桃色に輝く休暇 上
サクッと楽しんで下さいね。
午前中ハドソン家で過ごすヘンリエッタは、ハドソン公爵家の末娘のクリスティーナと長子のオーバルの婚約者ケイトと共に刺繍や編み物に勤しむ。
ヘンリエッタはまだ練習の段階だが、他の二人はチャリティーに出すハンカチーフの刺繍をしていた。
「ケイトの刺繍は、縫い目が綺麗で早いわ。」
「クリスティーナの刺繍は、色遣いが素敵ね。」
二人の令嬢が、楽しげに会話しながら針を刺していく中、ヘンリエッタは見本を見ながら注意深く布に針を刺していく。
侍女が別のテーブルにお茶を準備しだしたのに気が付いて、ケイトが言った。
「ヘンリエッタ様、休憩しませんか?根を詰めても、体に毒ですし。」
「あ、はい。」
クリスティーナが、ヘンリエッタの刺繍をズイッと見て言った。
「針を刺すスピードが早くなったわ。縫い目が揃って、綺麗になってる!」
「まだお二人には敵いませんが、ここまでは何とか…。」
「ヘンリエッタが来て、まだ一ヶ月よ!?始めを知っているから、これは凄い進歩だわ!」
「ヘンリエッタ様は、努力家ですから直ぐに上達しますよ。」
二人から夫々に褒められて、ヘンリエッタは少し嬉しくなる。
「ありがとうございます。この調子で、続けます。」
ハキハキと素直なクリスティーナ、おっとりとしているが芯のあるケイト、知的で努力家なヘンリエッタ。
性格、年齢、身分にも全く共通点が無い三人だが、各々にリスペクトすべき個性と才能を認めている為か、不思議と馬が合い直ぐに打ち解けた。
「そういう言えば、ヘンリエッタ様は北の別荘に行かれるのですか?」
ティーカップに手を伸ばした、ケイトが言った。
「別荘…?」
ヘンリエッタが首を傾げるのに、カヌレ・ド・ボルドーを飲み込んだクリスティーナが応える。
「ハドソン家は毎年、夏場には北の別荘、冬場には南の別荘に二週間位保養に行くの。そうね、再来週には行くって言っていたわ。イリウスお兄様から、聞いていない?」
「いえ…。」
「そっかぁ…、イリウスお兄様は行ったり行かなかったりだから。今年は行かないから、話していないのかしら?今回、ケイトはどうするの?」
「私は、婚前最後の夏ですから別荘の後に祖国のハローティに帰国しようかと思っています。オーバルも私と一緒に来る方向で調整してくれています。」
「冬は結婚準備で忙しくなるものね。」
クリスティーナの言葉に、ケイトが頷いた。
「ヘンリエッタ、一緒に行きましょ?イリウスお兄様が居なくたって、楽しめるわ!私が泳ぎを教えてあげる!」
「泳ぎ!?クリスティーナ様は泳げるのですか!?」
「そうよ!ケイトだって、昨年泳げるようになったの!ねぇ、行きましょうよ!」
泳ぎを教えて貰えるなんて、泳げないヘンリエッタには凄く魅力的だ。しかも、彼女には王都の屋敷周辺と領地しか知らずに生きてきた。
これまで、旅行というものをしたことは無い。
だが、そこでハッと気が付く。
「えっと…、お話を聞いたばかりで。しかも、今はうちに預かっている子もいますし。」
「あら、一緒に連れて来たら良いじゃない!リュシウォンでしょう?」
「え、リュシーの事をご存知で?」
「お父様やイリウスお兄様から話を聞いているわ。私、会ってみたい!」
ヘンリエッタは、リュシウォンの事を話した事は無い。リュシウォンの立ち位置は、外交に関わるほど微妙な感じだと思って、何となく話して良いのかが分からなかったからだ。
(イリウスは、リュシウォンに何回か会ったことがあるからそれで調べたのかしら?私だってあまり知らないあの子の事を、何処まで知っているのかしら?)
考え込むヘンリエッタに、ケイトが言った。
「私の事なら、お気になさらず。確かに、ハローティとサバナは微妙な関係ですけれど、国の体面と個人の感情が同じとは限りませんから。」
「ケイト様…。」
「じゃあ、一緒に行きましょうよ!」
「今日帰ってから、リュシウォンに聞いてみますね。」
「ええ、お願い!」
クリスティーナは、残りの欠片のカヌレ・ド・ボルドーを口に含み嬉しげに笑った。
◇◇◇◇◇
それから二週間後、ヘンリエッタはリュシウォンを連れてメルトン北部の湖畔に建つハドソン家の別荘に降り立つ。二日前に到着している、イリウスが和やかに彼女等を出迎えた。
「待っていたよ、二人とも。良く来たね。」
「お招きありがとうございます。」
「こんにちは、イリウス様。」
イリウスは、二人に頷いて言った。
「部屋は夫々に準備したから、荷物を運び入れよう。」
「五日とはいえ、結構な量なのでお願い致します。」
ヘンリエッタ達は、ハドソン公爵達より短く五日だけ滞在する事にした。
「皆は、もう湖に行っているよ。準備が出来たら、俺達も行こう。」
彼の言葉に、ヘンリエッタは微笑んで頷いた。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
次回投稿は明日20時です。




