紫色の瞳に移る世界 上
サクッと楽しんで下さいね。
気が付けば、集まってワイワイとしている家族だ。
小さな衝突は度々あるが、喧嘩は互いが顔を付き合わせて納得する様に解決すべしという両親の教えに従ってそれなりに解決してきた。
優秀な兄と抜け目の無い弟のお陰で、王位継承権なんてものに早くから興味は無かった。来年結婚する兄が、順当に継げば良いと思っている。自分の生活と、生まれから来る厄介事から身の安全が確保されればそれで構わない。
大学校を卒業して公務を引き受けたのは、長年王家の人間として公務をしていたのを引き継いだのと、成人したからと言う理由で色々と任される事が増えただけに過ぎない。
それでも大学校時代に縁あって起こす事になった仲介業や製造業には、大いに影響がある。
端的に言えば、このまま何役もこなす人生だということ。
そして、そういった生き方が性に合っているということ。
王族の後光によって、暇つぶしになる異性には困らないが、無駄な時を過ごす気は無い。けれど全てを無下にも出来ないので、のらりくらりと当たり障り無く、口の固い相手に絞り付き合っては別れるを繰り返す。
海外留学から帰国した兄が、今の婚約者を連れてきた時、両親や周りは喜んで彼女を受け入れた。弟は、慎重に意中のご令嬢とお近づきになっているのを温かく見守られている。妹の方は、父が寄せ付けないので今の所は何も話が無いテレビ。
自分には、そんな気配が無いと失礼にも心配される始末。まぁ、言う気もないが…
結婚にそこまで興味は無いが、わざわざ結婚するなら父や兄の様に、自分の全てを捧げても良いと思える相手としたいと思う。
まぁ、そんなご令嬢がいればの話だと高をくくっていた。
◇◇◇◇◇
ヘンリエッタの存在は、割と早くから知ってはいた。
幼い頃より成績優秀、二年飛び級して大学校に入学を果たしたランドールは、入学後も成績は学年トップクラス。甘いマスクに、柔らかな物腰で直ぐにご令嬢達が群がる存在。
うちのクリスティーナも、漏れなく虜になった…。
それにランドールの実家であるセニアル侯爵家は、その歴史と功績から三代前の王族から姫を嫁がせた程の名門。だから、よく家族で陛下や王宮関係主催の行事に呼ばれて顔を合わせる機会が多い。
そんな彼がいつも寄り添うご令嬢が、ヘンリエッタ・リエ・ドラメント。
見た目は悪くない。寧ろ美人だが何故、あのランドールがそこまで彼女にこだわるのかは分からなかった。
社交界デビューはしたらしいが、それ以降は国王陛下主催の舞踏会以外一切出席しない。出席しても、壁の花。彼女に近寄れば、ランドールの親衛隊である多くのご令嬢達から敵視されるので、同年代の誰もが彼女には近寄らない。
ランドールはそれを気にするでも無く、寧ろその状態を歓迎している様に見えた。
(王族の間では、よく名前を聞くがあれでは、世間の一ご令嬢としてあれでは生きて行くのは大変だろうな…。)
いつもランドールが隣にいて、それでいて一人の時は静かに壁の花と化す彼女。見るからに社交慣れしていないし、ランドールが常に隣にいるために友人すらいない様だった。
これまで上手く、ヘンリエッタを隠していたなと思う。彼女は、これまでキスすら知らなかった様だ。
(大事にし過ぎて、手を出せなかったか…。ま、お陰で俺には良かったが。)
そんなランドールは、家の勧めでトゥール伯爵家のバネッサ嬢と正式に婚約してから、その華やかさ紳士的な物腰の柔らかさを失った。けれど以前と変わらぬ優秀ぶりで、日々仕事をこなしている。
元々、プライベートな事を話す仲では無かったが、あんなにべったりと一緒にいたヘンリエッタ嬢を失った喪失感を一切感じさせない。俺が彼女にアプローチしていた事も知っているはずだが、何も言ってはこない。
この男が本当は何を考えているのか、ある種の恐ろしささえ感じる事がある…。
「イリウス様、先週出された警備安全法の改訂文書です。」
「ああ、確認しよう。」
そうして、イリウスはランドールから書類を受け取った。
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次回投稿は明日20時です。




