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青い瞳は悲しみに揺れる 上

サクッと楽しんで下さいね。


「ランドール…。」


 久しぶりに近くで顔を合わせたランドールは、美しさはそのままだったが少しやつれが見える。名前を呼ばれた彼は、弱々しくヘンリエッタに笑った。


「ごめんね、ヘンリエッタ。出してくれた手紙を知らなくて会いに来るのが遅くなった。アルマが気が付いて、手紙を渡してくれたんだ。」


(やっぱり、ランドールには届いていなかったのね…。)


 ランドールの後ろに静かに控えているアルマの姿を認め、ヘンリエッタは笑って首を振る。


「良いのよ。今、貴方に会えたから。来てくれて嬉しいわ、ありがとう。暗い中、外で話すのも危ないから中へ入りましょう?」


 ヘンリエッタの提案に、ランドールが頷き二人は並んでドラメント伯爵家の屋敷の門を潜った。


 彼等は屋敷には入らず、辺りが薄暗くなった庭園のガゼボにいた。

 ランドールは、俯きがちに目を伏せて黙ったまま座っている。ヘンリエッタは、そんな彼を静かに眺めてた。


(暫く、会わない内に雰囲気が変わったわ。この人が纏っていた光を、失ったみたい…。どうしてなの…?)


 そう、ヘンリエッタが思っているとランドールが口を開いた。


「バネッサ嬢と、婚約する事になったんだ。」

「そう…らしいわね。」


 ランドールは、目を見開いてヘンリエッタを見る。視線が合えば、彼の顔は歪み、何か言いたげであったがそのまま顔を逸らす。


「彼女と婚約する前に、話を白紙にしたかったけれど出来そうに無い…。」

「ええ…。相手側に、話が行ってしまえば止められないわ。」


 ランドールは頷き、再び沈黙が二人を包む。


 暫くして、ランドールがポツリと言った。


「ヘンリエッタは、前に僕が求婚しても受け入れ無いって言っていたけれど。」

「覚えているわ。」

「それは、変わらない…?」


 揺れる青い瞳に見詰められ、ヘンリエッタの心はチクリと痛んだ。


「僕は、ヘンリエッタと結婚出来ないなら、生涯独身でも構わない。」

「そんな事を、簡単に言わないで。貴方は、セニアル侯爵家の一人息子でしょう?義務があるわ。」

「でも、君がいない人生なんて考えられないよ!」


 泣きそうに叫ぶランドールを、ヘンリエッタは見詰めた。彼の悲痛がありありと伝わり、胸が苦しくなる。


(追い詰められている…。)


 ヘンリエッタは冷静に、気持ちを落ち着けて慎重に話し出した。


「ランドール、優秀な貴方は私が居なくたって生きていけるわ。それにバネッサは、明るくて行動力のある人よ。しかも、社交に慣れているしお仲間も多くいるでしょう?きっと、これからの侯爵家の役に立てる人だわ。そして、何より貴方の事を好いている。立派な侯爵夫人になって、貴方の事をずっと大事にするわよ。」


 再び沈黙が訪れた時、ランドールがポツリと言った。


「君は…?」

「ん…?」

「君は、平気なの?僕が居なくなって、平気だった?」


 ヘンリエッタは、苦笑いして言った。


「寂しかったわ。だって、…今までの私の世界には貴方しかいなかったのよ?寂しくないわけ無いわ。」


 ランドールは顔を歪めて、ヘンリエッタを見る。


「僕が愛すると決めたのは、君だけだ。他の人は、違う。」

「ランドール…。私に、そこまで言ってくれて嬉しい。ありがとう…。」

「それなら、…!」

「それなら、どうするの?バネッサとの婚約を無理矢理止めさせて、私と婚約を進めるの?」


 ランドールは頷くが、ヘンリエッタは首を振る。


「味方は、いないわ。誰も。…貴方は、私をまた一人にするの?」

「そうじゃない。確かに、今は駄目かも知れない。…けれど、いつかは周りの皆が理解してくれる。君とならそうなれるように、努力してやっていける。」 

「ランドール…、貴方まで孤立しないで。それでは、貴方の持つ力は発揮できない。」


 ランドールは目を見開いて、ヘンリエッタを見た。


「え…?」


(ランドールは、一人で力を発揮出来る人では無いわ。周りの人の力を集めて、大きな力をどの様にも動かすことが出来る人…。私の様に孤立すれば、力を失ってしまうわ。)


「貴方の力を取り戻して。今なら、まだ間に合うわ。」

「ヘンリエッタ…。」

「貴方には、幸せになって欲しいの。」


 ランドールは、顔を歪めて首を振る。


「僕は、君と一緒にいて幸せになりたい。君無しの人生は、考えられない。ましてや、君が他の男と結婚するなんて考えたくもない!」

「今は、急な事だから受け入れられないだけよ…って!?」


 ヘンリエッタは、腕を強く引かれてランドールに抱き締められた。あまりにも予想外の出来事で、二人の間に腕を挟むこともままならず完全に体が密着してしまった。


「どうして、一緒に居られないんだ…。このままで良いのに…。他の奴らは必要無いのに…。」


(泣いて、いる…。)


 ランドールは、そのまま暫く動かなかった。ヘンリエッタは彼の大きな温もりの中で、その息遣いと鼓動をぼんやりと感じていた。


(子どもの頃、泣いているランドールを慰めた事があったけれど…。小さくて可愛いかった子は、いつの間にか私より立派になってしまったのね。)


「懐かしいわ…。」

「え…?」

「子どもの頃を、思い出したの。」


 ◇◇◇◇◇


 ヘンリエッタとランドールが初めて出会ったのは、自分が王都に来て間もない頃。父に連れられて参加した、城のパーティーだったと思う。

 二歳年下の彼は、華奢でヘンリエッタより頭半分背の低い、人見知りの激しい子。それでも、絵画から飛び出した様なその愛らしい容姿で、当時から既にご令嬢達に群がれちやほやされる存在だった。


 しかし、ストレートな子供の世界で、ひ弱な彼は影で年上の子息達から苛めの対象になっていた。相手側が貴族の子どもの為に、給仕する大人達は気が付いてもそれを止める事は出来ない。


 それに気が付いたのが、知り合いのいない場所で暇を持て余していたヘンリエッタだった。

 

 

 









最後まで読んで頂きありがとうございます!

次回投稿は明日20時です。

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