自覚したピンク色の気持ち 下
サクッと楽しんで下さいね。
舞踏会の次の日の昼下がり、約束も無いがハドソン家の子供達は長兄のオーバルの執務室にと集まってくる。兄妹皆が集まって居るとき恒例のお茶の時間だ。
「イリウスお兄様とヘンリエッタ様のダンス、息がピッタリで素敵でしたわね。」
長椅子の隣に座る妹の言葉に、イリウスは無言で笑って頷き、一口大に切ったキャラメルバナナタルトを口に入れる。
「イリウスの相手がドラメント伯爵令嬢とはな…。ランドールがトゥール伯爵令嬢と婚約したと想えば、ドラメント伯爵が帰国してきて話がトントン拍子に進んでる。俺達の時の様に、良い流れだな。」
対面に座る兄は笑って、彼の隣に座る婚約者のケイトの手を握る。ケイトは、嬉しそうに微笑んだ。
「ドラメント伯爵家は、あまり派手な家柄じゃ無いですよね。社交であまり見掛けませんし。王家は良く名前を聞きますが。」
下の弟のカイエンの言葉に、兄が頷く。
「ドラメント伯爵は、叔父上の影の側近だからな。子息は、音楽の神に愛されたメルトンの生きた宝だし。あの家は、メルトンの陰陽の外交にかなり関わっている。」
「でも、あまり知られていませんよね…?」
カイエンの言葉に、オーバルは頷いて話を続ける。
「まぁ、彼等がそれを望んでいる様でもあるし。叔父上も、あまり公にはしたくないんだろう。」
「ドラメント伯爵の集めてくる情報って、王家には割と国家機密レベルですもんね。」
オーバルは頷いて、言葉を続ける。
「叔父上は、ドラメント伯爵令嬢が身内になると内心喜んでいるかもな。娘が王家にいれば、伯爵が裏切る心配も無くなるだろうから。」
「けれど、そんな野心がドラメント伯爵家にありますの?」
首を傾げるクリスティーナに、兄達は声を揃えて言う。
「「無さそうだよな…。」」
オーバルは黙々とタルトを食べるイリウスをちらりと見て、ニッと笑うと頭をくしゃくしゃと撫でた。
「まぁ、政治的な事はとにかく。良かったな、イリウス!」
「痛いです…。」
「明後日から、ヘンリエッタ様は家に出入りするんでしょ!?すっごく楽しみ!」
「クリスの相手をしに来るわけじゃ無いよ。」
目を輝かせる妹に、カイエンが言った。
「でも、一緒に食事やお茶をする事はあるでしょう?もっと、お話したかったのよ。」
「素敵な方でしたね。私も、仲良くなりたいです。」
ケイトの言葉に、オーバルは頷く。
「新たな家族が増えるのは、楽しみだな。」
兄の言葉に、ハドソン家の子供達は皆一様に頷いた。
「足りないんだよな…。」
空の皿を見てイリウスが呟くのに、隣のクリスティーナが言った。
「タルトの追加なら、侍女に頼んだら?」
「あー、うん、そうだな…。」
ぶっきら棒に言うイリウスに、オーバルが言った。
「駄目だよ、クリス。イリウスは、既に糖分を取り過ぎている。たんぱく質にしろ。夕方は、一緒に鍛えるぞ。」
「あー…、はい兄上。」
イリウスが若干ヒクついた笑みを浮かべると、妹の隣に座る兄の婚約者のケイトがピシリと言った。
「オーバル、程々にして。この前も新人の若い騎士達が、ついて行けなかったと嘆いていたわ?」
「それは、鍛え方が甘いんだ。」
「そうは言ってもねぇ、段階ってものも考えなきゃ。」
目の前でいつも痴話げんかを始めた兄達に、イリウスは苦笑いする。
兄は優秀だが、彼の鍛錬ははっきり言ってえげつない。これまで何人もの若い兵士が彼の特別メニューに食らいついては屍と化している…。
それを日々遣って退ける兄には、周りも舌を巻いているのだ。
そんな兄の一番のストッパーは、婚約者であるケイト。彼女は元々兄が留学していた国、ハローティの大臣の娘だ。
喧嘩もするが、必ず次の日には仲直りしている。オーバルと似て、さっぱりとした女性だ。
(両親といい、兄達といい、良い見本が居てくれるよな…。)
イリウスは、僅かに微笑むとフォークを置いた。
◇◇◇◇◇
(やり過ぎたか…?)
王宮からの帰りの馬車で、イリウスは内心ヒヤヒヤとしていた。唇を許されて、嬉しさについ長々とキスをしてしまった。
(否、でもあれ位は許容範囲だろ…。寧ろ、まだ…。)
「足りないんだよな。」
廊下から、庭を見下ろしたイリウスは思わず呟く。
「はっ?」
「あ、いや…。」
後ろを着いてきていた護衛に、首を傾げられた。イリウスは苦笑いして、手を振る。
(明後日、ヘンリエッタが来るのが楽しみだ…。)
イリウスは、和やかに笑うと自身の執務室へと向かって行った。
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次回投稿は明日20時です。




