二人のご令嬢
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メルトン大学校では、学長が講堂に集まった学生や保護者、来賓を前に壇上から粛々と式辞を述べている。
ヘンリエッタは、来賓席から在校生と新入生を見渡した。新入生の席に着いているリュシウォンの姿を認め、そして目当てのご令嬢達の姿を探す。
(いたわ…。)
例の誘いの手紙の山から、ヘンリエッタがリュシウォンの相手として目星を付けたご令嬢は二人だった。
一人目は在学生、二年生のフランソワ・フェリエ子爵令嬢。堅実な両親と弟が一人。ピアノが得意な、お淑やかなご令嬢だとトマスから聞いている。金髪に白い肌、青い瞳がお人形の様に愛らしい令嬢。
二人目は新入生、明るい赤毛が目立っているキャロライン・ウォズニ伯爵令嬢。騎士の父と兄と弟、母親は他界している。乗馬が得意で、はきはきとした活発なご令嬢。彼女は、リュシウォンと仲の良い学友の一人で王都の屋敷に遊びに来た事がある。
◇◇◇◇◇
ヘンリエッタは、リュシウォンには学生生活を楽しんで欲しいと身勝手ながら思っている。
幸いリュシウォンには、仲の良い友人が何人もいるし学校内の同性異性からの人気もある様だ。文武両道な彼の実力なら、勉強だけでも飛び級も出来るだろう。
けれど彼は、飛び級せずにヘンリエッタの領地経営を助けていた。養蚕業の急成長で彼女が手が回らなくなり、本来の領地の収入源であった農耕の管理や運営を請け負ってくれているのだ。
ドラメント伯爵は、その事について何も口出ししなかった。
(…、お父様はリュシーがお気に入りだものね。)
伯爵は、暇さえ有ればリュシウォンを連れ回っている。領地、社交場、職場と…。
(お父様が何をお考えなのかは、分からない…。いつも大事な事は、仰って下さらないし。カイエン様の事だって…。)
昨夜久しぶりに娘達と夕食を共にした父は、領地や事業に関してや国の施策やリュシウォンの大学校の話しもしたが、カイエンの話は全くしなかった。
ヘンリエッタが静かに溜め息を着いた時、リュシウォンの名が呼ばれた。彼女は慌てて、入学生代表として登壇していくリュシウォンを見る。
いつの間にか愛らしかった幼さを手放して、彼は利発で逞しい青年となったのは紛れもない事実だ。
(確かに、リュシーは優秀さだし、何より人柄が素晴らしい。領民や使用人達、皆に慕われる優しさと強さがあった。)
リュシウォンを真剣に見詰める、学生のご令嬢達から数々の感嘆の溜め息が漏れた。
(リュシウォンの婚約が決まれば、涙に暮れるご令嬢が多そうね。)
〝婚約〟という言葉に、ヘンリエッタは止まる。
(いやいや、私がリュシーの事をとやかく言える立場では無いわ。でも…。)
ヘンリエッタは、壇上で堂々と話すリュシウォンを見た。彼の言葉、一言一言はエネルギーの塊の様な力強さと輝きがある。
(リュシーが後継者になれば、領地の事は全てが安泰なんだけれど。彼には母国がある。私達は一時的に、彼を保護しているだけ…。)
と、挨拶を終えてこちらを見たリュシウォンとパチリと目が合った。その刹那、彼は優しく微笑んだ。
ヘンリエッタも、ゆっくりと微笑み返した。
が、内心ヒヤヒヤしていた。
(あざと過ぎる…!)
多くの拍手を浴びて降壇していくリュシウォンを見送りながら、ヘンリエッタは一人静かに深呼吸する。
(リュシウォンの事より、私は自分の身の振り方を考え無くてはね…。)
そう、自分の未来は未だに不確定なのだから。
そう思えば、色々と巡っていた彼女の思いは落ち着いた。
ふと、フランソワの姿が目に入った。ヘンリエッタの反対側、教員席を見ていた彼女が急にこちらを見て視線がパチリと合う。フランソワは、直ぐに会釈をして俯いてしまった。
(どういう事…?)
ヘンリエッタは、内心首を傾げつつ教員席を見て目を見開いた。驚きのあまり、声を上げそうになるのを何とか踏みとどまる。
(見間違い?いいえ、間違いない…。)
教員席からヘンリエッタが見付けたのは、疎遠となっていた幼なじみ。
ランドール・ルイ・セニアルの姿だった。
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