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異国の試練 

読みに来て下さり、ありがとうございます。


 カイエンが留学先に選んだのは、メルトンとあまり関わりの無いトボソル共和国だった。関わりが無いから、敢えて選んだという事もある。

 三男とはいえ、王族の彼。周りは警護の面もあってあまり良い顔をしなかったが、寮に入るからと押し通した。


 のだが…。


 ◇◇◇◇◇


「うわあぁぁぁぁ…。」


 空風吹きすさぶ崖の岩肌に、しがみ付いているカイエンの直ぐ横を一人が落ちていった。

 

 ビィンッ…!


 落ちていった者の命綱が、重力に逆らう音だ。命綱があるので命を落とす事は真逃れるが、単位は落とすことになる。

 だが、今のカイエンにとっては、他人事では無い。


(下は見れないな…。)


 カイエンは、トボソル共和国で大学校に入った。そして、今はサバイバル実技演習の最後、崖登りの真っ只中だった。

 サバイバル学は、この最終の実技演習の合格で単位が多く取れる科目。それまでの授業も野外でキャンプのように行われる事が多いので、校内でも男子学生に特に人気のある科目だ。


 そのカイエンが見上げた崖の上で、インク付きの綿入れを準備しているのが見える。あれに触れて、どこかにインクが付いても失格だ。

 寒さと疲労で、腕が震えてきた。


(のんびりしていられない。)


 カイエンは急いで自分が昇っていたルートから、綿入れを避けて登るルートへと修正する。

 教官の「制限時間が迫っているぞ!」という声が響いた。カイエンは投げ込まれた五、六個の綿入れを見送り、一気に頂上を目指して昇っていった。


 ◇◇◇◇◇


「頑張ったな、カイエン!」

「あぁ、ギリギリだった。」 

「ギリギリでも、合格は合格だ。」


 余裕で合格していた同級生のアンソニーに、息の上がっているカイエンは笑って頷いた。


 崖の上では、合格した生徒達と教官が集まっている。北国のトボソル共和国では、春だというのにまだまだ暖かさにはほど遠い。

 こういう時だけ、メルトン(祖国)の暖かな気候が恋しかった。


「合格者は、防寒具があるぞー!」


 教官の声が響きわたると、生徒達が箱に群がる。中には、真新しい防寒具が入っていた。


「おー!フカフカだ。」

「温かいな!」

「こんなに、柔らかかったっけ?」


 防寒具を着込んだ生徒達が話すのを聞きながら、かじかむカイエンも急いで着込む。冷たい外気が遮断され、じんわりとした温かさを感じる。

 そのまま、静かに焚き火の前に座り込んで目を瞑る。学校への帰り道もあるから、消費した体力を少しでも回復しておきたかった。


 そんな彼の周りで、先に合格して元気を取り戻した生徒達が話している声が聞こえる。


「サバナの真綿が、戦争で入って来なくなっただろ?それで、トボソルもメルトンから真綿を輸入する事になったんだ。」

「へぇ。メルトンって、養蚕が盛んだったんだな。」

「いや最近、国を上げて力を入れるようになったらしい。サバナが戦争しているから、世界中で絹製品が品薄状態だろ。上手く波に乗れたってところだな。」


 耳に入ってくる話を聞きながら、カイエンも新聞で読んだ記事を思い返す。


『メルトンより、外務大臣が使節団と来国。当国と交易を開始し、新たに協定を締決する。』


 遠く離れたトボソル(異国)で、祖国(メルトン)の名を聞くとは思いもしなかった。

 今羽織っている防寒具が、いつもより一段と温かく感じるのは気のせいだろうか。










最後まで読んで下さり、ありがとうございます。次回投稿は明日20時です。

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