プロローグ
「『危険!立ち入り禁止!』だって。」
「何でだよ。2週間前に来たときはこんなフェンスなかったぞ。」
「新しいね。」
「関係ねぇ、行くぞ。」
そう言い捨て、4人はフェンスを上って行った。
結構高いフェンスだが、運動神経の良い4人はすぐフェンスの奥へ入れた。
4人に警告するかのように風か強く吹き木が揺れて辺りがざわつく。
「行くぞ。」
今年で19歳の山口加奈は、高校で知り合い、同い年でずっと仲良くしている坂井徹平、澤野俊也、遠藤浩太の4人でこのダイブポイントへ到着した。
崖の上から海に飛び降り、スピード感と水へ飛び込む瞬間のあの感覚を体感しに来たのだ。
「結構高いな……」
「徹平、ビビってるでしょ。」
加奈が徹平をからかった。
「ビビってなんかねーよ!」
「無理するな。」
浩太が徹平の肩をたたいた。
「してないよ!」
「徹平、必死だぞ。」
俊也が加わった。
「そんなことない!」
「ほら。必死だ。」
「……うん。」
「認めるなよ。」
4人から笑いが起きた。
「お前、最高だわ!!」
「……うん!」
「だから自分で認めるなよ。」
再び笑いが起きた。
「そうだ。こんなことやってたら日が暮れる。」
浩太がみんなに語りかけた。
「そうだ。早く飛ぼう。」
「はい!私が一番先に飛びたい!!」
加奈が手を挙げた。
「別にいいよ。ね?」
俊也がみんなに聞いた。
「いいよ……別に……」
浩太が答えた。
その後、俊也が確認した。
「確認するぞ。飛び込んだら10秒以内に水面に顔を出して、Vサインをすること。」
「わかってるって。」
「わかってるならいい。」
「じゃあ、行って来るね。」
加奈のスタンバイが完了した。
そして、勢いよく崖からダイブした。
3人はすぐに駆け寄り、下を見下ろした。
……サインがない。
15秒経っても20秒経ってもサインがない。
水面にあがってこない。
……すごく嫌な予感がした。
「加奈……!」
俊也が海に飛び込もうとした。
が、浩太に止められた。
「止めとけ、警察に電話してここで待とう。」
「違うだろ!今なら助けられるだろ!!何でだよ!?何で助けないんだよ!?」
「そうだろ!!俺たちにとって、加奈はすごく大切な存在だろ!?」
浩太と徹平が目に涙を浮かべながら必死に訴える。
「無理だ。」
「お前……どう考えたっておかしいだろ!?」
「助けようとすると今度はお前らが死ぬんだぞ。もう遅い。加奈は死んだ。」
「お前……!ふざけんな!!どういう意味だよ!?」
意味が全く分からない。
「いずれ……分かるだろう。」
言っている意味が全く分からなかった。
だが、浩太がなぜか涙目になっていた。
浩太は何か大きなことを隠している。
そう容易に想像できた。
その時、サイレンが聞こえた。
徹平が警察に連絡し、今、到着したのだ。だが、様子が少し違った。
無線を持って警察と軍が通信し、軍隊のヘリが上空を飛んでいる。
警察も軍も近づいてこない。
その時、違和感を覚えた。
軍や警察が慌てている。
違和感と同時に不安も感じた。
まるで3人を責めるように風で木が揺れ、その音が辺りを包む。
何が起こったというのだ。
3人は不安で声も出なかった。
その頃、軍隊と警察側では、状況が把握できていない様子だった。
「国で指定された立ち入り禁止区域に男子3名女子1名が進入した様子です。そのうちの女子1名が死亡したと考えられます。」
「そうか。まあ、マスコミに見つかったら溺死事故として発表しろ。その方が都合がいいだろう。」
「そうですね。」
「死体は身元不明と発表しろ。アレの威力が言われている通りなら、どうせ死体は見つからないだろ。」
「……そうですね。」
その後、3人は軍に保護された。
風が葉を騒ぎ立てる木の下で……
軍に保護され、3人が小さな部屋に入れられた。
真ん中に机が1つと椅子が4つ置いてある。
部屋の角には記録係らしき者がいた。
その後、刑事らしき人物が4人に話しかけた。
「普段は不法侵入の罪で罰せられるが、今回はチャンスをやろう。」
「チャンス?」
徹平が聞き返した。
「そう、チャンスだ。君たちはあそこで何も見ていない。加奈という子は勝手にフェンス内へ侵入し、自ら飛び降り、溺死した。そう言え。」
「どういうことだ……!?」
俊也が聞き返した。
「僕たちに嘘を言え……と?」
「簡単に言えばそうなるが、君たちにはそれなりのメリットがある。」
「俺たちのメリットは何だ。」
浩太が聞いた。
「不法侵入で政府に訴えられなくて済む。あそこは国の土地だからな。それと……」
そう言い、机の下に置いてあった大きい鍵付きの鉄の入れ物を机の上に置き、鍵を開けた。
その中には札束が入れてあった。
「3人で、これだけ。」
刑事らしき人物はニヤリと笑い、鉄の入れ物を3人へ差し出した。
「口止め料ということか……?」
「そういうことになるかもな。」
「……いらない。」
「はい?……メリットいっぱいじゃないか。」
「こんなものいらない。」
「……何?」
「こんなものはいらない!!」
鉄の入れ物を机から突き落とし、3人は部屋を飛び出した。
札束が部屋中に散らばる。
3人は全力で出口まで走った。
何が起こったのかが全くわからなかった。
「どうします?」
記録係が言った。
「いいだろう。あんなガキの言うこと、まともに信じる奴なんていないだろう。」
「そうですね。」
そう言い、2人は札束を踏みつけながら部屋から出ていった。
翌日の朝、徹平が目覚め、何気なく携帯を開いた。
俊也から留守電が入っていた。
内容は
『……電話くれ。』
だった。
だが、俊也に電話するほど心がまだ落ち着いてなく、そのままにしておいた。
翌日、携帯電話の着信音で目が覚めた。
……俊也からだった。
徹平はそのまま拒否ボタンを押した。
「このままではダメだ。」
俊也はそう立ち上がり、携帯・財布と鍵を持ち、家を飛び出した。
息を切らしながら全力で徹平の家へと向かった。
チャイムが鳴った。
誰だ。
あ、俊也かも。
覗き穴に目を当て、呟いた。
「……やっぱり。」
案の定、扉の向こうに立っているのは俊也だった。
その直後、2度目のチャイムが鳴った。
話す気分ではない。
……3度目のチャイムだ。
しつこい。
…………
やっと黙った……と思った瞬間、扉の向こうから俊也が語りかけてきた。
「いるんだろう。」
応答する気はない。
「このままじゃダメだ。この事件の裏には何かある。とてつもなく大きい組織が絡んでいるかもしれない。」
何を言っているんだ。
「……俺たちは逃げてるだけなんだ!」
「じゃあ何を……何をしろって言うんだ!」
「……」
「俺はまだ何もできない。」
沈黙が訪れた。
が、沈黙はすぐ俊也によって破かれた。
「……覚えてるか?加奈と会った日、3人とも加奈に夢中になったあの日。」
「ああ。覚えてる。」
「あの日、俺たちは3人で命をかけて守ると誓っただろ。だか守れなかった。だから仇をとるんだ。陰謀を暴き出し、加奈の仇を――」
「加奈はそんなこと望んでない!」
「でも今俺たちができる償いはこれぐらいだろ!」
「……」
「行こう。」
……徹平はチェーンを外し、鍵を開けた。
俊也が
「ありがとな。」
と僕に言い、こう続けた。
「絶対に裏がある。それを突き止め、復讐してやるんだ。……まずは浩太の家に行こう。」
「わかった。」
徹平は玄関の財布と鍵を持ち、スウェットのポケットへ入れた。
そして鍵をかけ、ポケットから携帯を取り出し、浩太へ連絡しようとしたその時、
「繋がらないよ。」
と後ろから俊也が声をかけてきた。
「何でわかる?」
「何回も電話してる。けど全部繋がらない。」
「そうか……」
「……とりあえず浩太の家に行こう。」
「ああ。」
「……浩太、絶対何か隠してるよな。」
僕は浩太の家に向かう途中、俊也に話した。
「加奈が死んだときも……」
徹平の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。
隣を見ると、俊也の瞳からも涙が一筋、こぼれていた……
浩太の家の前に着いた。
隣で俊也がチャイムを押す。
……返事がない。
いくら鳴らしても返事がない。
「浩太、いるんだろ。」
俊也が浩太に語りかける。
だか、中に人がいる気配はない。
徹平は試しにドアノブを回してみる。
「……開いてる。」
「ほんとだ。……浩太!いるんだろ!!」
返事はない。
徹平は俊也に
「入るか?」
と話した。
「そうだな……」
そう言い、2人は中へ入っていった。
廊下を通り、居間へ行く。
そして、居間へ通じる扉を開けた瞬間、信じられない光景が目に飛び込んだ。
縄に吊り上げられた人間の死体。
部屋に漂う異臭。
目を剥いた見慣れた顔。
それは間違いなく確かに浩太の死体だった。
「浩太……!」
俊也が浩太に急いで駆け寄った。
そして浩太の死体がぶら下がっている縄を首からほどいた。
浩太の死体が床にするりと落ちる。
俊也はただ死体の隣で名前を呼びながら涙を流していた。
徹平の目からも涙があふれ出してきた。
その時、テーブルの上においてあるメモとキーが目に入った。
徹平は涙を拭い、メモを拾い上げた。
そのメモには
『A192』
と、
『東京都品川区西12の2の4 梶原ビル6階』
と書かれていた。
徹平は涙が止まらないままだか、俊也の目からはもう涙が出ていなかった。
俊也の目が狂気に染まっていく……
「ふざけんな……」
そう俊也が呟いたとき、メモをサッと見せた。
「何か関係があるかもしれない……」
「ああ、分かる……」
2人の心に復讐心がコツコツと湧き上がる。
復讐を心に誓った2人は浩太の亡骸をあえてそのままにし、必要な物を持ち、浩太の家から出て行った。
ポケットの中に浩太が最期に残したただ1つの手掛かりを入れたまま……
俊也と徹平はメモに書かれていた住所へ向かった。
品川駅からタクシーで約5分で、住所の場所へ着いた。
わりと大きいビルで、看板には『梶原ビル』と書いてあった。
「ここか……」
2人は目を合わせ、頷き、中へ入っていった。
中に入ると、目の前に受付があった。
が、人はいなかった。
右に行くと、エレベーターがあったが、ボタンを押しても動かなかった。
「……もしかしてコレじゃないか?」
徹平はポケットからキーを取り出した。
「やってみよう。」
上ボタンの下にあった鍵穴に鍵をさして、右に回した。
すると、エレベーターのスイッチが入り、扉がすっと開いた。
2人はすぐにエレベーターに乗り込み、6階のボタンを押した。
6階に着くと、目の前にエレベーターホールがあり、廊下につながっていた。
2人はエレベーターから降り、廊下を進んだ。
少し進むと、『極秘企画室』という部屋があった。
ドアノブは無く、自動ドアらしきドアの隣にパスワード入力用のディスプレイとキーボードがあった。
「ここ、怪しくないか……?」
「でもパスワードわからないぞ。」
「……さっきのメモは?」
「……そういえば。」
そう思い、ポケットに手を入れ、メモを取り出した。
『A192』と住所が書かれたメモ。
それを見ながら入力していく。
そして確定。
すると、ディスプレイの隣の小さなランプが緑色に光った。
その直後、自動ドアが機械音を立てながら開いた。
「開いたか。」
「ああ。」
『極秘企画室』には、デスクトップパソコンが1台と会議用の大きい机と椅子が何個もあった。
「……絶対何かが隠されている。」
俊也がパソコンの電源を入れた。
そして数秒後、ログイン画面に切り替わった。
どうやら休止状態だったらしい。
でも明らかに何日か使われていない様子だった。
だからログイン画面になっているのだ。
「パスワード、わからないだろ。」
「そうか……あ、浩太が残したメモに、意味がわからない英数字が書いてあっただろ。それは違うかな。」
「……やってみよう。」
徹平がポケットからメモを出し、パスワード入力画面に浩太が残した謎の英数字を打ち込んでいった。
そして、ログイン。
【ようこそ】
「ログインできたぞ!!」
「まて、喜んでいいのか?なぜ浩太がこのパソコンのパスワードを知っている?」
「……浩太がこの事件に関わっていたということか。」
「ああ……そう考えるのが普通だろう。」
「……だから様子がおかしかったのか。」
「そうかもな……」
沈黙が訪れた。
その数秒後、俊也が
「ごめん。……パソコンの中を見ないとそんなことわからないよな。」
と徹平に語りかけ、マウスを取り、データを見始めた。
だか、その希望はすぐに打ち砕かれた。
『極秘企画部 職員名簿』に、遠藤浩太の写真と名前、そしてプロフィールまで載っていた。
その情報は2人が知っている遠藤浩太と一致した。
「なぜだ……なぜ浩太が……」
「浩太も加奈を守るって約束しただろ……」
2人の目から涙が溢れ出してきた。
その数分後だった。
2人の目が狂気に染まったのは……
2人は『極秘企画室』のパソコンのデータ全てを目に焼き付けた。
そして最後に気になる資料を見つけた。
題名は、『A-192』。
――メモに書いてあった単語と一致する。
「開くぞ」
「ああ」
俊也は恐る恐るそのデータをダブルクリックした。
ワードのファイルだった。
『A-192海面試験資料』という見出しのほかに、やはり気になる記載があった。
実施日時が加奈が死んだ日時とほぼ一致していた。試験会場も一致。
俊也は下へスクロールした。
2ページ目には『A-192とは』と書かれていた――
A-192とは、小社が開発した一瞬で細胞を分解させる威力がある薬品(科学兵器)である。
薬品1デシリットルあたり半径約50メートルの生物などを一瞬で死滅させる。
なお、海底からA-192を2デシリットル海水に流し込み、海中の生物で調査・実験をする。
代表責任者:日本国総務 小野寺学
後援 :日本国
出資額 :5200万円
「化学兵器……何のために……?」
徹平は悪い予感がした。
そして後に、その悪い予感は見事に的中することになる……
[第1章に続く]
最後までお読みいただきありがとうございます。
是非感想、アドバイス、アイディア等をお願いします。
そして、次話の[第1章]もよろしくお願いします。