ひび割れる黒い世界 下
サクッと楽しんで下さいね。
(このままでは、いけない…。)
ランドールは、直ぐ行動に移した。
先ずは、側近の護衛のアルマとニードルに話をする。
「二人には、明日から私の護衛を外れて貰う。」
「えぇ?」
「何故ですか!?私は、そんな話は受け入れられません!」
目を丸くするニードルと食い付くアルマに、ランドールは溜め息を着く。
「セニアル侯爵は、その内に落ちぶれる。食いっぱぐれたく無ければ、今の内に新たな雇い主を探せ。」
「えぇ!?」
ニードルは益々目を丸くした。
「ランドール様は、どうされるのですか?」
「それは、お前達には関係ない。」
「関係あります、私はランドール様の護衛を辞めません!」
「アルマ…。」
渋い顔をするランドールに、アルマは頭を下げる。
「お願いです、私の給金は要りませんから傍に置いて下さい。」
アルマの姿を見ていたニードルは、頭を搔いて言った。
「ランドール様は、侯爵家を出られるのですか?」
「えっ!?」
「だから、俺達に護衛を外れろなんて言うんでしょう?」
ランドールは、二人から顔を背ける。驚くアルマの隣で、ニードルは言葉を続ける。
「俺だって、ランドール様の護衛は外れたくありません。貴方以上の主に会うなんて、この先は考えられません。…でも、全く給金が無くなると仕送りが出来なくなる。それじゃあ、兄妹達が食っていけないんです。」
ランドールは、二人に言った。
「二人の気持ちは嬉しい。だが、君達の生活を支える力あってこその関係だ。」
「しかし、…!」
「ランドール様、本当に貴方様がそんなにお力が無いのか考えて下さい。貴方ほど優秀な方は、そうそういません。侯爵家出るにしても、住む場所は要るでしょうし、信用出来る従者だってそう探せません。先の生活全てを考えて、どうしてもランドール様が無理だと言うなら、その時は俺も諦めます。」
ニードルの言葉に、ランドールは頷いた。
こうしてランドールは、自身の所有物の総量や財産、収入を把握し、王都にある貴族専用の不動産と使用人を紹介する仲介所の門を叩く。
休日に幾つかの物件を見て回り、使用人志願者を面接していった。
◇◇◇◇◇
ある日のハドソン公爵家の書庫で、難しい顔をしたイリウスがヘンリエッタに言った。
「ランドールが、セニアル家の屋敷を出た。」
「え…!?それは、どういう…?」
目を見開いたヘンリエッタの手から、持っていた本が滑り落ち、バサリと床に落ちる。
「あ、すみません…!」
床に落ちた本を拾うイリウスは、首を振る。
「いや、君に言えば驚くと思っていたし、言うべきかも迷ったんだが…。一応、知らせておこうと思ってさ。」
「…ありがとうございます。でも、どうして貴方がそんな事を知っているの?ランドールの、上司だから?」
「いや、俺が王都でやっている貴族専用の不動産と使用人の仲介所に、ランドールを紹介した書類が上がっていたから、それで知ったんだ。」
「仲介…。」
イリウスは、頷いて言葉を続ける。
「対応した者に聞いたら、侯爵家始め自分の事を聞いてくる人間には知られたくないらしい。新婚なら先ずそんな事をしないし、職場に届も出ていない。大体あの二人が結婚したら、派手にやるだろうから準備の段階で直ぐ知れ渡るはずだ。」
「そうですね…。」
俯きがちになるヘンリエッタに、イリウス言った。
「まぁ、幼なじみの心配をするなって言う方が無理な話だけど、ヘンリエッタは我慢してランドールをそっとしといてやる方が良いと思う。」
そう言い切るイリウスに、ヘンリエッタは首を傾げる。
「え、それは何故…?」
「弱ってるとこは、見られたくないだろう。特に、好きな女には。」
「弱っているのに?」
「格好良い所だけを、見せておきたいさ。しかも、ランドールにとって君は手に入りそうにない相手だからね。」
ヘンリエッタは、目を丸くしてイリウスを見る。
「格好付けている場合?」
「そりゃあ、まぁそういう時もある。」
「私は、弱ってるなら駆け付けたいわ。」
「えぇ!?」
「だって、一人で悩むより二人で悩めば解決策はその分多く出るし、二人なら一人より早く出来るでしょう?」
「それは、女性ならではの考えでは…?」
「格好付けて、闇から抜け出すのが遅くなるよりずっと良いわ。」
イリウスは笑うと、ヘンリエッタを抱き寄せる。
「それなら、俺が弱った時は頼むよ。」
「ええ。孤独に立ち向かい続けるのは、辛いわ…。」
イリウスは、ヘンリエッタの顔を覗き込む。
「貴女は、今も孤独?」
ヘンリエッタは一瞬目を見開いたが、微笑んで首を振った。
「いいえ。」
「それなら、良かった。」
そう言って、イリウスはヘンリエッタの唇を塞いだ。
◇◇◇◇◇
ハドソン家からの帰り道、ヘンリエッタはぼんやりと考えていた。
(私から見えていたランドールの姿は、本当は違っていたのかしら…。)
恵まれた美しい容姿と溢れる才能、人を沼に引き込む話術と物腰を備えていた。
そんな彼の微笑み一つで、どれだけのレディ達が彼の手中におちるのか。そして一国の権力さえ揺るがしかねない、社交界での圧倒的な影響力を持った侯爵子息。
ランドールにはそんな後ろ盾が無くとも、自分の力で世界を渡るなど造作ないだろうとも思っていた。
(バネッサとは、上手くいっているのかしら…?)
そこまで考えたヘンリエッタは、首を振る。
いつだったか、セニアル侯爵夫妻に挨拶したことがあったが、彼らにはあからさまに嫌がられて、それきりだった。
そして今、ヘンリエッタとランドールは交流が一切無い…。
(本当はランドールの力になりたいけれど、今の私がそう考えるのは余計なお世話かしら…?)
最後まで読んで頂きありがとうございます!
次回投稿は明日20時です。




