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胸のざわめき 

読みに来て下さり、ありがとうございます。


 ヘンリエッタが、見知らぬ男と話している。彼女より、少し年上の様にも見えた。


 相手が胸に付けているピンバッチからして、大学校(ここ)の教員。

 だが、リュシウォンから見てもお世辞にも親しい人間関係が極僅かなヘンリエッタに、あんなに親しく話せる間柄の異性が家族以外にいただろうか?


(だが、しかし万一という事も…。)


 ◇◇◇◇◇


 入学の式典が終わり、出て行くヘンリエッタを内心ソワソワとしながら見送った。リュシウォンが講堂を出た時は、もう彼女は帰ってしまっただろうと諦め半分で馬車停に向かっていたのだが…。


 東の中庭のガゼボでヘンリエッタが見知らぬ男と話す姿を見付け、リュシウォンは衝撃で固まってしまったのだ。


「リュ、シ、ウォン!」


 突然背後を、リュシウォンは叩かれて思わず叫びそうになる。 

 自分にそんな事をしてくるご令嬢は、知れている。彼は、溜め息混じりに振り向いた。


 そこには、同じ新入生のキャロライン伯爵令嬢がいた。その後ろを、同じく新入生のイヴァン・ナトォレイ伯爵子息、そしてエリオット・マイセラ侯爵令息がいた。皆が、リュシウォンとは気の置けない仲間達。


「キャロライン…。」

「何よその顔、レディに向かって失礼じゃない?」

「レディは、挨拶代わりに叩いたりしないだろ。」


 コロコロと子犬の様に話すキャロラインを嗜めるように、イヴァンがぴしゃりと言った。

 そんなイヴァンの言葉を無視して、キャロラインはリュシウォンの後ろに気が付き覗き込もうとする。


「で、何を見ているの?」

「あ、ちょっと…!」


 自分の向こう側を覗き噛む彼女、をリュシウォンは慌てて止めようとしたが、遅かった。


「あら、ドラメント伯爵令嬢様じゃない。来賓でいらしていたわね。話のお相手は、どなたかしら?」


 リュシウォンがその場を離れようとするのに、キャロラインは覗く気満々だ。

 活発で素直、裏表の無いのは彼女の魅力のではあるが、人の機微を慮れる様な繊細さに欠けるのは玉に瑕だと思う。


「ランドール・ルイ・セニアル侯爵令息。」


 そう呟いたのは、同等の爵位の子息エリオット。


「え!?あの人が、()()!?」

大学校(ここ)にいるとは、知らなかった。来賓か?」

「しー!」


 四年前のセニアル侯爵家とトゥール伯爵家の事件は、彼等の記憶にも残っている。キャロラインとイヴァンがワイワイと話すのを、リュシウォンはヒヤヒヤしながら止めようとする。その横で、エリオットが冷静に言う。


「胸のピンバッチは、教職者の物だ。…、ここで働いているんだろう。」

「「えー!!?」」


 二人が叫んだ所で、ヘンリエッタ達がこちらに気が付いた。


(バレたく無かったのに…。)


 リュシウォンは、溜め息をついてから何とも言い難い気持ちでヘンリエッタに向かって歩いて行った。

 

 ◇◇◇◇◇


「新入生がお揃いね。皆、おめでとう。」


 ヘンリエッタが微笑んで言った。彼女のそんな何気ない仕草一つ一つが、リュシウォンには堪らなく愛しい。


「「「ありがとうございます。」」」


 ヘンリエッタは、キャロラインを見るとにこりと笑った。


「お久しぶりね。キャロライン嬢。」


 その言葉に、キャロラインは目を輝かせて頬を染める。


「わ、私の事を覚えて下さっていたのですか!?」

「ええ、以前屋敷に遊びに来て下さったでしょう?貴女のお父上のウォズニ様を、王宮でお見掛けしますし。父も、お父上にはお世話になっております。」


 キャロラインの父は、王宮の騎士団長でありドラメント伯爵の部下の一人だった。


「そんな!!こちらこそ、父や兄がお世話になっております!それに、またヘンリエッタ様とお会い出来るなんて、感激です!」


 今や貴族令嬢としてよりも、先進的に活躍する女性実業家のモデルとして有名になりつつあるヘンリエッタは、国内の若い女性達からの憧れなのだ。

 興奮するキャロラインを、リュシウォンとイヴァンが宥める。そんな三人に微笑むと、ヘンリエッタはエリオットに向き直り、お辞儀をした。


「エリオット様、御入学おめでとうございます。」

「ありがとうございます、ヘンリエッタ嬢。」


 エリオットは、静かにヘンリエッタに微笑む。

 そこに、アルマが後ろから時間が押している事を伝え、それを聞いたランドールが言った。


「ヘンリエッタ、馬車まで送ろう。」


 ヘンリエッタが、ちょっと考えるその隙に、リュシウォンが声を上げた。


「私が参ります、ランドール先生。ドラメント伯爵令嬢は、自分の保護者ですので。」


 リュシウォンの急な申し出に、ランドールは僅かに目を見開いたが、手を顎に添えて考えるようにして言った。


「リュシウォン・バッセン君、だね…。新入生の挨拶は、素晴らしかった。」

「ありがとうございます。」


 二人はしばし向き合っていたが、ランドールがヘンリエッタの方を見た。


「それで、ヘンリエッタ()はどちらを選ぶの?」


 ランドールとリュシウォンから見られて、ヘンリエッタは一瞬固まったが一呼吸置くと落ち着きはらって言った。


「ありがとう、ランドール。貴方は、仕事があるでしょう?今日は、リュシウォン(新入生)にお願いするわ。」


 そうして、内心ガッツポーズのリュシウォンはヘンリエッタと馬車停まで歩くことになった。






最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

次回投稿は明日20時です。

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