再会 上
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式典を終えて、ヘンリエッタは大学校の建物から表へ出た。
学長や理事長から、お茶に誘われるのを丁重に断り待たせている馬車停までを散歩がてら大学校の敷地を大回りして歩いて行く。
(大学校の風景は何も変わっていないはずなのに、凄く遠い過去の様…。)
彼女が卒業してから五年、何ら変わりない校舎や建築施設は所々老朽化している。今回ドラメント伯爵家からの寄付金で、幾つかは修繕や改築される計画だ。
(まぁ、大学校にもあまり良い思い出は無いのだけれど。)
十歳頃まで母と領地にいた頃のヘンリエッタは、学校が無かったので家庭教師が付いていた。母が亡くなり、王都の屋敷に来れば、父のスパルタな領地経営学が待っていた。
ヘンリエッタが領地経営に踏み切り、父がメルトンを旅立った後、彼女の誘拐未遂事件が起こる。セルマンや先代のメイド長達によって、屋敷の使用人達を粛正して漸く屋敷が落ち着きを取り戻した時、ヘンリエッタは十二歳になろうとしていたのだ。
そして学科試験経て、ヘンリエッタは中等部に平均的な時期に入ることになった。けれど知り合いがあまりにも少なく、女子特有の人間関係に馴染め無かった。加えて、良くも悪くも当時のご令嬢達に人気だった幼なじみのランドールと仲が良かった彼女は、それからずっと集団から孤立してしまう。
(それにしても、ランドールが教員席にいるなんて驚いた…。)
ヘンリエッタが最後にランドールの姿を見たのは、彼をトゥール家の屋敷から助け出した時。
さきほど見た姿は、以前の眩しい様な輝きは失われていたが、あの時よりは落ち着いた穏やかな姿だったと思う。
(元気そうで良かった。)
幼なじみとしては、それだけで十分。
メルトンの学校制度は、飛び級も留年もある。貴族や裕福な平民達が十八から二十歳までに大体大学校を卒業していく。平均的な所得の平民なら、中等部までで学業を終える者も少なくない。
そんな中、弱冠十六歳で大学校を卒業したランドールの優秀さは抜きん出ていたのだ。
(彼の優秀さは、本物…。婚約や家族事情が無ければ、確実に国の中枢に残るはずの人だった。国にとって惜しい人物を、潰してしまったとは思っていたけれど。)
当時を思い返す事は、ヘンリエッタもあまり無い。懐かしくはあるが、辛いと思うものの方が多いからだ。
急な突風が、ヘンリエッタの長い髪を攫う。
乱れた髪を直していると、護衛に付いているアルマが息を詰めるのを感じ取った。ヘンリエッタが彼女の視線の先を追えば、そこには一人の男性が立っている。
ヘンリエッタは、僅かに目を見開いて震える唇から絞り出すように言った。
「ランドール…。」
相手は頷いて、柔らかく笑って言った。
「久しぶりだね、ヘンリエッタ。…アルマも。」
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次回投稿は明日20時です。




