銀髪の幼子 下
サクッと楽しんで下さいね。
ヘンリエッタ達が応接室で各々考えを巡らせながら無言に待っていれば、風呂を終え、髪や髭を整えこざっぱりとした父ルドルフが入ってきた。
「いや~、お待たせ。お陰で生き返ったよ。」
「良かったです…。」
「僕もお腹空いたな。」
「食堂に、行きましょ。アタシ達も、これからディナーだし。」
食堂に行く途中、ヘンリエッタは家令のセルマンに声を掛ける。
「あの子は?」
「お風呂の中で眠りだして、今は東の客間で休んでいます。余程、疲れていたのでしょう。」
「そう…。悪いけれど、あの子に誰か付けて気に掛けてやってくれる?」
「はい、かしこまりました。」
指示を出す彼に後を任せ、ヘンリエッタは二人が待つ食堂に入った。
次々と運ばれてくる食事を、ルドルフはご機嫌に平らげる。対称的に、ロマニエルとヘンリエッタの食は遅々として進まなかった。
食後のデザートに入る前、食欲が落ち着いたルドルフがゆったりと言った。
「いやぁ、我が家の食事は最高だよね。」
「アンタ、どの面下げてそんな事が…!」
苛立って立ち上がる兄を、ヘンリエッタは宥める。
「お兄様、落ち着いて下さい。」
「リタ、アンタだってこの人に腹立つでしょ!?」
「まぁ、そうですけど、お父様ですから…、ね?」
「リタちゃんってば、優しいなぁ!」
「絶対、アンタを認めて言ってないわよ。」
確かに、ヘンリエッタは急に帰宅してきた父親の事を認めていない。彼には聞きたいことも、言いたいことも山ほどあったはずだった。
けれど、急に帰ってきて飄々とする本人を目の前にすれば、それらの事はどうでもよくなってしまった。
(そんなことよりも、…。)
「それで、お父様は私達に何から話して下さるのですか?」
「ん?そうだなぁ…。」
ルドルフの視線はくるりと空中を彷徨い、ロマニエルとヘンリエッタを順に見た。
「暫くは、メルトンにいるよ。」
その言葉に、ロマニエルは目を見開いた。
「暫くいる!?そんな、暫くって、いつまでよ!?」
「ん~、それは、陛下の命令次第だけど…、今回はリタちゃんの大事な話があるから、それは決めないといけないよねぇ。」
父はそう言ってにこりと笑い、運ばれてきたデザートのアプリコットのゼリーをスプーンで掬って口に入れる。
そういう、真面目に娘の事をやろうという気持ちはあるのかと、ヘンリエッタは変に感心してしまった。
「あとは、あの子の事かな~。」
「そうよ!あの子ども!何なの?」
「リュシウォンだよ。リュシウォン・バッセン。彼の父は、ハローティからサバナの自治管理を委任されていた一人だったんだ。」
思った通り、彼は身分ある家の子だった。
「ですが、サバナは元々は王政でしたよね…?」
ヘンリエッタの言葉に、ルドルフは頷く。
「本来はそう。まぁ今もだが、ハローティはサバナの王家の力を軍事力で脅して、実質サバナを支配下に置いている状態なんだよね。」
「そんな所の子どもが、何故ウチにいるのよ?」
「まぁ、リュシウォンがウチにいるのは、僕も想定外の事なんだけどさ。」
「お父様は、サバナで一体何をしてきたのですか?」
ルドルフは、食べ終わったデザートスプーンを置いた。
「仕事だよ?」
にこりと笑んでいる父は、これ以上聞いた所で話してくれ無いと言う顔だった。
(これ以上踏み込んだ事を聞いても、無駄という事か…。)
「それでは、我が家でのあの子の扱いはどのようにすれば宜しいのですか?」
「うーん……、まぁ、一先ずは〝ウチの子〟って事かな。」
にこにことする父に、ヘンリエッタは溜め息をついた。
「では、明日からリュシウォンの家庭教師を探します。彼がここの生活に慣れ、いい教師が見付かれば勉強を始められる様に…。」
「ありがとう、リタちゃんお願いね。じゃ、僕は眠たくなったから、もう寝るよ。聞きたいことがあったら、また明日以降ね。」
ルドルフは、欠伸をしながら立ち上がるとヒラヒラと左手を振って食堂を出て行った。
静かになった食堂には、ロマニエルとヘンリエッタ、お茶を運んできたセルマンが残る。
「まったく、あの人はいつも…!」
ロマニエルが苛立たしげに言う隣で、ヘンリエッタは運ばれてきた薄茶の水色を見下ろす。
急に帰ってきた父親
連れてきた子ども
サバナの内情
父の仕事の全ては、陛下の命令だ
ヘラヘラとしている、いつも通りの父親の様子からは、そんなに直ぐに大事が起こる様には感じられない。
けれど…。
(お父様は、今まで〝外〟で何をしていたというの?)
その疑問だけが、ヘンリエッタの胸に湧いた。
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次回投稿は明日20時です。




