月夜の彼女は赤く染まる 下
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(可哀想に…、緊張してガッチガチだな。)
イリウスは、ヘンリエッタをガバッと抱え上げた。
「きゃあっ!?」
抱えられた方は、目を丸くした。イリウスは、構わず彼女を抱えたままくるくると回り出す。
「イリウス、様!え?何…、ちょっ、…ぷっ、ふふふ、はははは。」
始めは驚いていたヘンリエッタが、笑い出した所で地面に降ろすとイリウスは優しく抱き締めた。腕の中の彼女は、まだ微かに笑っている。
「三日後が、待ち遠しいな。」
イリウスがポツリと呟くと、腕の中のヘンリエッタは無言で頷いた。
その三日後から、ヘンリエッタがハドソン公爵家に出入り出来るようになるのだ。
(まぁ、俺は仕事があるからどれだけ一緒に過ごせるかは未知数だが…。)
それでも、公爵家の屋敷にヘンリエッタが居るという嬉しさがある。そして、今よりは確実に一緒に過ごせる時間は増えるはず。
内心ウキウキのイリウスがヘンリエッタに頬すりすると、腕の中の彼女が控えめに抱き返してきた。彼の胸は、喜びにときめく。
(何だ、この可愛さは…。)
「ヘンリエッタ嬢…?」
「はい…?」
上を向いた彼女の顎を、右手で掬うと、そのまま唇をそっと塞いだ。
触れ合う瞬間、ヘンリエッタの体が僅かに跳ねたが、彼女はイリウスを拒絶することなく従順に受け入れた。
(どうか少しでも長く、このままで。)
唇を塞いだまま、イリウスはヘンリエッタの耳を右手ですりすりと擦る。
「ふ…んん。」
ヘンリエッタが、息継ぎの為に少し唇を離したが、イリウスは空かさず塞いだ。
可愛い
柔らかい
いい匂い
何より、離れがたい…
イリウスは触れるだけの口付けから、啄むような口付けになる。ヘンリエッタは、唇を啄まれながらも大人しく腕の中にいてくれた。
唇の柔らかさ、彼女の香り、柔らかな抱き心地…。
(いっそこのまま、連れて帰りたい…。)
理性と本能の間で、イリウスは揺れる。
ギリギリ理性が勝っているという具合だ。
(こんな苦しさがあったとは…。)
そう思った時、急に口をヘンリエッタの手で覆われた。
イリウスが目を開くと、顔を赤くして僅かに息の上がったヘンリエッタがこちらを見ている。疑問の眼差しを向けると、彼女は一度目を泳がせたが、イリウスを見てはっきりと言った。
「長過ぎ、です。」
「あ、ごめん。」
「いえ…、流石に外なので。あまりに長いのはちょっと…。」
赤い顔のまま、ヘンリエッタは俯く。
「中なら、もっと長くても良い?」
「え…っと、…考えておきます。」
(流されないな。)
イリウスは微笑んで、ヘンリエッタを解放した。二人が密着していた温かさが無くなり、彼女は自分の腕を撫でる。
イリウスは、ヘンリエッタの肩に自分の上着を掛けながら言った。
「さて、そろそろ帰るには良い頃合いだから、会場に一旦戻ろう。挨拶したら、屋敷に送るよ。」
「はい。」
そうして二人は、手を繋いで歩き出した。
イリウスは、隣のヘンリエッタをちらりと見る。彼女の頬は僅かに赤く上気していたが、どこか嬉しそうだった。
そんな彼女を見て、イリウスも思わず微笑んだ。
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次回投稿は明日20時です。




