自覚したピンク色の気持ち 上
サクッと楽しんで下さいね。
王宮の庭であれだけ長いキスをしたが、その後のイリウスは全くそんな素振りを見せず、とにかくヘンリエッタに紳士的だった。
屋敷まで送ってくれたイリウスは、馬車から降りるヘンリエッタに手を差し出し彼女を助ける。
手を握ったまま、ヘンリエッタを屋敷のエントランスに連れ入ると言った。
「ヘンリエッタ嬢、今夜はありがとう。とても楽しかった。…おやすみ。」
「私もです、イリウス様。おやすみなさい。」
イリウスは微笑むと、ヘンリエッタの頭頂部に口付けを落とすと馬車に乗り込む。
月明かりの中で遠のく馬車を、ヘンリエッタは見えなくなるまで見送った。
◇◇◇◇◇
(あんなに、キスをしてしまったわ…!しかも、外で!!)
「はわわ…。」
ヘンリエッタは、昨夜のイリウスとのキスを思い出して顔を赤らめた。
(恥ずかしかったけれど、…でも、……もっとしたかった。)
「はっ!」
(私ったら、なんてはしたない事を!)
ヘンリエッタは、目を見開いて右手で口元を押さえた。
「あぁあ~…。」
今度は、青い顔になり俯く。
(イリウス様は、あの後普段通りだった…。きっと、慣れていらっしゃるのね。)
「はぁ…。」
ヘンリエッタが捩れる姿を、暫く眺めていたリュシウォンが言った。
「リタさん…、どうしたの?」
「あ、ううん何でも無いの。ごめんなさい。」
ヘンリエッタは、真っ赤な顔でリュシウォンに苦笑いする。
(いけない、リュシーとのティータイム中だったのに…。)
「今日はタルト・シトロンなのね。美味しそうだわ。」
「うん、すごく美味しいよ。」
リュシウォンが満面の笑みでタルトを口に運ぶ姿に癒されながら、ヘンリエッタは先日イリウスと行ったガスパリオの事を思い出す。
(甘い物好きのイリウス様も、きっとお好きでしょうね…。)
と思ったヘンリエッタの顔は、みるみると赤く染まった。
「リタさん、お熱?」
「いいえ、いいえ、違うの。」
ヘンリエッタは、気まずさにお茶を口にした。
◇◇◇◇◇
お茶を終えたリュシウォンは、離れた場所からヘンリエッタを心配げに見つめていたが、くすくすと忍び笑いしているアンに聞いた。
「ねえ、アン。リタさんは、どうしたの?」
「リュシウォン様、お嬢様は大丈夫です。お心の整理の為に、大人でも初めての事には慌てたり、戸惑ったりするのです。貴方様が、ご心配なさる事は何も御座いません。」
「そうなの?」
リュシウォンの言葉に、アンは和やかに頷き再びヘンリエッタの百面相を微笑んで見ている。
「ふ~ん、…?」
「今の我々に出来る最善は、お嬢様を邪魔せず見守る事です。」
「うん、分かったよ。」
リュシウォンは、暫くヘンリエッタを眺めていたがその内飽きると行ってしまった。
一人になったヘンリエッタは、お茶のお替わりを持って来たアンに言った。
「はぁ、駄目ね…。リュシーにも、心配掛けてしまって。」
「はい。ですが、お嬢様がその様なお悩みを持たれる日が来るなんて嬉しい事です。そういったお悩みは、これまであまり…無い様でしたから。」
アンは主に気遣わしげに言う。
「ランドール様とお別れになった当初は、特にお元気がありませんでしたし…。」
ヘンリエッタは、苦笑いして侍女の言葉に頷いた。
「そうね…。寂しく無かったと言えば、嘘になるわ。でも、今は大丈夫よ。」
「はい。」
「舞踏会では、ランドール達を見掛け無かったけれど。昨夜はそれで、良かったのかもしれないわ。」
アンは頷いてから言った。
「イリウス様は、お嬢様からご褒美を貰えた様で良かったですね。」
ヘンリエッタの顔はぱっと耳まで赤くなった。
「アンったら…!すごく、恥ずかしい。」
アンは、年若い主に言葉を続ける。
「お嬢様、ご自分の気持ちときちんと向き合うのです。そうすれば、今思う戸惑いや焦りは無くなります。イリウス様は急かされる方ではありませんが、やはりお嬢様の気持ちが伴う関係を望んでおられますから。」
ヘンリエッタは、姉の様な侍女の言葉を聞いて暫く黙っていたが頷く。
「そうね…、イリウス様は私の気持ちが育つのを待って下さっているわ。」
「お嬢様の事を、一人のレディとして大事にされています。」
「ええ、本当に。」
「はい。」
頬を赤く染めて嬉しそうに微笑む主を、侍女も嬉しそうに微笑んで頷いた。
次回投稿は明日20時です。




