白い民族衣装の彼
サクッと楽しんで下さいね。
この男の姿は、屋敷で待つリュシーの顔を思い出させた。
(この人は、リュシーの両親の事を知っているのかしら?けれど、敵か味方かも分からないわ…。)
「貴方は、…一体誰なのですか?どうして、メルトンにいるのですか?」
ヘンリエッタは、男を見つめて問う。相手は、にこにこと微笑んだまま答えた。
「私は、チャツネル。チャツネル・ヤードン。お見知りおきを、ヘンリエッタ・リエ・ドラメント伯爵令嬢?」
ヘンリエッタは、ちょっと考えたが立ち上がると彼にカーテシを取った。
「こちらこそ、ですわ。」
「そんなに、畏まることは無いよ。」
チャツネルは、あくまでもゆったりと構えている。
ヘンリエッタは、最初出会った時から彼のこの余裕のある態度が気になっていた。
(この人は、恐らく高位の人間…。例えば、…。)
ヘンリエッタが考えを巡らせていれば、遠くからロマニエルの声が近付いてきていた。
「リタ、ここにいたのか。」
「お兄様…。」
安堵した様子のロマニエルは、妹に近付き髪を撫でると傍のチャツネルを見た。そして、頭を下げると言った。
「チャツネル王子、こちらで貴方にお目にかかれるとは思いませんでした。」
兄の言葉に、彼は和やかに頷いた。
(やはり、彼はサバナの王族…。)
静かに見守るヘンリエッタに、チャツネルはウィンクする。その態度に、苦笑いする。
(でも、やっぱりこの人軽い…!)
「私も、貴方に会えるとは思わなかった。一年ぶりかな…?」
「はい、ハローティでの公演以来かと思います。」
「今夜のアリアも、素晴らしかった。…そして、貴方の妹君は随分と興味深い女性だな。」
朗らかに言うチャツネルに、ロマニエルは心配げに妹を見た。
「皇子に、その様に言って頂けるのは有難いお言葉ですが…。妹が何か粗相を?」
「否、特に。ではな、ロマニエル殿。ヘンリエッタ嬢、貴女とは三回目の再会があると思っているよ。」
言ってチャツネルは立ち上がると、右手をヒラヒラと振って会場の方に向かって行く。そこには、イリウスがこちらに向かって来るのが見えた。
彼等は近付くと、握手を交わし会話をしている。
その様子を見ながら、ロマニエルは妹に囁くように言った。
「リタちゃん、本当に大丈夫だった?」
「ええ、何も。王子は、お兄様のお知り合いでしたのね。」
「知り合いという程の、親しさは無いけれどね…。でも〝ウチの子〟の事もあるから、チャツネルには気を付けた方が良いわ。」
ヘンリエッタも、イリウスと話すチャツネルを見ながら無言で頷いた。
イリウスは、チャツネルと話し終えると真っ直ぐにドラメント伯爵兄妹の元へと歩いてきた。
「ロマニエル殿、今夜はありがとうございます。ヘンリエッタ嬢、一人にしてすまない。その…、怒ってる?」
「いいえ?特には。」
ロマニエルが面白そうに笑い、イリウスは安堵したように笑う。ヘンリエッタは、そんな二人に首を傾げる。
「では、私はもう屋敷に戻りますからこれで。妹に、それだけ言いに来たので。イリウス様、妹を頼みます。」
「はい。もう、彼女を一人にはしません。」
ロマニエルは、妹ににこりと笑って肩を叩くと去って行った。
イリウスは、ヘンリエッタの右手を両手で包んだ。ヘンリエッタは、不思議そうにイリウスを見上げる。
「イリウス様…?」
イリウスは、大きく溜め息を付くとポツリと呟いた。
「探した…。」
「え…?」
「俺が貴女を一人にしたから、怒って先に帰ってしまったかと思ったんだ。」
ヘンリエッタは、目を丸くして言う。
「そんな事、ありません。こういう場で、王族のあなたがご令嬢のダンスの誘いを受けるのは当然の事です。私は、少し涼みたくて庭に出ただけで…。」
ヘンリエッタは、イリウスの両手に空いている左手を重ねる。
「心配を掛けて、ごめんなさい。」
「いや、それなら良いんだ。」
イリウスが柔らかく笑った顔を見て、ヘンリエッタも微笑んだ。
「もう少し、外で過ごしても大丈夫?寒かったら、入ろうか?」
「いいえ。」
「それならもう少し、貴女と二人で過ごしたい。」
イリウスはそう言って、彼女の手を引いて歩き出した。
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