橙色の朝日
サクッと楽しんで下さいね。
ロマニエルは、だだっ広い自室のベッドで目を覚ます。すべすべのシーツの上で大きく伸びをすれば、勢いよく起き上がった。
(よし、やりますか!)
軽く洗面を終えると、シルクの寝間着から動きやすい綿のシャツとトラウザーズに着替る。髪を縛ると、毎朝の彼の日課であるランニングの為に表へと出た。
太陽の上る前、薄暗い時間だがストレッチを終えたロマニエルは走り出した。
薄暗い時間でも、家令のセルマンをはじめ屋敷の従者達の仕事は既に始まっている。屋敷の敷地内をランニングするロマニエルに、気が付いた彼等は次々と挨拶をしてくる。
「おはようございます、ロマニエル様。」
「ロマニエル様、今朝もお早いですね。」
そんな彼等に笑顔で答えながら、ロマニエルは敷地内を走って回る。
途中、二階の妹の部屋の窓が見える場所に出た。ロマニエルはそれを視界の隅に入れながら、走り続ける。
(長いようで、今回の帰国もあっという間だったわね…。)
今回の母国滞在中には、様々なことがあった。けれど、大事な妹が良い形で自分が去る時期がきたのは喜ばしい事だ。
正直、幼なじみのランドールが離れていった時は妹がどうなるかと心配していたが、今はそんな心配は微塵も無い。
イリウスはじめハドソン家は、何かとキナ臭い話があるセニアル家と違って安心だ。
(父上も、この話を許した事が大きいけれどね。)
ロマニエルは、思わず苦笑いする。
本当に、あの父がリュシウォン付きで帰って来るとは思っていなかった…。
その父も、領地に着いたと先日ノートンから知らせがあったから安心だろう。
妹の幸せそうな顔を見て、今回の出国ほどロマニエルが安心して出て行ける事は無かったと気が付く。
一時期は、母国で一人暮らす妹の為に帰国しようと考えていた。けれど、当の妹から拒否されたのだ。
『お兄様、私はお兄様の可能性を潰す方が、寂しいよりも嫌です。私は、お兄様のアリアが世界で一番好きですもの。』
そう言われた時、頭から水を被った気分だった。
当時、スランプに陥っていたロマニエルが抱えていた自分の問題を、妹の問題にすり替えて逃げようとしていたことに気が付いた。自分の甘えを、妹から叱咤激励された気分だった。
ロマニエルは、当時を思い出して苦笑いする。
(アタシが今も歌い続けられているのは、あの時のリタのお陰もあるわね…。)
走り終えたロマニエルが、黙々と筋トレをこなしていれば、いつの間にか朝日が上がり空を赤から橙色に染めた。その後もみっちりと体を苛め倒し、汗だくで自室の浴室へと向かった。
さっぱりした後、いつもの様に食堂へ降りると妹とリュシウォンが既に朝食を始めていた。
「おはようございます、お兄様。」
「おはようございます、ロニさん。」
「おはよう、仲良しさん達。」
ロマニエルは、二人の前に座る。
今回の出国に一抹の寂しさを覚えるのは、この温かな空気を知ったからだと感じながら…。
◇◇◇◇◇
駅のホームは、乗る客と見送りの者、荷物を積み込む業者の者、行商する者達でごった返して騒がしい。
ロマニエルは、一等席の客車の前で見送りに来たヘンリエッタとリュシウォンに別れを告げる。
「じゃあね、リタ。次の帰国は年末かしらね。」
「はい、お兄様。お待ちしています。」
「リュシー、アンタもリタの事を頼んだわよ。」
「はい、ロニさん!」
ロマニエルは、リュシウォンの頭を帽子の上から軽く撫でるとにこりと笑って汽車に乗り込んだ。
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次回投稿は、明日20時です。




