表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/141

緑色の大地を踏みしめる 下

サクッと楽しんで下さいね。


 ルドルフは暫くしゃがんだまま、妻の墓石を眺めていた。けれど、立ち上がりヘンリエッタの方を見ると言った。


「リタちゃんは、婚約する前に暫く公爵家に住んだらどうかな?」

「「「え…?」」」


 妻の墓石を前にして、急に言いだした彼の言葉に皆は固まる。


「ですが、私はもう養蚕業の方が…。」

「僕が面倒見るよ。」

「え?」

「リタちゃんの話を王都(あっち)で纏めたら、僕は領地に戻って過ごす。」

「「ええ!!?」」


 驚きを隠せないヘンリエッタ達を前に、領地を来ることを散々渋っていた本人はにこにことしている。

 リュシウォンは一人静かに、三人の大人達を見ていた。


「でも、リュシーは?お兄様だって、今度の陛下の舞踏会のお仕事を終えたら旅立たれます。屋敷に、一人になってしまいますわ。」


 ヘンリエッタは、手を繋いでいるリュシウォンを見る。彼の顔は緊張で引きつっていた。


「うーん、そっか…。じゃあ、通えば?」

「住むとか、通うとかって…。そんなの、公爵家(あっち)に意見通さなきゃ決められない事じゃないの。」


 息子の言葉に、父は首を傾げる。


「そこは、問題無いと思うな。ハドソン公爵家が、家族仲が良いのは有名な話だし。確かに仲が良いんだ、…あそこはね。イリウス様の兄であるオーバル様が、海外留学の帰国の際に連れ帰られた婚約者のケイト様の事も好意的に迎え入れている。リタちゃんが通いたいって言っても受け入れられると思うよ。」


 そう言う父は、娘を見て言った。


「リタちゃんが、見極めるんだよ。自分の正直な気持ちの目でね。僕の意見としては、先日のイリウス様の感じも悪くなかった。…、でもイリウス様と結婚するのはリタちゃんだからさ。」


 ロマニエルも、父の話に頷く。


「婚約が公になれば、周りから君への態度もゴロッと変わるだろう。その前に、王家(彼等)の雰囲気を知るという事は良い事だし…。」


 父は、娘に困ったように微笑む。


「もしも、婚約後に破棄される場合、後に不利になるのはリタちゃんの方だからさ…。婚約する前に花嫁修業と称して、自分がやっていけるかチェックしたらどうかな?イリウス様と、ハドソン公爵家の全てを。」

「そうね、それ位の気持ちで事を進めても良いわよね。」


 兄は珍しく父の意見に賛同する。


「リタちゃんが気になる事は、イリウス様に色々吹っ掛けてみたら?」

「吹っ掛けるって…。」

「大丈夫だよ。ハドソン公爵家に嫌われた所で、別にドラメント伯爵家(うち)は全く揺らがないでしょ。リタちゃんが、堅実に守ってきたのは、帳簿を見たから分かるよ。麦だって、踏まれなきゃ良い麦には育たないしねぇ。」


 飄々としている父は、領地を眺める。青々とした麦畑には、麦踏みの為に沢山の領民達が列になって歩みを進めていた。

 色々と大雑把で呑気にしている様で、見るとこ見ている父にはいつも驚かされる。


「婚約にせよ結婚にせよ、リタちゃんが満足する形でないといけないよね。」


 父はにこりと笑って娘を見た。


「分かりました。」


 こうしてヘンリエッタも、父の意見に賛同した。


 ◇◇◇◇◇


 領地から戻ったドラメント伯爵は、直ぐにハドソン公爵家にその旨を打診する。それを受けたハドソン公爵側は、直ぐにイリウス本人を連れた公爵夫妻がドラメント伯爵家を訪れた。


「我が家は、全く問題ありませんわ。寧ろ大歓迎なお話です。」


 ハドソン公爵夫人は、開口一番和やかにそう言った。隣の公爵も、頷いて同意する。

 ドラメント伯爵も、にこりとして頷いた。


「それでは、予定を調整して早速娘を通わせますので、お願いいたします。」

「こちらこそ。」


 その場の誰もが、二人の未来に対して好意的に受け止めて解散となった。


 ドラメント伯爵は、その言葉通り娘の話を纏めると領地へ向かう為に再び馬車を準備させた。元々、自分の荷物が無い為に大した準備も無く、今回は直ぐに出立が決まる。


「じゃあ、領地(こっち)の事は心配しないで。行ってくるね~。」


 帰ってきた伯爵を再び見送る屋敷の者達は、皆が夫々何とも言い難い不安げな顔をしていた。


「あの、お父様…。」


 進み出たヘンリエッタも、父に向かって何と言って良いのか分からない。


 いつまで、メルトンにいるのか。

 何故、今一人で領地に留まるのか。

 父は、何を知っているのか。

 


 未来に何が、待っているのか…。



「そんなに、心配しないで?リタちゃん。何かあれば、必ず知らせるからさ。」


 そう言って微笑む父の顔は、十一年前に出て行った時を思い起こさせた。当時よりは、顔に刻まれたしわも深くなり、チラホラとシミが見えるけれど。

 あの時と、変わらない笑顔…。


(確かに、お父様はおかしな所はあるけれど、約束だけは昔から守る人だわ。) 

 

 ヘンリエッタは、にこりと笑って父に頷いて言った。


「行ってらっしゃいませ、お父様。」

「リタちゃん、またね。ロニ君も、仕事頑張ってね。」


 その様子を見ていた周りの者達は、幾らか安堵して屋敷を後にする伯爵の馬車を見送った。








最後まで読んで頂きありがとうございます!

次回投稿は明日20時です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ