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黄色の瞳に映る世界 上

サクッと楽しんで下さいね。


「門が破られるのも、時間の問題です!お急ぎ下さい!」


 転がり込むように入ってきた、鎧を身に着けた大人が叫ぶ様に言った。放たれた火矢から引火した真っ赤な炎から立ち上る黒煙は、夜空を更に真っ黒く染める。窓の外から響く、怒号は徐々に大きくなっていた。


 青白い顔をしていた母は、傍らの息子を抱き締める。


「リュシー、貴方は生きて外の世界に行くのよ。」


 リュシウォンは、首を振って母の服に取りすがる。


「僕は行かない!行きたくない!母様はどうするの!?」

「私は後から行くから、大丈夫よ。あの人と、先に行って。生きて、リュシウォン。お願い。」

「リュシウォン、行くよ。」

「ドラメント様、どうかこの子を頼みます。」


 男は頷くと、軽々とリュシウォンを抱え上げた。


「母様!」


 微笑む母に、リュシウォンが叫んだところで彼の視界は真っ暗に染まった。


 ◇◇◇◇◇


 カタリと鳴った小さな音に目が覚めた。


 いつの間にこの場所に来たのか、覚えていない。久しぶりに、清潔感のあるふかふかのベッド中にいた。


「おはようございます。よく眠れましたか?」


 見慣れない大人の女性に、リュシウォンは何と言って良いのか分からなかった。黙っていれば、自分の腹の虫が盛大に鳴いた。

 そういえば、凄くお腹が空いている。


 女の人は、にこりと微笑んで言った。


「私は、貴方のお世話を任されました、ドラメント伯爵邸の侍女ユリアと言います。お支度が済んだらお食事に致しましょう。」

「うん…。」


 洗面した後、ユリアが何枚か服を見せてきた。その中から、白いシャツと縁や首元に銀糸の刺繍が入った黄色いベスト、紺色のズボンの組み合わせを選ぶ。


 ユリアに付いていくと、大きなテーブルのある部屋に入る。

 中では、既に三人の大人達が席に付いていた。


 一人は、自分を連れ出したルドルフ。

 後の二人の女の人は、分からない…。


「リュシウォン、おはよう。よく眠れたかい?」


 飄々とするルドルフの言葉に、リュシウォンは小さく頷いた。


「はい…。」


 ユリアは、三人に頭を下げて一つの椅子を引いた。どうやら、ここに座れと言うことらしい。


「話したいことは、色々とあるかもしれないけれど先に食べたら良いよ。」


 ルドルフの言葉に、リュシウォンが大人しく席に付くと、いい匂いの汁物が運ばれてきた。そう言えば、昨日食べた物はどれも美味しかったと思い出す。

 手元のスプーンで掬って口にすれば、やっぱり美味しい。


 三人の大人は既に食べ終えているようで、リュシウォンが朝食を摂る間、お茶を飲んだり新聞を読みながらまったりと過ごしていた。


 食べ終えた所で、ルドルフが再び口を開く。


「リュシウォン、この二人は僕の子ども達だよ。兄のロニ君と妹のリタちゃん。」


 ロマニエルがきっと、ルドルフを睨む。


「ちょっと、最初なんだからちゃんと紹介しなさいよ!私は、ロマニエルよ。声楽家をしているの、宜しくね。」

 

(あ…、この人は女の人じゃ無かった。でも、今まで知っている男の人達とは、なんか色々と違う。)


 リュシウォンは、黙ったまま頭を下げた。


「私はヘンリエッタ。家族には〝リタ〟と呼ばれているの。貴方も、そう呼んでくれると嬉しいわ。」

「リタ、さん…?」


 リュシウォンの声に、ヘンリエッタはにこりと微笑む。リュシウォンも、吊られて笑った。


「貴方の事を、教えてくれないかしら?」


 ヘンリエッタの言葉に、リュシウォンは頷いた。


「リュシウォン・バッセン。十歳。兄弟は、いません。」

「じゃあ、自己紹介も終わった所で、僕はちょっと王宮に行ってくるね。ランチには、戻るつもりだよ~。」

「王宮に行くノリじゃないわ…。」

「リュシウォン、困った事があればリタちゃんに何でも聞いて。ここで、彼女より頼りになる人はいないはずだよ。」

「はい…。」


 ルドルフは頷いて、鼻歌混じりに出て行く。


「じゃあ…、私はレッスンに戻るわ。後は、お願い。」


 ヘンリエッタが頷くのを見て、ロマニエルも席を立ち、背伸びをすると出て行った。


「じゃあ貴方には、今からこの屋敷の事を紹介するわ。ユリア、暫くリュシウォンは私と過ごすから貴女は他の仕事をお願いね。」


 そう言ったヘンリエッタは、リュシウォンの所まで来ると彼に手を差し出す。リュシウォンの小さな手がそっとヘンリエッタの手を取ると、彼女はにこりと笑って手を引いて食堂を出た。


 それから、リュシウォンはヘンリエッタに手を引かれて屋敷内を案内して貰い、全ての使用人達に紹介される。


「ここからも、外に出られるわ。庭園と、小さいけれど畑もあるの。馬屋の方にも行ってみましょうか。」


 二人は手を繋いだまま、外に出る。柔らかな風が頬を擽った。


「あ、そうだ。リュシウォン、貴方の家庭教師を探すわね。いい人が見付かり次第、屋敷(ここ)に来て貰うわ。」

「家庭教師…。」


 リュシウォンの言葉に、ヘンリエッタは頷く。


「私達はリュシウォンのご両親から、大切な貴方を預かったの。直ぐに帰ることは叶わないかもしれないけれど、ここでお勉強する事はきっと将来貴方と貴方の祖国の為になるはずよ。」


 リュシウォンは、目を見開きヘンリエッタを見詰めた。そして、俯いて立ち止まる。


「リュシウォン、…大丈夫?」

「リュシー…。」

「え?」

「僕は、家族から〝リュシー〟って呼ばれていました。」


 目を見開いたヘンリエッタは、直ぐに微笑んで言った。


「分かったわ、リュシー。教えてくれてありがとう。これからも、貴方の事を少しずつでも教えてくれると嬉しいわ。」


 リュシウォンが顔を上げると、ヘンリエッタが微笑んでこちらを見ている。彼も笑って、彼女に頷いた。


 










次回投稿は明日20時です。

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