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愛を語る二人 

読みに来て下さり、ありがとうございます。


 青い顔で帰宅したヘンリエッタを、ロマニエルは呼び止めた。あれこれと世話を焼き、漸く妹から話を聞き出すと怒りを露わにした。


「もぅ、何なのよ!王族って奴等はぁ!!」


 キーキーと言っている兄を目の前に、ヘンリエッタは溜め息をつく。


「私…、引退して一生領地に引っ込みましょうか。」

「早まらないで!貴女が居なくちゃ、全てが立ち行かないから!アタシが、貴女の代わりになるわけ無いでしょう!?アタシが、皆に半殺しに合うわよ!ドラメント伯爵家の財産(モノ)を、アタシは引き継げないわ!」


 あまりの正論に、周りの従者達も無言で頷いている。


 ロマニエルは音楽の神には限りなく愛されているが、その他の貴族らしい事には全くもって無能だ。領地管理のノウハウも商談の取り引きも領民達を育てる事も。とにかく領主や統治者としての才覚や能力、努力しようと言う気持ちさえ持ち合わせていない。

 神は一人に万物を与えなかったし、彼も望んでいないという事だ。


「リタちゃんが、先に婚約しちゃえば?」

「え!?」

「それなら、王族(あっち)は口を出せないわ。法律さえもね!」

「そうですが、そんな相手いません。ましてや、王族に盾突く事になるのに…。」

「そうかしら?嬉し泣きして尻尾を振って、直ぐ飛び付いてくる人はいると思うけれど?」

「え…?」

「リュシーよ。彼なら、喜んで跪くわよ。」

「リュシーが!?彼は、まだ十五で学生で…。」

「それの何が問題?」

「サバナに帰る人よ!」

「それ、本当なの?リュシーに、聞いた?」

「だって、あの子は帰りたいって…!」

「いつの話しているのよ?」

「いつって、…九歳の、家に来た時。」

「今はどうなのか、って話でしょう。お父様は、あの子を連れ歩いてるって聞いたわよ。領地管理だって、彼は手伝っているんでしょ?」

「そうだけど、それはサバナに帰った時に役立つからでしょう?リュシーとは約束しているのよ。」

「ふーん、そう…。」

 

 家令のセルマンが呼ばれて出て行ったのを見て、屋敷の主の帰宅を知る。


「丁度お父様が帰ってらしたわ。行きましょ!これは、はっきりさせないと。」

「お兄様!」


 ロマニエルとヘンリエッタが立ち上がった所で、ドラメント伯爵であるルドルフが部屋に入ってきた。

 娘と久しぶりに帰宅している息子の顔を見つけて、父はにこりと笑う。


「ただいまぁ。ロニくん久しぶりだねぇ。」

「お帰りなさい。」

「父様、ちょっと聞いて下さいな。リタちゃんが、カイエンに…!」


 ロマニエルは、王族相手に敬意も何も無い。

 

「あぁ、その事なら()()保留だから。」


 ソファにゆったりと掛けた父は、疑問だらけの二人を前に、ゆったり寛いでいる。セルマンに、ブランデーを持ってくるようにと言った。


「保、留…?」

「その事って言う事は、カイエンの話が伝わっているのね?」

「そう。今決めることじゃあ、無いんだよね。」

「どうゆう事!?王族(あいつら)の弱みでも握っているの!?」


 (この人)なら、有り得る話だ。


「違うよぉ?しかも正当な方法だから。まぁ、法改正されたから、正確には二年位かなぁ?」

「ますます分からないわ…。」


 頭を抱えるロマニエルの横で、ヘンリエッタはハッとする。否、まさかとも思った。


「お父様、もしかして…。」


 娘の反応に、ブランデーを手した父はニヤリとする。


「ふふふ、流石リタちゃんは勘が良いよねぇ。」


 まさかと思うが、(この人)ならやりかねないという自分がいた。


「リタちゃんは、既に婚約しているよ。」

「はあぁあぁあぁあぁああああ!!??」


 ドラメント伯爵家の屋敷全体が揺れ動く様な声量で、ロマニエルが叫んだ。


 ◇◇◇◇◇


 成人しているヘンリエッタと未成年のリュシウォンは婚約していた。メルトンの成人年齢は十八。

 リュシウォンは直に十六になる。だから、法律的にも本人達の合意で婚約破棄に至るのは二年位先という事になる。


 リュシウォンの書類上の保護者は、ドラメント伯爵家の()()()後継者であるロマニエルとしていた。それは、元々リュシウォンをサバナに還すに当たり、海外暮らしの彼ならば、メルトンで何かあったとしてもリュシウォンを保護するという名目で国外に出しやすいという考えに基づいていた。


 そして婚約してからは、ロマニエルが保護者として最適と化した。

 彼がメルトンにいるのは一年の内の三カ月に満たない。そして、未成年の婚約破棄は保護者の同意が必要なのだ。

 しかも、生きる国宝であるロマニエルに対して、物を申す人間はメルトンにはいない。


 ロマニエルも、セルマンに言ってワインを飲み出した。


「僕が、勝手に決めて結んだわけじゃない。リュシウォンから申し込んで来たんだよ。」


 ヘンリエッタは、目を丸くする。


「リュシーが…?いつ?」

「リタちゃんが、婚約破棄して直ぐ…。僕が、ハドソン家と養蚕業のバックアップを取り付けて帰った日かな。」

「そんなに早かったの?」


 ロマニエルの言葉に、ヘンリエッタも同様だった。伯爵は、ブランデーを含んで楽しそうに二人を見ている。


「でも、こんなのリュシーを利用するみたいだわ。」

リュシウォン(あの子)は、そのつもりで婚約を望んだのでしょ?」


 息子の問いに、父は頷く。


「リタちゃんが、また()()()()に巻き込まれて傷付くのが嫌だって言ってね。自分が婚約していれば、少なくともその間は政治的な理由で婚約や結婚を迫られることは無いってさ。よく調べたよねぇ。」


 父は、娘を見ると言った。


「ま、詳しい事はリュシウォン(本人)から聞きなさい。」

「はい。」


 グラスのワインを飲み干したロマニエルが言った。


「利用も何も、このまま婚約状態にしておいて時期がきたら、結婚したら良いじゃない。」

「け…!?」

「あら、貴女はリュシーが嫌い?」

「嫌いとか、そういうわけでは無くて…。」

「なら、良いじゃない!」

「そんな、簡単に…。」

「ロマニエル、辞めなさい。この先は、二人が話して決める事だよ。我々は、外野だ。」


 父の制止に、息子は口をつぐむ。そして、隣に座る妹に小声で「ごめんね。」と言った。


「分かりました。リュシウォンと、話してきます。今日は、これで下がらせて頂きます。」

「そうだね。」

「おやすみー。」


 男達に見送られて、ヘンリエッタは自室へ下がった。


 部屋に残った二人は、各々の酒を片手にどこか嬉しそうに飲み進める。


リュシウォン(あの子)は、〝男〟よねぇ。」

「未成年の彼が出来る唯一の、そして最良の盾だよねぇ。」


 ブランデーを片手にルドルフが言った。ワインを片手にしているロマニエルは頷く。


「愛よねぇ。」

「だよねぇ。」


 二人は言って、グラスを空に掲げた。






最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

次回投稿は明日20時です。

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