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ターコイズブルーの靴でダンスを 上

サクッと楽しんで下さいね。


 国王陛下主催の舞踏会当日、ヘンリエッタは書類仕事を終わらせて準備に入った。


 軽い食事や風呂を済ませて、ターコイズブルーに染色され薔薇の刺繍が施されたレース生地を使ったスレンダーラインのドレスに身を包む。

 侍女のアンとアクセサリーを選んでいれば、別の侍女が白い箱を抱えて入室してきた。


 その箱に巻かれたリボンは、イリウスの紫色…。


「もしかして、それ…。」

「はい。イリウス様からです、お嬢様。」


 満面の笑みの侍女から箱を受け取り開封すると、中には親指大のアメジストの周りを小さな水晶がぐるりと周りを囲んだ石が幾つも連なったネックレスと、同じデザインの大ぶりの石が使われたイヤリングが入っていた。


(いつの間に、こんな物を…。)


 鏡を前に考え込むヘンリエッタを余所に、アンはそのジュエリーを手に取ると主の首に巻いた。


「良くお似合いです、お嬢様。イヤリングも目立つように、髪はサイドを編み上げたアップスタイルにしますね。腰のリボンの石も、同じアメジストに合わせましょうか。」


 確かに、今夜のために誂えたように共鳴している。


「そうね、お願い。」


(今夜はイリウス様がエスコートして下さる訳でも無いのに…。早く見て頂きたいけれど、仕方が無いわ。)


「後で、早めにお礼を言いましょう。」


 ヘンリエッタが準備を終えて私室を出ると、部屋の前で待っていたリュシウォンが目を輝かせた。


「リタさん、綺麗…。」

「ありがとう、リュシー。今夜は、連れて行ってあげられなくてごめんね。デビューしていない年齢の子どもは、出席できない会なのよ。」

「早く帰ってくる?何時になる?」

「なるべく早く帰るつもりだけれど、はっきりとは言えないわ。今夜はお兄様のお仕事もあるし。帰りは、きっと貴方が寝た後になると思うの。」

「そう…。」

「明日の朝は、一緒にモーニングを摂りましょう?ね?」

「うん…。」


 俯くリュシウォンの髪に、ヘンリエッタは指を絡ませる。

 泣き出したあの日以降、リュシウォンは元気を取り戻し落ち着いた日々を過ごしているが、今夜はヘンリエッタが出掛けるので流石に寂しいらしかった。


 ヘンリエッタがエントランスに向かう階段を降りていると、階下にはイリウスがいた。

 イリウスは、黒地に金色の刺繍や縁取りの入った正装姿で、タイピンの飾り石やカフスボタン等の石類は全てアメジストを使っていた。


 ヘンリエッタは目を丸くしてアンを見て、再び階下で待つイリウスを見た。


「イリウス様!?」

「凄く綺麗だ、ヘンリエッタ嬢。」

「どうして…?え、お兄様は?」


 ヘンリエッタはエントランスを見回すが、時間には正確なはずのロマニエルはいなかった。そんな彼女に、セルマンが和やかに言う。


「先程、お屋敷を出られました。」

「えぇ!?でも、今夜のエスコートはお兄様が…。」


 ヘンリエッタの言葉に、隣のイリウスが言った。


「実は、少し前にロマニエル殿にお願いして、貴女をエスコートする権利を譲って貰ったんだ。」

「教えて下されば、良かったのに…。」


 軽く睨んでくるヘンリエッタに、イリウスは苦笑いする。

 

「貴女を驚かせたくて…。黙っていて、ごめんね。」

「確かに、貴方のお望み通り驚きました。ですが…。」

「ん?」

「嬉しいです。このジュエリーも、ありがとうございます。」

「それなら良かった。本当によく似合って一いるよ。…それでは、良い働きをした私に、褒美のキスを頂けますか?」


(キ!ス!?)


 顔を近付けられたヘンリエッタは、固まって目を泳がせる。イリウスが苦笑いして、ヘンリエッタから離れようとした時に言った。


「ここは人目があるので、後でなら…。」


 イリウスは目を見開いたが、直ぐに笑って頷いた。そして、ヘンリエッタに向かって左腕を出す。


「じゃあ、行こうか。」


 ヘンリエッタは頷くと、その腕にそっと手を伸ばした。


 ◇◇◇◇◇


 国王陛下主催の舞踏会が行われる王宮は、日が落ちて外は薄暗くなった時間を感じさせないほど眩い光を放っていた。

 館内は明々と光が灯され、自慢の衣装や宝石で着飾った紳士淑女達が次々に到着し、異様な程の熱気と妖艶さと華々しさがあった。


 一年ぶりに王宮に入ったヘンリエッタは、思わず小さな溜め息を付く。

 今回はイリウスのエスコートで、王族や高位貴族専用の華やかな通用口から紹介されて会場に入るので、これまでと勝手が全く違う。しかも、これまで遠目で眺めていた高位貴族達が、興味深げにこちらをチラチラと見てくるのだ。


(こうなるとは分かってはいたけれど、空気に飲み込まれそう…。)


 完全に普段とは場違いの状況に、ヘンリエッタは気後れしてしまう。そんな彼女に、隣のイリウスが耳元で囁いた。


「貴女に敵う人間は、ここにはいないよ。」


 ヘンリエッタは、隣のイリウスを見上げた。彼が自分に向けてくる眼差しは、いつもと変わらず優しくて穏やかだ。


(イリウス様…。)


 彼の足は引っ張れないと、ヘンリエッタは気を取り直して煌めく舞踏会の会場へと足を踏み入れた。














次回投稿は明日20時です。

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