ターコイズブルーの靴でダンスを 下
サクッと楽しんで下さいね。
「イリウス・ロン・ハドソン公爵令息様!ヘンリエッタ・リエ・ドラメント伯爵令嬢様!」
名前を呼ばれた若い二人は、静まり返った会場へゆっくりと足を進めた。
彼等を見たある者は驚き、またある者は隣の者に話し掛ける。
王位継承者第二位であるイリウスが、初めて令嬢をエスコートして公式の舞踏会に出たという、ある種の劇的な瞬間に周りの者達は戸惑っている様にも見える。
しかも、相手は見慣れない令嬢で、誰もが首を傾げつつ若い二人を見送った。
ヘンリエッタは、周りからの視線を浴びながらイリウスと今夜の主催者であるメルトン国王の元へと向かい、静かにカーテシーを取った。
(初めてこの人の近くに来たけれど、凄い覇気。)
「よく来てくれた、ドラメント伯爵令嬢。父上に、宜しく伝えてくれ。」
「はい、陛下。仰せのままに。」
国王が満足げに頷いて、ヘンリエッタ達は後ろへと下がった。
全ての貴族が国王へ挨拶に出向くのを終えると、オーケストラが演奏が始まる。壇上のロマニエルが国歌を斉唱し終え、国王から客人への挨拶が終われば、会場にはダンスが始まる合図の音楽が流れ出した。
「せっかくだから、楽しもうよ。」
微笑むイリウスはヘンリエッタの手を引き、会場中心のダンスの輪に入っていく。彼女の手を取り腰をホールドすれば、曲の始まりと共にステップを踏み出した。
「上手なんだね。」
「え?」
「足を踏まれる覚悟をしてた。貴女が踊るところを、見たことが無かったからね。」
社交界の集まりに滅多に出ず、しかも出て来ても壁の花と化すヘンリエッタ。彼女がダンスを上手く躍れる事は、イリウスにとって嬉しい誤算だった。
「貴方のリードが、良いからです。」
「そう?それは良かった。」
イリウスは嬉しそうに笑うと、ヘンリエッタをターンさせる。
(初めてイリウス様と踊ったけれど、腰の密着も気にならないし凄く踊りやすい。)
「楽しそうだね。」
「楽しいですもの。」
そのまま、二人は二曲目も踊ってダンスの輪から離れた。
「本当は、もっと躍りたいけれどね…。」
「今は、出来ませんわ。」
「だよね。」
給仕から飲み物を受け取り、休んでいればイリウスには他のご令嬢達からダンスの誘いが次々と舞い込む。
ヘンリエッタはそれらを笑顔で見送ってから、体の熱を冷ます為に煌びやかな会場を出た。
(今まで、こんなに人前に出て目立つ事も無かったからかしら…。凄く、不思議な気分だわ。)
夜風にあたるヘンリエッタは、興奮する気持ちと冷静な気持ちとが入り混じった、珍しくチグハグな状態だった。
会場の外は、噴水や石畳が整備されちょっとした公園の様だった。
直ぐ近くに会場からの出入り口があり、会場内の様子もよく分かる。ガス灯が焚かれ、警備の兵が巡回しているので、ヘンリエッタの他にも、躍りの興奮を冷ます為に何人かの人達が夜の庭で涼んでいた。
(いい夜…。)
「また会いましたね、エメラルドグリーンのレディ。」
「貴方は…!」
いつの間に、隣に座っていたのか。
和やかに隣にいたのは、いつかのトゥール伯爵家の立食パーティーで出会った男。
今日は、ジャケットにタイを巻いたの正装の上から、白い布を肩から斜めに緩く巻いている。
(全く気配を感じなかった…。)
「そんなに、警戒しないで。別に、貴女を取って食べようというわけじゃ、ないからね?」
そう言った彼は、にこりとしてヘンリエッタに笑いかけた。
最後まで読んで頂きありがとうございます!
次回投稿は明日20時です。




