表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/141

キャラメル色の思い出 上

サクッと楽しんで下さいね。


 天気の良い穏やかな昼下がり、ドラメント伯爵家に一台の立派な馬車が乗り入れた。到着前、急な訪問の知らせを送ってきた客に、ロマニエルは応接室でその客の目的の人物より先に対応することになる。


「思っていたより、早く訪ねて来られましたね。イリウス殿。」


 対するイリウスは、長椅子に腰掛けて言った。


「はい、他の者に目の前で掻っ攫われる事ほど、悔しい事はありませんので。」

「まぁ、貴方でもそんなご心配をされるのですか?」


 ロマニエルの言葉に、イリウスはにこりと笑む。


「私も人間ですから、何もかも思うように手に入れていません。ただ今回は、どうしても手に入れてたいと思っています。」


 彼は、ロマニエルを見据えると言った。


「私はヘンリエッタ嬢に、婚約を申し込みたいと思っています。ロマニエル殿は、宜しいですか?」


 対するロマニエルは、少し沈黙し考えると言った。


「妹が良ければ、構いません。本来の家長である父のドラメントは不在ですし、今も所在が明らかで無い。しかも、生きているのかさえ不確かですから。」

「ドラメント伯爵は、陛下の命で十年位前から外遊されておられるとか。出来れば、お会いして了承を頂きたいが…。」


 イリウスが言い淀むのに、ロマニエルは首を振る。


「ドラメント伯爵家の事は、母が亡くなってからは妹が全てを管理してきました。ですから、結婚も含め好きにしたら良いと思っています。私は、あの子の不利益にならない限り、貴方との事も応援するつもりです。」

「ありがとうございます。では、彼女の気持ちが私に向くように、全力を尽くしたいと思います。」


 そう言ったイリウスは、更にロマニエルに話し出した。


「それなら、相談があるのですが…。」


 イリウスの話を聞いたロマニエルが頷き、二人が硬い握手を交わした所で、応接室のドアが開いてヘンリエッタが入ってきた。


「イリウス様!お待たせして、申し訳ございません。」

「否、急に知らせて訪ねてきたのはこちらだ。母がいい茶葉が手に入ったから、ヘンリエッタ嬢にって言うのに便乗して、私も貴女と一緒にお茶したいと思ったんだ。」

「そうだったのですか、ありがとうございます。」


 ヘンリエッタがイリウスに礼を言った所で、アンがティーセットを載せたワゴンを押してきた。


「では、邪魔な者はさっさと退散しますか。イリウス殿、ごゆっくり。」


 ロマニエルが部屋を出て行くと、イリウスは立ち上がってヘンリエッタに近付いた。


「緊張してる?」

「えっと、…少し。」

「正直で良い。これからも、そうして欲しい。」

「分かりました。」


 にこりと笑むイリウスにつられて、ヘンリエッタも微笑んだ。


 それからというもの、イリウスは週に一、二回ドラメント伯爵家に出入りする様になる。けれど、来たからと言って彼は特に何をするでも無かった。


 ヘンリエッタが読書すれば彼も隣で本を広げ、お茶をするなら庭のガゼボに連れ出す。そして時々、カードゲームやボードゲームをする。

 そんな、何気ない時間を二人は過ごした。


(不思議な人…。)


 ヘンリエッタの視線に気が付いたイリウスは、彼女に聞いた。


「どうかした?」

「いえ…、毎回来ていただいても何もすることがなくて、退屈では無いですか?」

「退屈…?考えた事が無かったな。君は退屈してる?」


 イリウスの問いに、ヘンリエッタは首を振る。


「それなら、良い。私は結構楽しく過ごしているから、気にしなくて大丈夫。」

「そう…、ですか?」

「ああ。」


 ヘンリエッタが首を傾げるのに、イリウスはにこりと笑う。


「それなら、今度一緒に街に出ない?」

「え、街に?」

「ああ、貴女と出掛けるなら行きたいと思っている場所があるんだ。」


 ヘンリエッタは、少し考えてから頷く。


「そうなのですか…、分かりました」

「じゃあ、明後日のお茶時間の前に迎えに来よう。目立たない様に、夫々簡単な格好で行こう。」

「はい、分かりました。お待ちしています。」


 イリウスは微笑んで、ヘンリエッタの左手をすくい取ると、その甲にそっと唇で触れた。


 ◇◇◇◇◇


 イリウスは、約束通りヘンリエッタを迎えに屋敷に来た。いつもの公爵仕様では無く、生成り色のシャツと黒いパンツといったラフな格好で現れる。ヘンリエッタも、簡素な水色のワンピースで彼と屋敷を出た。


 そして二人が着いた先は、…。


「ガスパリオ、ですか…。」


 店の前で立ち尽くすヘンリエッタに、隣のイリウスが言う。


「以前、ここの焼き菓子を幾つか買ったがどれも美味しかった。ここで、お茶したいと思っていたんだが、男ばかりでは出入りしにくいし、クリスを連れて来ても楽しめないからさ。」

「イリウス様は、甘い物がお好きですか?」

「毎日食べるわけでは無いが、食べると気持ちが和らぐ。さあ、ここでお茶をして行こう。」


 差し出された手を取って、ヘンリエッタは久しぶりの店内に入った。





次回投稿は明日20時です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ