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白亜の城の住人達 下

サクッと楽しんで下さい。


 反対側の、裏門と西門、馬屋や運動場、そして広大な菜園を見て再び螺旋階段を降りる。使用人通路から、華やかな空間へと戻った。


「イリウス様、…イリウスは、使用人通路までよく知っているのね。」


 ヘンリエッタの言葉に、イリウスはにこりとして頷く。


「子どもの頃から、色々探検するのが好きだったんだ。まぁ、家庭教師からの課題の息抜きにはなっていたかな。」

「そうだったの。」

「この建物の全体はコートハウスなんだけど、今いるのは南東の角だよ。後は部屋の配置の順に覚えたら分かりやすいと思う。」

「ええ、そうね。」


 それから、イリウスはヘンリエッタに二階を案内して最後に一枚の扉の前で止まる。軽い咳払いをして、神妙な顔で彼女に言った。


「それで…、ここは俺の部屋なんだけど、見ていく?」

「良いの…?」

「勿論、歓迎するよ?」


 目を丸くするヘンリエッタに、イリウスは微笑んでドアを開けた。彼女は、興味本位にそっと足を踏み入れる。


 広い部屋であったが、そこにはキングベッドと机、本棚、長椅子、テーブルというこざっぱりとした空間だった。一つ一つの物は上等な作りだったが、配色も青やグレー、白とまとまっていて部屋のスッキリ感を助長している。


「凄く、シンプルなのね。王族だから、もっとゴテゴテした部屋かと思っていたわ。」

「あはは、よく言われる。金銀で眩しい場所なのかってさ。まぁ、王家の歴史として引き継いだ物にそういった物はあるけれど、私室は個人の好みに委ねられているから。」

「まぁ、あまり眩しい場所では落ち着けないわね。」

「そうそう。」


 二人で一頻り笑い合うと、ヘンリエッタはイリウスの腕に絡め取られた。


「まだ…、一階の案内が残っているわ?」

「少しだけ…。どうせランチの為に、後で降りるから。明日からは、こんなにゆっくりと一緒にはいられないしね。」


 ヘンリエッタはイリウスに抱き締められたまま、彼の日常に思いを馳せる。

 王族だからと、王宮で贅沢三昧していると思われている事もあるが、彼等は日々細かな取り決めの中で膨大な公務を捌いて暮らしている。国王家族が担えない分を、王弟であるハドソン家が肩代わりしている役目も多いのだ。


「貴方が、少しでも休めたら良いのに、付き合わせてごめんなさい。」

「謝ることは無いよ。貴女がいてくれるからやる気になるし、今だって英気を養っている。」

抱擁(これ)が…?」

「そう。貴女に触れる全て、想う全てが俺の力になる。だから、否でなければ少しでもこうしたい。」

「そうなの…。」


 暫く二人は抱き締め合って過ごしていたが、ランチ時が近付いきたのを確認したイリウスは、渋々とヘンリエッタを離した。


 それから一階に降りて案内されて回り、最後に食堂へと入る。すると、既に席に付いていたクリスティーナが手を振ってきてヘンリエッタは笑って応じる。ヘンリエッタはイリウスの横、ケイトの前に案内された。

 彼女が席に付けば、わらわらと他のハドソン家の面々が食堂に入って着た。食事は彼等の貴重な情報交換の場でもあり、ヘンリエッタは彼等の賑やかな食卓を共に囲む事になる。


 ◇◇◇◇◇


 今日は初日だからと、ランチを終えたヘンリエッタは早めの家路に付いた。馬車に乗り込んだヘンリエッタは、ハドソン家の敷地を出た所で安堵の溜め息をつく。


(無事に終えた…。)


 ぼんやりと車窓を眺めて、ハドソン家での時間を振り返る。


 慣れない場所であったが、皆が好意的に接してくれるお陰で厭な気はしなかった。

 これまで、大した後ろ盾も無く広い社交をしてこなかったヘンリエッタにとって、家の外、ましては他の貴族との関わりは苦痛でしか無かったのに…。


「こんなに温かな場所があるなんて、知らなかったわ…。」


 そう一人呟いて、ヘンリエッタは目を閉じる。不思議とその胸の内は、ぽかぽかとした暖かさを感じていた。

 



最後まで読んで頂きありがとうございます!

次回投稿は明日20時です。

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