし、オーバルも根気強く教えていたからさ。」
普段はおっとりしていても、ここぞという時に芯の強さを発揮するケイト。文武両道、情熱的で人を大事にするオーバル。
「素晴らしいわね…。」
「俺も、君に教えようか?」
「貴方になら、お願いしたいわ。」
「喜んで。」
振り向くヘンリエッタに、イリウスは触れるような口付けをした。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
次回投稿は明日20時です。




