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白亜の城の住人達 上

サクッと楽しんで下さいね。


 馬車はハドソン公爵家の屋敷の前でゆっくりと停まった。

 馬車の扉が開くと、そこには微笑むイリウスがヘンリエッタに手を差し伸べていた。


「よく来たね、ヘンリエッタ嬢。今日は、一段と綺麗だ。」


 降りてくるヘンリエッタの手を取るイリウスは、彼女の全身をなぞるように見ると溜め息をつくように言う。


「イリウス様、ご機嫌よう。ありがとうございます。」

 

 ヘンリエッタは微笑んでイリウスの腕に摑まり、漸く見慣れた公爵家の白亜の屋敷を見上げる。


(こんなに、縁が続くなんて思わなかった…。)


「行こうか。皆が、君を待ち侘びているよ。」


 イリウスに促されて、ヘンリエッタは頷いて屋敷に入った。広間に入れば、公爵夫妻を中心にハドソン家の子供達とオーバルの婚約者のケイトが待っていた。


 イリウスの腕から手を離し、ヘンリエッタはカーテシーを取る。彼女の頭上から、公爵の静な声が降ってきた。


「よく来てくれた、ヘンリエッタ嬢。今日から、少しずつ公爵家(我ら)に慣れていって欲しい。」

「ハドソン公爵、夫人。この度は、過分なご配慮を賜りお礼申し上げます。」


 ヘンリエッタの返答に、夫人の軽やかな声が懸かる。


「ヘンリエッタ嬢、そんなに硬くならないで。私達は、今日貴女が来るのを楽しみにしていたのよ。」


 夫人の言葉に続いて、クリスティーナが言った。


「そうよ!来て下さって、嬉しいわ!」

「クリスのお守りに来るわけじゃ無いだろ。」


 妹の言葉に、カイエンが溜め息混じりに言う。


「お守りって何よ!私もう十歳よ!子どもじゃないわ!」


 クリスティーナがカイエンに噛み付いた所で、夫人が手を叩いて言った。


「いくら身内とはいえ、ヘンリエッタ嬢が来た初日に自己紹介も無く話し始めるなんて、まだまだ子どもよ?()()()()?」


「はい、申し訳ありません。」

「ごめんなさい。」


 二人が黙った所で、苦笑いする公爵が言った。


「賑やかな家族で申し訳ないな。だが、普段からいつもこんな感じなのだよ。」


 ヘンリエッタがイリウスの方を見れば、彼も困ったように笑って頷いた。

 公爵は和やかに言葉を続ける。


「では、改めて自己紹介をしようか。私は、バティントン・クルー・ハドソン。この国では、国王の弟をやらせて貰っている。ヘンリエッタ嬢には、以前命を救われたな。貴女を喜んで、我がハドソン家に迎える。何かあれば、気兼ね無く言ってくれ。」


 ヘンリエッタが会釈すると、公爵の左側にいた夫人が話し出した。


「エミリア・シエン・ハドソンです。バティントンの妻、ハドソン家の母です。そして、ロマニエル殿のファンですわ。今日を楽しみにしていましたの。」


 母に次いで、公爵の左側のオーバルが話し出す。


「イリウスの三つ上の兄、オーバル・ルメン・ハドソンです。」


 母の隣に並ぶ二人が順に言った。


「弟のカイエン・セロア・ハドソンです。」

「妹のクリスティーナ・リリー・ハドソンですわ。」

「あとは、ケイティだな。」


 公爵の言葉を受けて、オーバルの隣にいたケイトが頷いた。


「ケイト・ヒストリナと申します。」


 公爵が言葉を繋ぐ。


「ケイティは、オーバルの婚約者だ。ハローティ出身の二十二歳。ヘンリエッタ嬢に一番歳が近い。息子の婚約者同士、話があうかもしれないな。」


 ヘンリエッタはケイトに頭を下げる。


「宜しくお願いします。」

「こちらこそ。」


 公爵は、ヘンリエッタの隣にいるイリウスを見た。


「ではイリウス、ヘンリエッタ嬢に中を案内してやりなさい。我々は夫々持ち場に戻るとして…、またランチでな。」

「はい。」


 公爵家の人々が、わらわらと出て行くのを見送ってから、ヘンリエッタはイリウスの腕に摑まり広間を出た。

 思わず、小さな溜め息が出た。イリウスは、微笑んで言った。


「緊張した?」

「あ、…えっと、はい少し。申し訳ありません…。」


 イリウスはくすくすと笑い構わないと言って案内し始めた。


「一階は、先ほどの広間や応接室、食堂、書庫と各執務室がある。二階は主に居住スペースと客間。先ずは、上から敷地が見える場所に行こう。」

「上…。」


 そうして、二階の使用人通路に入りそこからまた薄暗い螺旋階段に入った。そして、上の方から光が差したと思えば、屋根裏に出た。

 小さな窓の傍に、幾つかのクッションや、小さな簡易のテントがある。


「これは…。」


イリウスは、悪戯っぽく笑って言った。


「俺の子どもの頃のお気に入りの場所だ。普段は、屋敷の屋根を修理する出入り口。緊急時には、見張り台にもなるらしいが…。子どもの頃は、ここを秘密基地にしていてね。今も、誰かが綺麗にしてくれているみたいだな。」


 イリウスはそう言って、窓を開けるとヘンリエッタを手招きする。


「わあっ…!」


 そこは、公爵家の門や美しい庭園、塀の外の王宮までが見渡せた。


「こっちは屋敷の南と東側が一望出来るんだ。ほら、正門と東門が見える。あの白く丸いのが以前来た時の母の温室、あの東側の黒い三角がガゼボの屋根…。」

「素敵な眺めですね。」


 嬉しそうに眺める隣のヘンリエッタを見て、イリウスは彼女の右手に指を絡める。


「ヘンリエッタ、俺達の会話に敬語は止めないか?」

「え、ですが…。」

「公の場ならそれが良いが、私的な場ではいつも通りの貴女でいて欲しいというのは俺の我が儘かな?」

「いつも通り…。」

「あの、…子どもと話すような感じだよ。」

「リュシーですか?」


 イリウスは、コクリと頷く。


「俺は、貴女の事になると相手が子どもであっても余裕が無くなる。」

「え…。」

「俺はもっと貴女の事が知りたいし…、だから、その…、公爵家(うち)に来た時は貴女と触れ合う時間が欲しい。」


 ヘンリエッタは、顔を赤らめるイリウスを見てふわりと笑んで頷く。すると、イリウスにそのまま唇を塞がれた。


 






最後まで読んで頂きありがとうございます。

次回投稿は、明日20時です。

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