銀髪の幼子 上
サクッと楽しんで下さいね。
「リタちゃん、ロニ君、立派になったねぇ。」
五年ぶりに会ったにも関わらず、ヘラヘラとしている父親を前に、子どもの方は脱力する。
(まぁ、相変わらずって事ね…。)
溜め息をつくヘンリエッタの後ろから、イリウスが言った。
「ドラメント、伯爵…?」
伯爵の方は、首を傾げてイリウスを見た。
「おや、そちらは?」
「イリウス・ロン・ハドソンです。はじめまして、ドラメント伯爵。」
「ハドソン…。へえ~、王家の血筋の人間がウチに?凄いねぇ。」
伯爵は呑気に、隣のロマニエルに言った。
「伯爵、…娘さんには近い内に婚約を申し込みたいと思っています。」
「イリウス様!?」
目を丸くするヘンリエッタは、イリウスを見上げる。彼の視線は、ドラメント伯爵を見たままだった。
イリウスを見て顎髭を触っていた伯爵は、にこりと笑んで言った。
「そうですか。」
(え、それだけ?)
伯爵は、変わらずにこにことしたまま言う。
「近い内にって事は、また詳しく話す機会があるということですね?今は、私も帰ってきたばかりだし、二人の子どもにはお土産の話をしなくてはならないので。」
「はい、私は今日はこれで失礼します。」
「ありがとうございます。また会いましょう。」
伯爵と握手を交わして部屋を出て行くイリウスを、ヘンリエッタは追った。けれど、彼に何と言って良いのか分からない。
俯いて黙っていれば、イリウスの方が振り向いて言った。
「勝手な事を言って、ごめんね。」
「え…。」
「貴女の気持ちを、何も聞いていないし。まだ、俺の事だってあまり話していないのに。」
「そう…ですね。」
イリウスの言葉に、ヘンリエッタは苦笑いする。
「貴女と過ごす時間が、もっと欲しい…。」
ヘンリエッタが顔を上げれば、イリウスの紫色の瞳とかち合った。その瞳には、ヘンリエッタの姿が映っている。
「分かりました。お話しましょう、私達の事…。」
微笑んだヘンリエッタの言葉に、イリウスはにこり笑って俯き帰って行った。
◇◇◇◇◇
ヘンリエッタが応接室に戻れば、青い顔の兄と変わらずにこにことする父がいる。
彼女は、小さな溜め息を付いて聞いた。
「お父様はいつ戻って来られたのですか?」
「さっきだよ。」
「さっき…。」
「いや~、僕一人だったら帰る予定はまだ先だったんだけど。」
「まだ先って、いつまで屋敷を留守にするんですか。」
呆れるヘンリエッタの言葉に、父親は少し考えて呟くように言う。
「見届けるまで、かな…。」
そんな父に、息子は声を上げる。
「一人だったらって、どういう事よ!?」
「そう、あの子を早く休ませてあげたかったからさ。」
「「あの子?」」
疑問しかないその言葉に、二人は顔を見合わせる。伯爵は、にこりと笑んで言った。
「お土産だよ。」
伯爵は颯爽と応接室を出ると、食堂へと向かう。後を追うヘンリエッタ達も、伯爵に続いた。
食堂に入ると、小さなの男の子が席について食事を摂っていた。身なりは父と同様にヨレヨレのボロを身に纏い、余程お腹を空かせているのか目の前にある食事をガツガツと食べている。
けれど、短く整えられた銀髪に艶のある褐色の肌、薄い黄色の切れ長な瞳からはどこかしら育ちの良さが伺えた。
けれども、その子どもを前に二人は固まった。
「隠し、子…?」
ロマニエルの震える言葉に、ヘンリエッタが飛び上がる。
「ぇえ!!?」
「違う違う、もーやだな、ロニ君ってば。ははは。」
二人の様子を見る伯爵は、呑気に笑う。
「じゃあ、この子はどうしたのよ!?拾ってきたの!?」
「知り合いに預かってくれって、頼まれたんだ。」
「知り合いって、どういう親なの!?こんなに幼い子どもを!?」
「十歳、…だったかな。この子の故郷は、サバナさ。この子の父親が、そこの高官だったんだ。」
「サバナ…!?」
メルトンから、北西に位置する大国ハローティの支配下に置かれている小国サバナ。
あまりにも予想外な話ばかりで、二人の会話を聞いていたヘンリエッタは軽い頭痛を覚える。兄も、同様らしい。
「あ、お腹いっぱい食べたみたいだから、僕らはお風呂行って来るね。この子も寝かせなきゃ。夜通し異動していたから、流石に眠そうだ。」
見れば、食べ終えた子どもの瞼は落ちかけている。
「セルマン、この子の風呂と着替え、部屋を頼むよ。早めに休ませてあげてくれ。」
「かしこまりました。」
そう言って出て行く彼等を、ヘンリエッタ達は呆然と見送るしか無かった。
次回投稿は明日20時です。




